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#学パロ?
44
ユイ
51
翌朝のラバウルは、夜明け前に叩きつけられたスコールのせいで、重苦しい湿気と泥の匂いに包まれていた。
けれど、雲の切れ間から差し込んできた朝日は、昨日よりもずっと鋭く、滑走路に並ぶ零戦の翼を白銀に焼き尽くしている。
「おい、速中。寝坊助の顔をしてるな。昨日のヤシ酒が残ってるか?」
ブリーフィングを終え、愛機の前に向かう僕の背中を、坂井一飛曹が容赦なくバシバシと叩いてきた。
その隣には、すでに飛行帽の顎紐をきっちりと締めた西沢一飛曹が、相変わらず無口なまま、けれど飢えた狼のような鋭い目で空を睨みつけて立っている。
「いえ、一滴も飲んでいませんから残っていません! ……っていうか、坂井一飛曹、叩く力が強すぎます!」
「ははは! 気合を入れてやったんだよ。今日の空は昨日ほど甘くねえぞ」
「速中少尉、自分も、自分も遅れずについていきます!」
僕たちの後ろから、飛行帽を握りしめて慌てて駆け寄ってきたのは、予科練出身の大石だった。
僕と年齢の近い彼は、十六歳で少尉になった僕を「天才」と崇めつつも、同じ若手としての親しみを持って必死に食らいつこうとしてくれている。
「ああ、大石さん。お互い、怪物たちの足引っ張りにだけはならないようにしましょう」
「はっ!」
「そう身構えさせるな、お前たち」
滑走路の向こうから、いつもの完璧な身のこなしで笹井中尉が歩いてきた。
その背後には、今日も絵に描いたように腰の低い宮部一飛曹と、不機嫌そうに煙草の吸殻を蹴り飛ばす景浦一飛曹が続いている。
「速中少尉殿、これ、お守り代わりに持っていきなせえ」
僕の零戦の翼の下から、油まみれの顔をした斉藤整備兵曹がひょっこりと顔を出した。
手渡されたのは、綺麗に磨かれた風防の予備ガラスの破片だった。
「斉藤さん、ありがとうございます」
「宮部さんの機体も、少尉殿の機体も、エンジンは完璧に仕上げておきました。……宮部さん、今日も無茶はしねえで、ちゃんと帰ってきてくだせえよ」
斉藤さんが声をかけると、宮部さんは深く深く、丁寧にお辞儀をした。
「ええ、斉藤さん。あなたのおかげで、今日も私の零戦は世界一安全です。必ず生きて戻りますよ」
「けっ、命惜しみの大先生が、また始まったか」
景浦が吐き捨てるように鼻を鳴らす。宮部さんはそれを気にする風もなく、今度は僕の方を振り返って、少し声を潜めて大真面目な顔で言った。
「速中少尉殿。昨日の私の言葉、覚えていますね? もし空の上で、私の後ろに敵が食いついたら、昨日と同じように『わあああ!』と叫びながら乱射してください。私、少尉殿のあの弾幕を信じて、絶対に無茶な旋回はしませんから」
「……まだ言ってるんですか!? 大石の前で変なこと言わないでください!」
大石が
「え? 叫ぶ訓練ですか……?」
と大真面目に混乱している。
「宮部、速中を困らせるな。さぁ、時間だ。上がるぞ!」
笹井中尉の鋭い号令が、滑走路に響き渡る。
その瞬間、それまでの凸凹な空気が一瞬で弾け飛んだ。
男たちの瞳に、地上での緩さは微塵もなくなり、ただ獲物を屠るためだけの冷徹な「戦士」の光が宿る。
エンジンが爆音を立てて目を覚まし、プロペラが猛烈な風を巻き起こす。
僕は操縦桿を握り締め、前を行く笹井中尉の翼と、隣で不敵に微笑む怪物たちの機体、そして必死にキャノピーを閉める大石の姿を見つめた。
この時は、ただ必死だった。
これから向かう空で、彼らが見せる圧倒的な地獄と、その中で僕の心がどうしようもなく彼らに囚われていくことなんて、考える余裕すらなく――。
「速中、遅れるな!」
「——はいっ!」
スロットルレバーを押し込み、僕たちの零戦は、眩しい朝の光が満ちるラバウルの空へと一斉に駆け上がっていった。
コメント
3件
うぉぉぉ……朝のブリーフィングシーンだけで胸熱すぎる😭💕 零戦パイロットたちの「地上では賑やか、空では冷徹」ってギャップがたまらん!宮部さんと速中少尉の「わあああ乱射」約束に思わずニヤニヤしちゃったw 大石くんの真面目な混乱も可愛いし、斉藤整備兵曹の「ちゃんと帰ってきてくだせえよ」にグッときた……次が気になりすぎる!