テラーノベル
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「今日も暑くていやだね~」
そう思わない?と赤城が問いかければ、隣には座る少年は律儀にアイスを食べていた手を止め、こちらと目を合わせる。
「僕は、暑い方が好きです」
視線の先、公園の中央では佐伯と子供たちが遊んでおり、なんの遊びなのかは理解できないが、駆け回っていた。
佐伯の怒号と子供たちの笑い声につい頬が緩む。きゃらきゃらと笑う姿は太陽にも負けていない眩しさである。
そろそろ代わってやらないとテツバテちゃうな、とも考えながら日陰のベンチに座っていた男の子が初めて相槌以外の反応を示してくれたので、体を彼の方に向ける。
心の中で、テツにはエールを送っておいた。
「へぇ、暑い方が好きなんだ。なんで?」
もう少し仲良くなれたら、と質問してみたが、少年は視線を落として固まった。
ちょっと難しいか?と思い、まあアイスとかスイカとか美味しいもの多いもんね~と独り言のように話す。
少年の反応を少し待ってみると、小さいが芯のある声が聞こえた。
「……だって、氷が溶けるから。」
「…氷?」
瞬間、グワリと熱風が頬を殴る。揺れた前髪に視界を遮られ、目を細めた。
少年を見る。分厚いレンズの奥の瞳は、先程のような固く真面目に冷められたものではなく、子供らしいギラギラとした熱を持っていた。それから目が離せなくて、時間が止まったように動けなくなる。
「氷が溶けたら、恐竜が暴れだすんだ。」
動かない赤城の手から、食べかけのアイスの欠片が溶け落ちる。ボタッと音をたて、地面に甘いシロップが染み込んでいく。
蟻たちがそれに群がって、ソーダの青色が真っ黒に塗りつぶされた。
「うんうん、やっぱり小学生男児といえば、恐竜かドラゴンだよなー!」
一人、納得したような声をだし頷く佐伯の声で意識が戻る。
まだふわふわとしている頭で周りを見渡せば、ここがショッピングモールで、その中のランドセルやら筆箱やらが並ぶコーナーに赤城は立っていることがわかった。
頭上には〈にゅうがくおめでとう〉という文面と桜のイラストが描かれた垂れ幕が目に入る。
そうだ、テツの知り合いの息子さんの入学祝を買いに来たんだった。
そこまで思いだし、ようやく茹だるような暑い公園の記憶から春風が吹く桜の季節へと思考が切り替わった。
隣で懐かしいなーなんて笑っている佐伯を見て、つい頬が緩む。なんせ言ってしまえばこれはデート、それが例え知らない人の子供の入学を祝うものを買うだけのショッピングでも、想い人と二人で買い物という時点で赤城の中では立派にデートとなりえた。
そう、赤城ウェンは佐伯イッテツを好いている。もちろん、LOVEという意味で。
その気持ちに気が付いたことに、特にキッカケなんてなかった。最初はただ自分の手料理を美味しそうに食べてくれる姿が嬉しくて、可愛いな~なんて子供とか小動物を撫でる感覚で見ていた。
暑くても子供たちの遊びに嫌な顔せず付き合ってやったり、見回りの時点で少し体調が悪かった僕を日陰のベンチに座らせてアイスを食べさせてくれるところとか、当たり前みたいに隣の少年にもアイスの味を選ばせてあげるところとか。
太っ腹だな、と思った帰り道には「あ!煙草買うお金まで使っちゃった!」なんて笑うところとか。
なんかそういう、日溜まりみたいな暖かさに気が付けば恋していた。
真っ白な肌につんとした鼻と長いまつげが目立つ横顔を見れば、あ~好きだなってなるし、鋭い八重歯を見せながら豪快に笑ってくれればこっちまで嬉しくなる。
最初は少し驚いたりはした。僕って男もいけたんだ、とかOriensとしての活動大丈夫かなとか。
けれども、テツのことを思い出せばそんな悩み事全部消えた。まあいいか、一緒にいるだけで幸せだし、と即解決。
