テラーノベル
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🎧続編「交差するリズム」
最初は、ただの偶然だった。
ライブハウスのブッキングが、被っただけ。
琉夏「……また?」
楽屋のドアを開けた瞬間、思わず声が出る。
奥の椅子に座っていたのは、見慣れた姿。
冬星「……多いな」
ギターをいじりながら、ちらりと見る。
それだけ。
でも、少しだけ空気が緩む。
それから。
一回じゃ終わらなかった。
別の箱でも、また会う。
対バン。
イベント。
フェスの小さなステージ。
意図していないのに、やけに被る。
琉夏「……これ、誰か仕組んでねえ?」
冬星「さあ」
適当な返事。
でも。
前より、会話は増えていた。
ある日。
リハ終わりのステージ袖。
他のバンドの音を、並んで聞く。
琉夏「……最近どう」
ふと、聞く。
昔なら聞かなかった質問。
冬星は少しだけ考えてから。
冬星「まあ、普通」
曖昧な答え。
でも。
その“普通”が、少しだけ分かる。
琉夏「そっか」
それ以上、深くは聞かない。
聞かなくてもいい距離。
本番。
先に出るのは、琉夏のバンド。
ライトの中で、音を鳴らす。
ちゃんと届く音。
整っていて、強い。
でも。
演奏しながら、ふと視界の端に入る。
ステージ袖にいる、冬星の姿。
(……見てる)
その事実だけで、少しだけ集中が変わる。
いつもより、ほんの少しだけ。
音に“癖”が出る。
意識してないのに。
ライブが終わる。
拍手の中で、ステージを降りる。
袖に入った瞬間。
冬星「……さっきの」
声が落ちる。
振り向く。
冬星「ちょっと外しただろ」
的確すぎる指摘。
思わず笑う。
琉夏「分かるかよ」
冬星「分かる」
即答。
そのやり取りが、妙に自然で。
少しだけ懐かしい。
次は、冬星の番。
客席から見る。
ギターの音が鳴る。
相変わらず、少しだけ歪んでいる。
でも。
前より、整っている。
ちゃんと“選んで”外してる。
(……いいじゃん)
小さく思う。
悔しいくらいに。
ライブ後。
外で、缶コーヒーを片手に並ぶ。
昔みたいに、長く話すわけじゃない。
でも。
沈黙が苦じゃない。
琉夏「……なんかさ」
ぽつりと落とす。
琉夏「最近、やりやすい」
自分でも意外な言葉。
冬星が、少しだけ目を細める。
冬星「なにが」
琉夏「音」
短く答える。
少しだけ間。
琉夏「多分、余計なこと考えなくなった」
あの頃みたいに、縛られてない。
でも、完全に切れてもいない。
その距離が、ちょうどいい。
冬星は、少しだけ頷く。
冬星「……俺も」
小さく返す。
それだけで、十分だった。
数週間後。
また同じイベント。
リハ終わり。
ステージに、誰もいない時間。
琉夏「……ちょっとだけやる?」
軽く言う。
冗談みたいに。
でも。
ほんの少し、本気。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「いいよ」
あっさり頷く。
誰もいないステージ。
客席も、空。
ライトもついていない。
ただの空間。
そこに、音が落ちる。
ギターが鳴る。
ベースが重なる。
──久しぶりに、自然に混ざる。
でも。
あの頃みたいに、飲み込まれない。
ちゃんと、自分のまま。
それでも、繋がる。
(……あ)
思わず、息が漏れる。
ちょうどいい。
近すぎず、遠すぎない。
この距離。
曲が終わる。
少しだけ笑う。
琉夏「……なんだよこれ」
冬星「さあ」
相変わらずの返事。
でも。
少しだけ、柔らかい。
琉夏「また、やるか」
自然に出る言葉。
今度は。
“縛り”じゃない。
ただの提案。
冬星は、少しだけ間を置いてから。
冬星「……別に」
曖昧な肯定。
それでいい。
約束しない。
でも。
続く。
音が、また少しだけ重なり始める。
でもそれは、もう──
“依存”じゃない。
ただの、“選んだ関係”だった。
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