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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第80話:福寿草と、エゾリスとの朝の挨拶〜黄金の追いかけっこと、春を告げる花〜
北海道の厳しい冬を乗り越え、俺が山ごと買い上げた限界集落の古民家にも、本格的な春の息吹が満ち溢れていた。
早朝六時。
澄み切った冷たい空気の中に、雪解けの湿った土の匂いと、微かな植物の香りが混じっている。
シロの『適温25度の絶対防壁』は家の外周まで優しく広がっており、庭先を散歩するには最高に心地よい気温が保たれていた。
「すぅ……はぁ。やっぱり、自分の持ち山で吸う朝の空気は格別だな」
俺はジンバルにセットしたiPhone miniを片手に、庭の木々の間をゆっくりと歩いていた。
足元では、キタキツネの兄弟であるコン吉とコン次郎が、「キュゥ!」「コンッ!」と嬉しそうに駆け回っている。
「お兄さーん! こっち、こっち来てください! すっごく綺麗な花が咲いてますよ!」
少し先を歩いていた小春ちゃんが、庭の隅の大きな木の根元を指差して、パタパタと手を振った。
俺はジンバルのカメラを向けながら、彼女の元へと近づく。
黒く湿った土と、まだ少しだけ残っている白い雪の隙間。
そこから、まるで太陽の光をそのまま固めたような、鮮やかな黄金色の花がいくつも顔を出していた。
「おお……これは『福寿草(フクジュソウ)』だな。北海道に一番早く春を告げる花だ」
「フクジュソウ……名前からして、なんだかすごく縁起が良さそうですね!」
小春ちゃんがしゃがみ込み、目をキラキラさせながら黄金色の花びらを見つめる。
早朝の配信にも関わらず、すでに二百万人を突破している同接リスナーたちも、画面越しの小さな春の訪れに沸き立っていた。
『うわぁ、綺麗! 雪の中から咲いてる!』
『これが福寿草か……春が来たって感じがするね』
『マイナスイオンと花のコンボで、出勤前の心が浄化される……』
『主が山を買い取って守った聖域に、最初に咲いた花だな!』
「ええ。雪解けの水分と太陽の光エネルギーを効率よく変換し、周囲の雪を自らの熱で溶かしながら咲く……兵站(ロジスティクス)の観点から見ても、非常に自立性の高い優秀な植物です」
俺が需品科上がりの理屈っぽい解説をしていると、俺の肩に乗っていた神獣シロが、『ミャウ』と短く鳴いて、目線を上へと向けた。
カサカサッ……!
福寿草が咲いている木の上のほうから、微かな足音が聞こえた。
見上げると、太い幹をスルスルと降りてくる、小さな茶色い影があった。
「あっ! リスさんです!」
小春ちゃんが声を弾ませる。
現れたのは、フサフサの尻尾と、耳の先の長い毛(房毛)が特徴的な、ふっくらとした『エゾリス』だった。
冬を越して少しだけ夏毛に生え変わりつつあるその姿は、究極に愛くるしい森の妖精そのものだ。
エゾリスは幹の途中でピタリと止まり、つぶらな黒い瞳で、足元を見下ろした。
その視線の先には、福寿草の匂いを嗅ぎにやってきたコン吉とコン次郎の姿があった。
「おい、マズいぞ。キツネとリスなんて、大自然の法則からいったら完全に『捕食者』と『獲物』だ」
俺は咄嗟に身構え、コン吉たちを止めようとした。
いくら俺たちの聖域とはいえ、野生の掟が発動して生々しい狩りが始まってしまっては、朝の癒やし配信が完全に年齢制限付き(R指定)のバイオレンス映像になってしまう。
だが。
『キュゥ?』
コン吉が、木の上にいるエゾリスを見上げて、首をコテンと傾げた。
エゾリスもまた、逃げる気配を全く見せず、幹からピョンッと雪解けの地面に降り立ったのだ。
「えっ……?」
俺と小春ちゃんが息を呑む中、信じられない光景が繰り広げられた。
エゾリスが、タタタッ! と数歩走って、ピタッと止まる。
すると、コン吉とコン次郎も、タタタッ! と追いかけて、ピタッと止まる。
今度はエゾリスが振り返り、キツネ兄弟に向かって「チチッ」と鳴く。
コン吉とコン次郎は、嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら、ポンッとその場に座り込んだ。
それは、どう見ても獲物を狙う動きではなかった。
公園で小さな子供たちが平和に『だるまさんがころんだ』や『追いかけっこ』をしているのと、全く同じ無邪気な戯れだったのだ。
『はああああああああ!?!?』
『ちょっと待て、キツネとリスが一緒に遊んでるぞ!?』
『なんだこの童話の世界はwwww』
『ディズニー映画の実写版かよ!!』
『食物連鎖という概念が、この庭では完全に崩壊しているww』
シロの放つ絶対的な平和のオーラが、この山林を「誰も傷つけ合わない究極のサンクチュアリ」へと昇華させていた。
黄金のキツネと、茶色いエゾリスが、春の陽光を浴びながら福寿草の周りをクルクルと追いかけっこする。