これは随分惚れてるな~と再確認した。
「テツ~無難なのにしときなよ~?」
「分かってるよ!流石に知り合いの子供だしね」
そういい、テツがニコリと笑う。それだけで僕は体温が上がった気がするんだから、重症である。
目の前の黒猫は、そんな僕に何も気がついていない様子で文具コーナーへと歩き出す。こんな想い伝えるわけがないのだけれど、もしも伝えたらその文具と同じくらいには真剣に考えてくれるかな、なんて馬鹿なことを考える。
考えて、自分で驚く。本当に頭が沸いてしまったのだろうか。そんなこと言われても彼が困るだけだろうに。浮かれて思考がアホになってるんだな、と結論付けて前を歩く彼を追った。
「なにみてんの?」
右隣から話しかければテツはん~とだけ言って商品をずいっと近づけてきた。
なるほど、恐竜柄の文具一式のようだ。
鉛筆や消しゴムが入っている。お子さんはわんぱくな男の子らしいから、文房具なんていくらあってもいいだろう。
もう片方の手には宇宙柄の同じものが握られていたので、先程の唸りは柄で迷っているのだと推測した。
「……恐竜にしたら?」
気付けば、ぽろっと口から漏れ出ていた。
それでもテツは「えっ、すごいウェンくん。迷ってるの分かったんだ」なんていうから、少しつまらなくてちょっとトゲトゲとした声になってしまう。
「こないだ、その知り合いの人と一緒に恐竜のテーマパーク行ったって言ってたじゃん」
きっと息子にも恐竜の話してるよ、そう自分の考えを告げると、テツは文房具に向けていた顔をパッと上げて、ウェンくん天才!なんて言う。なにかに拗ねていた自分が恥ずかしくなって、レジに向かうテツには着いていけなかった。
「は~~~……」
エスカレーターの近くにあったベンチでテツのレジが終わるのを待つ。
何か今日うまくいかないな~と今日一日を思い返して辛くなった。心臓がギシギシと音をたてているようで、浅い呼吸を繰り返す。
気を紛らわそうと周りを見ると、やはり人気なようで、 何かしらの恐竜と目が合い、また嫌になって項垂れた。
下に落ちた視界に、真っ黒な塊が映る。
「……っえ?」
しかし、一つ瞬きをするとただの白いタイルへと戻っていた。目を擦り、確認してもそれは変わらない。
そのうちテツが帰ってきて、疲れてんのかなと思いながらも彼と一緒に帰路に着いた。今回のデートは変だったな、とか片想いの反省会を繰り広げながら、夕日でオレンジに染まるテツを見る。
濡れ羽色の髪に、蜜柑色の光が混ざって隕石みたいだなと思った。それをみて頬を桜色に染める哀れな片想い野郎を太陽だけが笑っていた。
けれど、浮かれて歩いたその日から、日々の生活に異変が起こった。
あるときは、耳元でアイスが落ちるべちゃっという音が聞こえてシロップが染み込むみたいに体が冷えていったり
あるときは、肌を焦がすような暑さを感じて寝付けないかと思えば手を伝うベタベタとした液体の感触があったり
あるときは、頭の中で響くようにして子供たちの笑い声が聞こえたりした。
それが起こるのはいつも決まって僕が一人の時だけで、その異変に足を抱えて踞ることで耐えてきた。桜の日にも感じた、あのふわふわとした感覚。頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。ぐちゃぐちゃと、思考が塗り潰されるようなそれに、目をきつく瞑った。
異変が、暑くてどうにかなりそうだったあの日を再現しているのだということに気がついたのは結構早い段階だった。
テツの優しさを覚えていたこともあったが、あの少年の言葉が強く印象に残っていて、活動初期のころの出来事なのに忘れることができないでいた。
「……氷が溶けたら、恐竜が暴れだす、か」
