はぁはぁ、息を切らして空き家だらけのアパートへ上がっていく。アパートに住んでいる人はいかにも貧乏な大学生らしき人や、自分には甘い大家、何も知らないフリをする人々が住んでいる。
あんなにも怒っていそうな父は久しぶりだ。昔はよくあったが今は酒を飲む時にしか暴れない家散らかってないといいけど。学校からそのまま直で卵を買っていたから家がどのような状態なんて分からない。
父は癇癪持ちで暴れ出すと家が壊れるんではないかと錯覚するほどだ、時には兄や私に暴力を振ってくる、あいつの力は強いので何日か生活に異常をきたす、それに何より痛い、なぜ私達が暴力を受けなければいけないの?と昔は思っていたが、今ではもうそうやってあいつのことを考えること自体が無駄だと理解している。
「ただいまー」家に上がると明らかにいつもの家とは違っていた、部屋のものが散乱してお皿や花瓶は割れている、原型を留めていない物もしばしばあった
「遅かったな、何してたんだ」怒り口調の父、少しお酒の匂いが漂っていた。
「ごめんなさい、あそこのスーパーまで卵を買ってきていて、あっ!特売だったから」
「口答えをするな!!」
バチンッ と大きい音と共に私は倒れこんだ。次第に頬が痛くなってきた。「ごめんなさいごめんなさい」いつもこうだ何故私が叩かれているのだろう、せっかく買ってきた卵も潰れてしまった。兄が大丈夫か?と声をかけ支えに来てくれた。
「なんで今日は帰りが早いんだ?」という兄の呟きが聞こえた、確かにいつもは仕事でこの時間は居ないはず、なのにこんなにも散らかっている。もしかしてまた仕事をクビになったのかな。ならばこの状況にも頷ける前回もクビになった時父は部屋の家具に八つ当たりをして、さらに、私達にも、、、次の日私たちの体には大きなアザができたのを覚えている。
「お前今日のバイトはどうした?」
「今日はシフトが入ってなくて、渚の買い物を手伝ってました。」
「何してんだよ!!誰が家に金を入れるんだ!毎日シフトを入れろと言っているだろう!今からでも働きに行ってこいよ!!」
父の怒りの矛先が兄に向いた
「今日はバイト先のお店が休みで、、、」
バコッと鈍い音と共に隣に立っていた兄が床でうずくまっている。
「言い訳をするんじゃねーよ!」
「お兄ちゃん!!大丈夫??」
「チッ、早く家の中を片付けとけ」
『はい、分かりました』
兄と共に周りを見渡すと私たち2人の部屋のドアが空いていることに気がついた。
「はっ!!」私たちは部屋へ駆け寄った。部屋の中まで産卵している状態だった。参考書は破れ、頑張ってバイトをして買った漫画をなどもぐちゃぐちゃになっていた。
「渚、あれ、、、」兄が指を指す方向に目をやるとそこにあったはずの2人の貯金箱がなくなっていた。「嘘でしょ、せっかく貯めたのに。」何故こんなにも愕然としているのか、それはこの家を出るための資金にしようとしていたからだ。
散乱したリビングや自分たちの部屋を片付け終わり、気づけば夜の10時、帰ってきてから4時間半が経過していた。父の部屋の方に目をやるとそこから大きないびきの音が響いていた。
11時頃母がスーパーのバイト先から帰ってきた。そして自分の部屋に行き父が寝ているのを確認すると、派手な服を着た母が部屋から出てきた。母からはキツい香水の匂いがした。
「ねぇ蓮、ここにあったリップ知らない?」と私はそれは父が投げていてぐちゃぐちゃになっていたので捨てたと説明すると、「あんたには聞いてない」と言い長いつけ爪をつけた手でわたしの頬を叩いた。「そもそもあんたがいなければ父さんはあんな風にならなかったんだよ、どうしてくれんのあのリップ高かったんだけど」「ごめんなさい」「謝ればいいと思うなよ」と言い母は兄のところに向かった。「ねぇ蓮今度買い物しに行こーね」母から早く離れようと「そうですね」と言い私に駆け寄ってきた。大丈夫か?と聞いてくれた。すると母は不機嫌そうに、「アンタなんか生まれて来なければよかったのに。」とさすがに兄は何言ってんだよ、さすがに言い過ぎだ。と怒ってくれたが、わたしの頬を伝うこの暖かいものが母から殴られた時にできた傷から出ている血か、心に傷をつけられて、目から出ている水なのかは、私には定かではなかった。
そして母は不機嫌そうに家を出ていった。帰ってくるのは朝だろうと私は思った。いや、毎回そうなのだ。父がお酒を飲んだ日はだいたい次のお昼頃まで寝ている、それを見計らい学校へ向かう私達と道で通りすがる。それが毎回のパターンだ。
恐らく母は、いや絶対母は浮気をしているのだろう。
第3話に続く
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