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二人の勢いはまるで餌を待ち望んだ猛獣のよう……。ルティとシーニャからそんな気配を感じた。おれはその機会にデーモン装備の耐久性を確かめようと思ってしまった。彼女たちからのダメージを吸収して果たしてどうなるか――と。
「――おぽげあぇっ!?」
だが今まで出したことのない奇声を最後に、おれは意識を閉ざしていた。奇声を発した後、気付けばおれは地面に倒れていた。あお向け状態のまま見上げるとそこには泣きじゃくりのルティの姿があった。
シーニャの姿は確認出来ないものの、尻尾だけ何とか見える状態だ。何となく自分の体がぼんやりと光り、軽く浮いているような感じがする。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいです……アック様、アック様ぁぁぁ!!」
「な……にを、泣いてるんだ?」
「わたしには謝ることしか出来ません~」
「もう泣かなくていいから。おれの身に何があったかだけでも教えてくれ……」
「でも、でもぉ……あのぅ~」
ルティでは話が進みそうにないな。スキュラはフィーサとどこかに隠れてるし、そうなるとシーニャに聞くしかない。それにしてもフリフリと動く尻尾が気になって仕方が無い……そう思っていたらおれは無意識に尻尾を掴んでいた。
「フギニャーーー!?」
しまった、思った以上に強く握ってしまったか。
「シーニャ、ごめんな。驚かせたか?」
「アック、ヒドイのだ! アック、責任取れ。でもアック、回復出来た!」
「回復させたことの責任は取る。とにかく、ありがとうシーニャ」
尻尾を掴まれ驚いたシーニャはすぐに顔をのぞかせた。どうやらまだ慣れていない回復魔法を使ったらしく、疲れた様子を見せている。お礼と責任も兼ねてシーニャの耳と頭を撫でてみた。
「……フ、フニャン」
「シーニャは中々可愛いな……撫で甲斐がある」
「アック、早く服を着る! 新しい服、出せ。シーニャ、先に宿に行く! ウゥゥッ!」
かなりの早さでシーニャはおれの前からいなくなってしまった。しまったな。やはり不意に撫でたのはまずかったか。
――というか、服を着ろ?
衝突された痛みは感じていないが全身が妙に軽くてスースーするんだよな。
この感覚、どこかで?
「ルティ……おれに何か言うことは?」
「え、えと、い、勢い余って破壊をですね……」
シーニャが回復してくれたのはそれのことか。といっても幸いにして真っ裸じゃない。辛うじてデーモンマントで体を包んでくれているに留まっている。
頭装備の”ヘルム”だけがすぐ近くに置き去りにされてるが、それ以外何もない。
「おれが着ていた装備を破壊したんだな? ルティ……」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!! 勢いで嬉しくてアック様を吹き飛ばして……あはぁぅぅ~」
記憶も飛んでいるのはそういうことか。ヘルムだけはLレアで、レベルもかなりのものだったからいいとしても。SSSレアでもレベルが低いものは耐えられなかったわけか。そうなると問題は装備じゃなくて、おれ自身の耐久性に問題があるということになる。
デーモン装備を出したことでいい気になりすぎた。攻撃を強くするだけでは強くなったとは言えないな。ガチャ装備はその場限りの装備でしかない可能性もあるが、状況次第でガチャをしろという意味なのかも。
「ルティのおかげで目が覚めた。だからまぁ、その……会えて嬉しいな、うん」
「ア、アック様ぁぁぁぁ!!」
「ま、待て、起きるから! 何か代わりに着れるものは――」
ここは冷静に対処しなければ。そう思っていたらルティも切り替えが早かった。
「あ! それでしたら、宿に置いてあります! ご一緒に行きましょう~!!」
「このままでか?」
「大丈夫ですよ~! この町、ほとんど男性しかいませんから~」
それはそれで心配なんだが。
マントをただ巻いただけのおれは、ルティの案内で宿に向かう。
「――何? まさかバヴァル? しかしこの姿は……」
宿に入ったおれの目に飛び込んできたのは老齢姿のバヴァル・リブレイだった。スキュラが言いたそうにしていたのはこのことだったようだ。
「間違いありませんわ。アックさまが出会ったあの時の方かと」
「白いローブは?」
バヴァルには白いローブを預けていた。しかしここにはそれが見当たらない。
「あたくしが戦った時にルティが脱がして、そのまま破りましたわ。そして魔石は破壊を……」
「魔石!? あのグルートたちが封じられていた魔石?」
「――ええ。勇者と賢者なる男の魂はすでに火口で燃やしたとおっしゃっていましたわ」
おれが到着する前に協力して戦ったから仲がいいのか。なるほどな。
「そうか、グルートとテミドは完全に消えたのか。じゃあ、聖女エドラも?」
「…………」
「スキュラ? 大丈夫か?」
何だ……?
エドラの名前を出した途端に具合が悪そうだが。
「問題ありません。聖女エドラ……だけは、不明ですわ。アックさまが預けた白いローブにより、魔石の中に仕掛けを施した可能性が……っぅう……」
何やら具合悪そうにしていて苦しそうに見える。おれと戦う前に何か手傷を負わされたのか。
「アック様! スキュラさんは、魔石をぶつけられてしまってます。その痛みが残っているのかと思うのです……」
「バヴァルが魔石を攻撃に使ったのか?」
「そう見えましたよー」
魔力消耗によるものか、あるいは呪いによるもの。ベッドに寝かされたバヴァルは生気が感じられないくらい眠っている。彼女は自分を魔法国レザンスのギルドマスターと言っていた。
どうやらあの場所に行って確かめる必要がありそうだな。
「ルティ。どこかで食事を取れるところはないか?」
「それでしたら、隣のお部屋でご用意しますっ!」
「頼む」
シーニャのおかげで回復したとはいえ、まだ疲れが残ってる。おれも一息入れないと。宿の食事では無くルティの手料理ってことになりそうだな。
「ウニャ! シーニャも取るのだ!」
「フィーサ、スキュラを頼めるか?」
「……分かったなの。イスティさま、元気になってなの!」
「助かるよ」
ルティとシーニャにやられた時はどうなるかと思っていた。しかし問題はスキュラの異変と眠るバヴァルだ。
まずは腹ごしらえして、それから考えることにする。