桜が散り、最近はじわじわと暑くなってきた。風を取り込もうと窓を開ける。ふと空を見れば、真っ赤な太陽が沈みかけていた。遠い遠いところから、何かの咆哮が聞こえた気がした。
「…. ..ウェン、何か隠しとるやろ」
拠点でいつも通りお酒を飲んでいれば、珍しく一緒に飲むと言ったマナからそんな
ことを言われた。ドキリ、と心臓が跳ねる。
そうだった。いくら彼らの前では異変が起きないとはいえ、気は張りつめたままだし、そうしたら当たり前に疲れるから心配をかけるのも分かることだった。
Oriensはそういうところに目敏いんだよな~と思いつつ、自分でも疲弊している自覚があるのでなにも言えない。
「別に、無理に言えとはいわんけど、何かあるならなんでも頼ってや」
酒に任せてでも、なんでもええから。そうマナは続けた。つくづく良い仲間をもったな、と思う。心配そうに見つめるマナに何か返そうとして口を開いた。
瞬間、背中がゾワリと冷たくなる。
「……ウェン?」
マナの蜂蜜色の瞳が揺れる。心配はかけさせたくないのに、口を開くことができなかった。そんな僕をみて、マナはわざとらしく水を取ってくるといって席をたった。
僕はまだ、動けないでいた。
グラスに映った、鋭い大きな歯と血のように赤い分厚い舌。自分のものであるはずのそれが酷く恐ろしく思えて、思わず閉めきるようにして唇の裏を噛んだ。
尖った歯は容易く皮を突き破り、口のなかに鉄の味が広がる。
きっと、こんな歯なら細身の人間くらい簡単に喰えてしまう、細くて白くて猫のような彼ならば。
「ちがう!!!」
自分の思考が受け入れられなくて、腕に爪を立てる。痛みで正常な思考に引き戻された脳はどくどくと熱を持つ。
いま、今何を考えた。何を思った。
「だめ、だめだ…ちがう、違うぼくは」
突き立てた爪も、鋭いことに気がついてしまって、もうどうにかなりそうだった。
〈ごめん、今日は帰るね〉
マナにメッセージを送って、カバンにスマホだけ突っ込んで拠点を出る。部屋に大学の課題を置きっぱなしだったけれど、もうどうでもよかった。
ただ、彼らから離れることに必死になって無我夢中で走った。こんな爪じゃ、こんな歯じゃ皆を傷付けてしまう。走っている途中、見慣れたオレンジ髪に声をかけられた気がしたが、無視して走った。
人気のない道を走って、走って、走って
ぐんぐん上がるスピードに身を任せ、額を刺す風もお構いなしに足を動かす。
ふいに、ピラリと頬の絆創膏が取れた感じがした。しかし、感じると思っていた風の冷たい感覚はなく、何か強烈な違和感がそこにあった。
嫌な予感に、足を止める。今ばかりは間違っていてほしいと思うが、僕はそういう勘だけは昔から鋭かった。
恐る恐る、頬に触れた。表面がざらついていて、固い感触がある。指を滑らせれば細かい段差があることに気がついた。
「……あは、うっそお… 」
鱗だった。ゴツゴツとしていて、肌にしっかりと引っ付いていた。
なんだ、なんだそれは
これじゃあまるで
「恐竜みたいだ」
地を裂くような咆哮が、自分の喉から発されているのが分かる。血液が沸騰しているような熱さを感じて、目の前がグラつく。
「恐竜が暴れだす」
少年の声がいつまでも脳内で響いていた。
フラフラと歩いていた、そのとき
ドガン!!!という何かが落っこちてきたような大きな音が聞こえて、そちらに目をやった。遅れて、ブワッと熱風が押し寄せる。
立っていられないほどの振動をたたらを踏んで、異常事態にこうしてはいられないと変身デバイスを手に取った。手につけて、ほぼ無意識に呟く。
「変身デバイス起動、変身」
いつもよりも体がすごく軽いのに、頭は何も動かなくて、変な感じがする。
速く速く、と足を踏み込むとアスファルトに小さくヒビが入った。知らんぷりして 走り出す。なんだか気分が良かった。
