偏西風によりヨーロッパの冬は暖かい。明日も寒すぎにはならないみたいだから良かった。
産んでから半年が経ち、ついに明日子供たちは養子になりにいく。今日が最後の夜だ。アルフレッドもここ1週間は休暇をとり家族で過ごしていた。
「赤ちゃんって握力強いんだね」
「あぁそうだぞ。この前急に乳掴まれて悶絶したぐらいだからな」
「え?胸,,,,」
「あーはいはい。寝かしつけるぞ」
暖炉のそばで談笑する。エドワードも兄上3人も今日ばかりは一緒にいない。
朝、泣き声で起きて朝ごはんをとらせる。寝かしつけて縫い物をしながら子守りをする。それを繰り返しながら夜を迎えれば、その後はアルフレッドとともに家族で過ごす。続けてきたこの生活もあと10時間もない。
「あっ聞いてくれるかい?アーサー。この前「パパ」って言ってくれたんだぞ!」
「甘いな。俺はとっくの前にママだぞ?」
「ママはずるいぞ!そもそもママってベイビーにとっては言いやすい言葉らしいから」
「おっよく知ってるな」
「それぐらい知ってるよ。,,,君は俺たちのママでもあったからね 」
「え?なんか言ったか?」
「んーん。なんにも」
「明日、早く準備するんだからもう寝ろ」
「はいはい」
パチパチと音を立てて燃える薪。少し強い風が吹いて窓がガタガタと震える。今手の中で眠っている子供たちがいるからその音も怖くないと思えるのに明日の今頃はなにもない。貰ったベビー用品も全て屋敷内からなくなる。子供たちの存在は【国から生まれた】ではなくなる。
何百年ぶりに体験しただろうか。この寂しいという感情を。
朝
少し肌寒く外に出て息を吐くと白く消えていく。
子供たちとはこの屋敷で別れる。そのまま養子縁組の役員が交通を使ってヨーロッパの養父母の元へ送り届ける。
いつもより多く服を着せ、アウターを上に羽織らせる。首元のリボンを軽く結んでフードを被せる。俺は弟のほうをしてアルフレッドは兄のほうの準備をしていたのだが、様子を見ているとリボンも何もかもぐちゃぐちゃであった。
「あー。もう貸せ。やる」
「ごめんごめん」
300年前もアルフレッドとマシューに同じことをしていたなと思いながら小さな頭をなでる。迎えの車を待つ間まったりとしているとコンコンとノック音がなる。
「アーサー様」
「来たんだな。よし!行くか」
「おはようございます。」
「おはよう。今日は頼むな」
「はい。承知いたしております」
荷物が続々と運ばれていく中、手に抱えていた弟がふわぁとあくびをする。
「えっ寝るのか?」
「アーサー。こっちも寝そうなんだけど?」
「いいよ寝かしとけ」
よしよしと揺らしていると、おそらく今日送り届ける役員全員が目の前に整列し帽子をとる。
「必ず、ご無事に送り届け致します」
バッと頭を下げられる。そして何秒か経ったあとでゆっくりと頭を上げ女性職員が手をこちらに差し出してくる。
「,,,,あっちょっとだけ待ってくれるか?」
「はい」
「,,,,アーサー?」
「大丈夫。ちょっとだけだ」
ウトウトしている弟の鼻をツンと触る。
「お兄ちゃんにはもう言ったからな。お前も寝てていいから聞いててくれ。」
「この世、この地球に生まれたことをどうか誇りに思え。そして自分を信じれる人になってくれ。縁は巡り巡ってきっと自らに幸福をもたらすだろう。愛しの──────。幸せになれよ。」
すぅっと眠る子供二人を職員に渡し、頭の上をステッキでクルクルとなぞる。
「これで、記憶も書き換えられたはずだ。頼むぞ」
「はい」
車が遠のいていく。一直線の道を進み、ついに街路樹に隠れていった。息をつこうとしたときにスっと肩に手が回ってきた。
「きっと、良い子になるはずだよ。なんたって俺たちの子供たちなんだからね!」
「,,,,,うん」
涙は出さない。出させない。溢れ出てきたとしても頬に伝わせることはしない。
それでも、愛しいものが手元から消えたという事実は変わらない。
どうか、あの二人にも伝えた通り
自分の道を描いて歩いて走って
この人生を幸福なものだと知って欲しい。
ただそれだけを願う。
【アルフレッド視点】
幼い記憶
小麦畑に風が透き通り髪が揺れる。俺は誰かに抱えられていた。なぜかその人に抱かれていると安心感からか眠くなってしまう。ウトウトしていると背中をトントンと軽く叩かれる。
「アメリカ。寝ててもいいから聞いてくれ。 この美しい地球に生まれたことをどうか誇ってくれ。お前はその時点で幸せになれることが保証されている。どんなに笑われたって、お前はそのままでいい。きっといつか、幸せだったと言える時がくる。愛しのアメリカ。幸福な人生を送ってくれ。」
俺たちの子供、双子の弟に言っていたのを聞いて思い出した。兄でもありママでもあって妻でもあるこの愛しの人にその言葉をかけたのは一体誰だったのだろうか?愛すべき人は言われずとも自らの心に従ってまじないをかけたのだろうか?
俺も心の底から願おう。
美しい水の惑星、地球に生まれた限り生きることを誇りに思って
どうか、幸せな人生をあなたに。
あとがき
全18話、ありがとうございました!!アルアサにハマって自分の妄想を書いてみようかな?と思ったところから沢山の方に見て頂き、感謝そのものを切に伝えたいと思います。作る限りエロエロはちょっとな,,,,,とか、それを文章にするのは難しくないかなと思ったので捻りを加えて作成をしていました。なので、ほぼ後付け設定なんです笑。それでも作る過程の中で「何かを伝えてみたい」と思うようになって最終的には18話中何回もあったように、【この地球に生まれたことをどうか誇りに】というのが私の主張です。
結局、双子ちゃんたちは80年~100年ほどしか生きることがなく、イギリスたちはこの先もよっぽどのことがない限り生き続けていくことでしょう。この時間に違いがあれど、生まれた場所に違いはない。【縁】というのは非常に呪いのようなものだとつくづく思っています。どれだけ離れていても、条件が偶然揃ってしまえばそれが繋がり合うことになります。
長々と話してしまいましたが、この作品は結局国自身の生き様を書きました。正直こんな長くなるとは思わなかったーーーーーー!
次回作は何つくるとか決めてないですが、私自身歴史がめっっちゃ好きなので、史実パロ作ってみたいなとも思ってます。
更新ももちろん決まってないのですが、通知がくればまったり見ていただければ幸いです。
作中2000文字を軽く超え、4000字おも超えたこともありましたが、ここまでの閲覧ありがとうございました!
コメント
3件
完結おめでとうございます。素敵な作品でした!正直私も泣きそうになりました😭!!
完結おめでとうございます!とても素敵な作品でした!
素敵な作品をありがとうございました!!