その致死量を超える圧倒的な『もふもふの癒やし』に、世界中のVIPたちの財布の紐が完全に吹き飛んだ。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A miracle of spring! The lion sleeps with the lamb, and the fox plays with the squirrel! This is paradise!“(春の奇跡だ! ライオンは子羊と眠り、キツネはリスと遊ぶ! ここは楽園だ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”This pure peace… It cleanses my dirty financial soul!“(この純粋な平和……私の汚れた金融の魂が浄化されていく!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×5連発)=”Master! This is the greatest morning show on Earth!“(主よ! これは地球上で最高のモーニングショーね!)』
チャット欄は、朝から限界突破した極彩色のMeTubeギフトと、リスナーたちの歓喜の叫びで完全に埋め尽くされた。
「……お兄さん、見てください。あの子たち、本当にお友達になったみたいですよ」
小春ちゃんが、嬉し泣きしそうな笑顔で俺を見上げる。
肩に乗ったシロも、満足げに『ゴロゴロ……』と喉を鳴らしている。
だが。
俺は、ジンバルのカメラをしっかりと握り直し、元・社畜としての『感情を一切排除したフラットボイス』で語り始めた。
「……世界中の皆さま。感動の朝を迎えているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『朝からブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・食物連鎖崩壊編ww』
『さあ、この異種族間の平和な追いかけっこをどう論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、福寿草の周りでじゃれ合う三匹の小動物を背にして言い放った。
「これは、キツネとリスが仲良く遊んでいるというような、ファンタジーな光景ではありません。これは、互いの俊敏性を測るための『非接触型・適者生存シミュレーション』です。エゾリスは己の回避能力をテストし、キツネたちは動体視力と制動距離を測っている。ええ、あくまで厳しい大自然の生存戦略に基づく、高度な軍事演習(ウォーゲーム)の一環に過ぎません」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、両手を腰に当てて、朝からキレッキレのツッコミを見舞った。
「軍事演習で『だるまさんがころんだ』をやる野生動物がどこにいるんですか!! どう見たってシロちゃんの平和な結界の中で、春の陽気に誘われて一緒にお友達ごっこしてるんでしょうが!! 素直に『可愛い』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんのモーニング正論パンチ!!』
『非接触型・適者生存シミュレーション(鬼ごっこ)』
『高度な軍事演習(だるまさんがころんだ)』
『適応力バグおじさん、ついに生物の生態学まで完全に歪める』
『言い訳が無理矢理すぎて今日も飯が美味いww』
俺の理不尽極まりない生物学的な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎるツッコミに、二百万人の視聴者たちは朝から腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(春の演習、合格ね)』
シロが、俺の肩からピョンと地面に飛び降りると、追いかけっこをしていた三匹のもとへ歩み寄った。
すると、コン吉もコン次郎も、そして野生のエゾリスまでもが、シロに向かって敬礼するようにペタンとお辞儀をした。
「……まぁ、理由はどうあれ。平和な朝なのは間違いないな」
俺は苦笑いしながら、春の温かい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
俺が全財産を投じて守り抜いた、この限界集落の聖域。
雪の中から力強く咲き誇る黄金の福寿草のように、元社畜と神獣、そしてたくさんの動物たちのバグったスローライフは、これからの季節も、最高に温かく、そして笑顔に満ちたまま続いていくのだった。
コメント
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おはようございます、寺島あおいです🌷 第80話、春の訪れと共に本当に温かい気持ちになりました。福寿草が雪を溶かしながら咲く描写、そして何よりエゾリスとキツネたちの追いかけっこ…シロの結界の中で「だるまさんがころんだ」をする姿に、思わず頬が緩みました。主さんの無理矢理な「軍事演習理論」と小春ちゃんのキレキレツッコミ、この掛け合いが毎回大好きです。朝からこんなにも平和で愛しい光景を届けてくださって、ありがとうございます。これからの季節、さらに賑やかになる聖域が楽しみです🍀