かつてないほどの高揚感と、メインディッシュを前にしたときのような空腹感。
期待する胸を必死に落ち着かせながら、現地へ急行した。
本当に体の動かせるスピードや、出来ることが大幅に増えていて、現場には一瞬で着いた。すごいすごい!と子供のようにはしゃぐ。
見れば、デバイスが示した先程の音の地はテツの大学と近かったようで、テツは先に何かと戦っていた。テツに会えた嬉しさでブンブンと動くしっぽを隠すように、大剣を構える。
テツが戦っているものは、なんだかよくわからなかった。黒と白のちっちゃいのがふよふよしている。でも、テツが戦っているから敵なんだな、と考え僕もそいつらを叩ききった。
こんなちいこいやつらじゃ、大剣はいらないなと思って、蹴ったり爪で引っ掻いたりして倒していく。黒白おちびは何故か困惑したような目でこちらを見ていたけれど、関係ないのでぶっころした。
辺りがしん、となってあらかた片付けたことを知る。
「ウェンくん!」
「てつ!!!」
テツが遠くから手を降ってきていた。
それをみて、パッと顔が明るくなる。
いっぱい倒したよ!凄いでしょ!と伝えて褒めてもらいたくて駆け寄ろうとした。
頭上に、大きな影が落ちた。
バッと目を向ければ、そこには大きな黒い塊があった。黒と白の、いやちがう。
「……隕石だ」
隕石はまるくて、くらくて、あつくて、全部ぶっ壊していくやつだ。
どうしよう、どうにかしなくちゃいけないよね、ねえてつ
テツなら分かるかも、と思って視界の端の彼に語りかける。でも、次の瞬間にその黒い影は倒れた。
テツから、ドクドクと血が流れてでていく。真っ赤な水溜まりが出来ていて、テツの瞼はピクリとも動かなかった。
「……は?」
攻撃?見えなかった、うそだ、色んなことが頭を回る。心臓がバクバクして、血管が破裂しそうなくらい肺を動かす。ハッハッと短く繰り返す息に混乱が加速して、ぐるぐる回っていた思考が完全にストップした。
隕石を目の前に捉える。体が、心がまるで燃えるように熱かった。
全身の鱗がビキビキと逆立って、構えた大剣の持ち手が壊れるパキッっと軽い音がした。
瞳に隕石しか捉えられなくなって、鋭かった瞳孔がひらいていく。
アイスブルーの氷のような瞳が溶けて真っ黒に塗りつぶされた。
隕石に向かって、大剣を振り下ろす。
見えない攻撃は僕にも襲いかかってきたが、第六感が開いたんじゃないかってくらいに感覚が研ぎ澄まされていたのでギリギリ避けることができた。
相手は隕石だ。加減なんていらない。敵なんだ。こいつはテツを傷つけた。
「倒さなくちゃ、ころさなくちゃ」
好き勝手メチャクチャに動いていると、隕石に大きな穴が開いた。大剣をみるとシュゥゥ、と白煙があがっていたので僕がビームをぶっぱなしたんだと思う。
こんなにでっかい的は初めてだからその手応えに口角が上がる。
「……っふっあはっあははははは!!」
全身がマグマみたいに熱くなって頭がくらくらする。でもすごくすごくハッピーで世界がキラキラしてみえた。
隕石を大剣で切って割って爪で引っ掻いて足で踏んづけて殴って抉って砕いてぶっ壊していく。
己の中の破壊衝動が満たされていく感覚に酔いしれてもっともっとと体を動かす。
もうなにも考えたくなかった。自分が誰なのかも、少年のことも、テツへの気持ち悪い感情も全部頭から吹っ飛ばしたかった。
でも妙に手離したくない気持ちもあってその矛盾した考えにどこかにある心がズキズキと痛む。
その苛立ちを隕石にぶつけて、また走った。隕石に跳びのって、脳天と思われる場所に刃を突き立てる。深く、深くねじ込んでから、持ち手にぴょんと乗っかる。テコの原理みたいにして隕石は抉れてぶっ飛んだ。パラパラと欠片が頭に降ってくる。
少し待っても、二度と攻撃が飛んで来ることはなかった。
「……たおした」
たおした、たおした、たおした!!!
