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🎧短編「夜中のコンビニ」
深夜二時。
コンビニの自動ドアが、静かに開く。
琉夏「……さむ」
パーカーのフードを少しだけ引き上げながら入る。
ライブ終わり。
打ち上げもほどほどに抜けて、なんとなくここに来た。
いつも通り。
──の、はずだった。
ドリンクコーナーの前で、見慣れた後ろ姿がある。
少し伸びた髪。
無駄に細いシルエット。
(……またかよ)
小さく笑いそうになる。
琉夏「遭遇率どうなってんだよ」
声をかける。
振り返る。
冬星「……そっちこそ」
いつも通りの反応。
それだけで、ちょっと安心する。
適当に飲み物を取る。
レジに並ぶ。
どっちからともなく、外に出る。
コンビニの前の段差に、なんとなく座る。
夜は静かで、車も少ない。
琉夏「今日、見てた?」
缶を開けながら聞く。
冬星は、少しだけ間を置いて。
冬星「途中から」
相変わらず、必要最低限。
でも。
それで十分。
琉夏「どうだった」
軽く聞く。
少しだけ、探る感じで。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「……ちゃんとしてた」
その言い方に、思わず笑う。
琉夏「それ褒めてんのか?」
冬星「まあ」
曖昧な返事。
でも。
ちゃんと見てたのが分かる。
少しだけ沈黙。
でも、気まずくはない。
むしろ、この間がちょうどいい。
冬星「そっちは」
ぽつりと聞いてくる。
琉夏「なにが」
冬星「今日」
短い言葉。
でも、意味は分かる。
琉夏「……よかったよ」
正直に答える。
少しだけ、間を置いてから。
琉夏「前より、余裕ある」
あの頃みたいに、必死じゃない。
でも。
ちゃんと鳴らせてる。
冬星は、わずかに頷く。
風が吹く。
少しだけ冷たい。
缶の表面の水滴が、指に触れる。
琉夏「お前は」
ふと、聞く。
琉夏「最近どう」
冬星は、少しだけ空を見てから。
冬星「……まあ」
またそれか、って感じで笑う。
でも。
それも分かる。
“まあ”の中にも、色々あるってことを。
琉夏「このあとどうすんの」
何気なく聞く。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「スタジオ」
即答。
思わず吹き出す。
琉夏「この時間で?」
冬星「空いてる」
いつもの調子。
少しだけ間。
缶を傾ける。
炭酸が、喉に刺さる。
琉夏「……俺も行く」
ぽつりと言う。
自分でも自然すぎて、少し驚く。
冬星は、ちらりとこちらを見る。
冬星「いいの」
確認みたいな一言。
琉夏「別に」
肩をすくめる。
琉夏「暇だし」
嘘じゃない。
でも、それだけでもない。
立ち上がる。
なんとなく、同じタイミングで。
歩き出す。
並んで。
少しだけ距離をあけて。
スタジオ。
機材を準備する。
音を出す。
一曲やるわけでもない。
ただ、適当に鳴らす。
ギターが鳴る。
ベースが重なる。
少しだけズレる。
でも、合わせる。
無理にじゃなくて、自然に。
琉夏「……これさ」
音を止めて言う。
琉夏「なんなんだろうな」
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「……さあ」
いつもの答え。
でも。
前より、少しだけ優しい。
琉夏「まあ、いっか」
小さく笑う。
分からなくてもいい。
この距離で、続いてるなら。
それでいい。
夜は、まだ長い。
音も、まだ続く。
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