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【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
「助けて 衝動 震える手」
初めてのライブの時、舞台袖で手足の震えが止まらなかったのを覚えている。
それなりに度胸はある方だとは思うけれど、何せついこの前まで一般人だったんだ。
今思うとその初回のライブはそれほどお客さんの数が多いわけではなかったけれど、その時の俺にとってはペンライトで光り輝く光景の美しさに驚きを隠せなかった。
がくがくと小刻みに揺れる膝を、叱咤するように自分で軽く叩いた。
それでもそんなことで止まるわけもなく、呼応するように手の指先まで震えが伝う。
緊張すると人間は2種類に分かれると思う。
「ドキドキするー」と敢えて大きな声に出してそれをごまかそうとする人間と、ただ耐えてやり過ごそうと無口になる人間。
俺はどちらかと言うと後者だった。
「ないこめっちゃ震えとるやん」
緊張する、とむしろ大騒ぎしている子供組を背に、まろがそんな声をかけてきた。
悪かったな、小心者で。
いつもならそう言い返しているはずなのに言葉が出てこない。
どんどん体温が奪われるように指先は冷たくなっていく。
目の前に立ったまろが、笑いながらそんな俺の手を正面から握り込んだ。
「大丈夫大丈夫」
宥めるように言いながら、口元には笑みを浮かべている。
だけどそれもどこかぎこちなくて、俺の指先を握るまろの手に視線を落とした。
大きな手は俺に負けないくらい、リズムを刻むように震えている。
「お前もめっちゃ震えてんじゃん」
「ないこのがうつった」
「嘘つけ」
どちらかというと、多分こういう局面はまろの方が弱い。
重ねた指先は同じくらい冷たくなっていた。
男同士で手を握り合うなんて気色悪い、いつもなら揶揄してそう口にしていたかもしれないけれど、その時ばかりはそんな言葉を言う気にもならなかった。
前髪が触れ合いそうなほどの至近距離で、手を重ねたまま互いに集中するように目を閉じる。
そうしているとだんだんと震えがおさまって、気持ちが落ち着いて来る気がした。
流行りの感染症が落ち着きライブをする回数が増えても、それがきっかけになっていつしか開演前に互いの手を握るのが常態化した。
緊張をうつすように、分け合って和らげるように。
だけど多分…互いにもう気が付いている。
ライブの回数を重ねて場慣れしていくにつれ、相手の手がもうそれほど震えていないことに。
「ないこの手めっちゃ冷たい」
だけどそれに気づかないふりをし、まろはそう言って笑う。
最初は本当に他意がなかったから、周りにスタッフがいても気にしていなかった。
だけど今では舞台袖の緞帳に隠れるようにして指を絡め合う。
言い合わせたわけではなかったけれど、それがライブ前の2人だけの約束事みたいになった。
多分俺の中で、ライブ成功のためのジンクスというか…おまじないみたいなものになっていたんだと思う。
本当はもうそんな必要もなくなったはずなのに、開演直前には緊張を理由に「まろ助けて」と手を伸ばした。
困ったように眉を下げながらもあいつがどこか嬉しそうに微笑むから、深くは触れずにただ甘える。
ツアーをこなし、やがてもっと大きな箱にお客さんが来てくれるようになった。
適度な緊張はするけれど、どちらかというと今ではわくわくと胸が弾む方が勝つ。
言いようのない恐怖で震えるというよりは、高揚感と言う方が近くなった。
だからかもしれない。
心の奥底で、「もっと」なんて欲深いことを考えるようになってしまったのは。
ふつりふつりと沸き起こる衝動に身を任せて、その日俺は絡み合わせていた手を解いた。
代わりにその手を正面へ伸ばし、壁に背を預けた態勢のまろの首に腕を回す。
力をこめると、ふわりと控えめなまろの香水の匂いが舞った。
柑橘系の爽やかな香りに俺はそっと目を閉じる。
距離を詰めたことで互いに触れ合った胸の辺りからは、普段より遥かに速い鼓動の音。
それはきっと、ライブ前の緊張からだけではない気がしている。
一瞬ためらったのか、まろの手が宙ぶらりんのように空を掻く。
だけど少しの間の後、その手が俺の背中に回された。
ぎゅっと抱きしめ返されたと思った瞬間に、額に柔らかい何かが触れる。
「…っ」
驚いて顔を上げると、まろは少し得意げな笑みを浮かべていた。
してやったりと言ったところなのか、こちらを見下ろす目が意地悪に細められる。
「あれ、ないちゃんといふくんどこに行った?」
少し離れた場所から、いむの声が聞こえてくる。
「おーい」とこちらを探すような気配を感じながらも、俺はすぐそこの重い緞帳を掴んだ。
更に身を隠すようにして、まろの目を見上げる。
「もう一回してよ、まろ」
不敵な笑みを浮かべ返し、そんな言葉を告げた。
返事をする間も惜しいと思ったのか、声は返さないまままろの唇が今度は俺のそれに重ねられる。
震える手を絡ませるだけだった、本番前の2人だけのないしょごと。
それがこれからはきっと、もっと周りに秘密にしなきゃいけなくなるんだろう、なんて思った。
コメント
1件
…2人だけの内緒事!✨️✨️ライブ前はやっぱり緊張しますよねw私もそうでしたからwちょっとコメント短くてすいません!これからも頑張ってください!