ほら、こんなもの怖くないっていったじゃんか!僕が倒して見せるって!皆逃げなくても良いって!僕が、まもってあげるから
だって、恐竜が一番つよいんだから。
「……あれ」
突如として世界がグラリと揺れた。まずい、と思ったときにはもう遅くて、体がブレて隕石から落っこちていた。
受け身をとろうとしても筋肉の動きがロックされたみたいに、指一本も動かせない。頭がガンガンして、さっきのハッピーな気持ちが消え失せる。吐き気と疲労でどうにかなりそうだった。このまま頭から落ちて、僕は死ぬんだと思った。
「ウェンくん!!!」
走馬灯はなしか、と落胆したそのときボロボロの黒猫が僕を受け止めた。駆けてきた勢いのままに何度か転がる。
動かない体を強く抱き締められて、初めてその黒猫が人間だということを知る。
いや、にんげんってなんだよ
自分の頭に僕が二人いるみたいで、その不快感が体に広がる。息が苦しくて咳をしたらゴポッと音がして赤色が溢れた。
あかいろは死のいろだ。かぞくも隕石もまっかだった。
うるせーな、家族って誰だよ。
二人目のお喋りに苛立ちが募る。今暴れられないことが酷く憂鬱で空を見上げた。
黒猫と目があった。
ちがう、人間の男だ。濡れ羽色の髪とアメジストの瞳がキラキラとオレンジ色に光っている。綺麗だな、と思った。まるで夜明けの空みたいな暖かさがある。
でも、その瞳が涙で濡れてしまっていてそこが凄く残念だった。
君だけは泣かせたくなかったのに
「ウェンくん……」
ポロポロと大粒の涙を流す姿に可哀想だなと思った。けれど、男前が崩れて可愛いなっていう自分もいる。
ゆるい春風が、頬を撫でていく。
そうだ、案外ベタ惚れなんだった。
……誰に?
「ウェンくん」
「……テツ?」
掠れた声で名前を呼ぶ。
するとテツは目を真ん丸にしてうんっと返事をした。また一段と強く抱き締められた。
「ウェンくんっうぇんくんっ!」
わあわあと大声で泣き続けるテツの瞳からオレンジ色の空を飲み込んだ涙が止めどなく流れる。それをぬぐってあげたいのに、生憎今の僕にはハンカチもなければ動かせる腕もない。
視界がぼやけて、テツの輪郭が夕焼けと曖昧になっていく。
遠くから、マナとリトの声が聞こえた。
その響きに一気に安堵が押し寄せて、肩の力が抜けていく。ゆるゆると固かった表情が和らいで口角があがる。
アイスブルーの瞳が、三人の色を映した。
恐竜の声はもう聞こえず、騒ぐ仲間たちの声だけが鼓膜を揺らす。僕を心配してくれた蜂蜜色の彼となにも言わないでいてくれたオレンジ色の優しいやつ、そして好きな人。
愛する仲間たちの暖かさに誘われて、眠るように意識を飛ばした。
次に目が覚めたとき、僕はコンクリで固められた閉鎖的な部屋に閉じ込められていた。ま~ずいか?と一瞬焦ったが、すぐに真っ白でふかふかなベッドがある病室に移される。
どうやら、僕がまた暴れだす可能性があったため念のため拘束していたそうだ。
あまり覚えてはいないが、僕が隕石_だと思っていたCOZAKA-C_を倒していたとき、周りの建物は半壊していたらしい。流石にヒーロー協会や僕担当のマネージャーなどに怒られる、なんならヒーロー免許取り消しか!?なんて嫌な想像をしたがそうはならなかった。
そのかわり、僕の前でなんか偉そうな人が頭を下げて謝罪していた。その人は自分はヒーロー協会技術部の者だと名乗った。
「まず、状況説明をさせていただきます。」
それから長々と余裕がない喋りで専門的な話をされたが、要約すると
「恐竜型デバイスの暴走?」
問いかければ消えそうな声ではいと返された。つまりはそういうことらしい。
東のヒーローが持つデバイスにはそれぞれの力の元になった動物がいる。
リトは麒麟、マナは蜂、テツは黒豹。
そして、僕は恐竜であった。
デバイスは古代の遺物の謎からくりを東の最先端技術を用いて調整し直しているものである。そのため中身は不明な点が多く、日々研究が行われていた。
そんなときに、僕のデバイスが暴走した。
それは何故か、と聞いても技術者の人は首を降って答える。技術部のほうでも、結論が出ていないらしい。しかし、と 声を潜めて続けた。
「これは一技術者としての見解に過ぎないので、あまり大きな声では話せないのですが……」
「僕は、赤城さんの血とその意思にデバイスが答えようとしたのではと考えています。もちろん、都市の破壊は望まないものだったとは分かっています。」
「……リンク」
技術者は頷く。
なんていうかさあ、リンクし過ぎちゃうんだよね
なにかのゲームをしながら言ったテツの言葉を思い出した。
「その結果、デバイスの侵食が起き、本来はそれを拒絶するはずの体がリンクしたことによって、僕らが設計したロック装置に通知がいかなかった。」
「……警告音すらも流れなかった。」
言い切り、技術者は頭を下げる。最後の言葉はヒーローを技術の面でサポート出来なかった悔しさから出たような響きだった。
目を閉じて考える。
恐竜の血が薄く流れている僕に、恐竜デバイスが渡る。そして、遥か昔の恐竜と僕の意思がリンクした。どんなに天文学的な確率だろうか。
仲間が大好きだから、でっかいなにかから守りたい。
あのときは、それしか考えていなかった。恐竜も、そうだったのだろうか。
東は随分と技術が発達した。その地に、いやこの星にだってもう恐竜はいない。恐竜は白亜紀には隕石によって絶滅している。隕石なんていうものから仲間を守ることは不可能だったのだ。
しかし、それでも守りたかった。
その意思があのスピードを、あの熱を発生させて僕はCOZAKA-Cを倒すことができた。
黒猫が、テツが生きていると分かったとき胸を張った恐竜がああ疲れた!という風に消えた感覚があった。デバイスの装置に戻ったのだろう。あれ以来僕は恐竜の声を聞いていない。
「……僕は、まだヒーローを続けられますか?」
ずっと思っていたことを口に出す。
思わず、といったように技術者が顔をあげた。真っ直ぐな瞳と目があった。
「その、手伝いがしたいのです。僕たちにもう一度貴方のヒーロー活動を支える許しをもらいに来たのです。」
今度は僕が呆ける番だった。強い信念を持った人の言葉は一度に受けとるには大きすぎる。凄い人たちに支えてもらいながらヒーローをやっているのだ、という重みを感じて姿勢を正した。
「じゃあこれからもよろしくお願いします!僕、暴走しないであれくらいのパワー出したいです!」
ドッカーンなんて銃を打つマネをすれば、技術者の人は少し笑って、じゃあこちらも頑張らなくてはいけませんねと言った。
あれからもう一度検査をして、なにも問題がないことを確認し、病室へ戻された。
病室に一人きりだったが、やはり恐竜の声も異変もなにも起きなかった。
それは嬉しいことなのだろうが、一度混ざりかけたからか少し寂しい気もする。
ぼーっと窓の外を眺めていると、バタバタと騒がしい足音が近付いてきた。思わず笑い声が漏れる。
「ウェンくん!!!」
予想道理、勢いよく扉が開けられた。後ろから小走りで着いてきているマナが落ち着け!と叫ぶ声が聞こえる。
「お~テツ~マナとリトも!来てくれたんだ!」
「おう、来ましたよ功労者を称えに」
そういったリトからこれお見舞い品ね、と可愛い猫の包装のクッキーを渡された。選んだのはマナかなと当たりをつける。
「え、功労者?」
クッキーをそれぞれに渡してから、猫を避けて包装を開ける。それから、さっき言われた言葉に疑問を返した。
それを受けたリトはダメだこりゃとでも言いそうな顔でクッキーにがっつくキリンちゃんを撫でる。
「あのねえ、お前が倒したCOZAKA-C、あれ全然都市避難勧告レベルの敵よ?」
それを功労者と言わずに、何て言うんだよ。
大きくて暖かい手のひらで背を叩かれる。それを邪魔する尻尾はもうなかった。
「お前がいなきゃ、大勢の人たちが死んでた。それを一人も犠牲を出さずに倒したんだから、お前はすげえかっこいいヒーローだよ。」
「そうやで、ほんまアホやなあウェン」
マナが僕の手を包むように手を重ねた。大事に思っていることを隠しもしない声色がむず痒くて、ゆるくカーブした爪で自分の手を引っ掻く。
「建物の一個や二個破壊したところでどうってことない。それでヒーローやめさせられるんなら俺たちが許さへん。」
重ねられた手に力が込められる。
「だから、これからはもっと頼ってくれ…」
押し付けはしないが、祈るように言われた言葉にはごめんとしか返せなかった。
それすらも彼は受け入れて、困ったように笑うものだからいたたまれない気持ちになる。
「……ウェンくん」
弾丸のように病室に入ってきてから、一言も話さずベッドに頭を押し付けていた彼に名前を呼ばれた。
「よかった、僕、ウェンくんが戻ってきて本当に良かった」
弱々しく掠れた声で、良かった良かったと繰り返す。そのまま、確かめるように僕の頬に触れた。冷たい指がさらりと肌の上を滑る。
「ウェンくん、守ってくれてありがとう。」
「おかえり、ウェンくん。」
心底安心したという顔をして、テツが笑った。ゆっくりと手を動かし、流れ落ちる涙を拭う。
「無事なら良かった、ごめんねありがとう」
「ただいま、テツ」
そう言えば、またテツは唸ってから泣き出してしまったので仕方なくクッキーを餌付けする。もぐもくと口を動かすので、食欲はあるんかいと笑ってしまった。平和だな、と思う。
なあ、恐竜よ。赤色は嫌だよね、赤色は怖いよね。分かるよ。
目元真っ赤にして泣いてくれる好きな子がいるんだ。顔が赤くなるくらい笑ってくれる仲間がいるんだ。
だから恐竜、これからも力を貸してほしい。ちっぽけな僕が大切な人たちを守れるように、いつか隣で頬を真っ赤に染める彼が見られるように、これからも戦っていくんだ。僕と一緒に大剣を握って、あんな白黒COZAKA-Cなんて倒しちゃおう。
だって、僕たちは強いんだから。
空を見た。雲一つない青空が広がっていた。夏の足音が近づいてくる。今年もきっと暑くなるんだろう。夏バテ対策をしないとな、と考えた。
暑くなったら、テツにアイスを奢ってやろう、とも。
コメント
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短いですが、あらすじの欄に読了後推奨のお話があります。 良ければそちらも読んでいただけると嬉しいです🙌 本編を読んでくれた皆様、一万字の拙い文を読んでくださり本当にありがとうございました💭💞