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文化ホールから出て少し歩いていると瀬南くんから質問をされた。
「風景画好きなの?」
「うん」
「部室でも風景画の前にいたよね」
「私の心に1番響いた絵がね夕暮れの風景画だったんだ」
「そう」
「あの絵、写真撮っちゃダメだったから、似たような風景画を見て思い出すことしか出来ないんだけどね」
瀬南くんは真っ直ぐ前を見ていて、私の方に目線を向けることなく歩きながら会話を続けている。
「1度しか観てない絵なのにすごい思い入れだね」
「私は素人だから筆使いとか色合いの良さとか、そーゆー細かいことは分からないんだけど」
夕暮れの色味はすごく温かくて優しいのにどこか切なさを感じさせるあの絵
「その絵を見た時、色んな感情が出てきて私泣いちゃったの」
「絵を見て泣いたの?」
「そう。ほんとボロ泣きでさ、知らない優しい人がハンカチ貸してくれたくらい」
「絵を見て泣く人って滅多にいないけどね」
「らしいね。あとから’絵を見て泣くことは滅多にない’って知って、これはもう運命だと思った」
‘運命’なんてロマンチストのような言葉を使ったからか瀬南くんは少し驚いたような顔をしたけど、すぐに呆れ顔になった。
「運命って…」
「滅多にないことが起きたんだよ?すごいと思わない?!」
「で、五十嵐はその運命を感じた絵のタイトルも作者も覚えてないわけだ」
「覚えてないっていうか、涙で見えなくて確認出来なかったんだよね」
「それ、会うまでには相当時間かかりそうだね」
‘まあ、せいぜい頑張りなよ’と言ってくる彼に少しだけ背筋を伸ばして得意げに発言する
「でも、唯一 分かってることがあるの」
「なぁに」
「私と同い年」
「…何で同い年って分かるの?」
「妹がね、私と同い年だったのは確認してくれてたらしくて、それだけは分かってるの!」
「へー、妹さんに感謝しなよ」
「ほんっとに!それだけがヒントなんだよね」
あぁ、他にヒント転がってないかな!なんて頭を抱えて歩く
「ほんと、無謀な探し物だよ」
「市民コンクールだったから、市内にいるのも分かってる!」
「だとしても無謀な数じゃん」
「いいの、探し出して見せるから!’あなたの絵が好きです’って伝えるまで諦めないから」
瀬南くんに視線を向けたら彼は私のことをジッと見つめていた。
「…諦め悪そうだもんね」
「ねぇそれ褒めてる?」
「さあね」
電車に乗る前に瀬南くんは、とある画材屋さんへと足を運んだ。画材を買いたいらしい。
「何買うの?」
「絵の具、買い足しておきたいの」
そういえば妹もたくさん絵の具持ってたな。油絵の具、アクリル絵の具、水彩絵の具…
買い慣れているのか、瀬南くんは欲しい色をどんどん手に取っていく
「え、白絵の具 大きいの2つ買うの?」
「すぐなくなるから」
「へー…あ、すごいたくさん色ある!」
「ちょっと、うろちょろしないでよ?」
瀬南くんの後ろを付いて回っていると絵の具のコーナーから筆のコーナーへ
色んな種類の筆が置いてあるのを見つける。
「え、ほっそ…こんな細い筆あるの…」
画材屋さんなんて、私にとっては未知との遭遇なわけでそれはもう興味津々である
「濃い茶色、薄い茶色、白色…筆の色全然違う」
妹から美術の筆は色んな動物の毛が使われているって聞いたことある
「触っていいかな…いや、ダメだよね。でもふわふわしてそう」
筆が置いてある量も種類も沢山あって目移りしてしまう。筆のコーナーから目線を動かすと今度は色鉛筆が目に映る。
「何これ、こんなに色あるの?」
カラーバリエーション豊富な色鉛筆が綺麗に陳列されている。
「赤だけでこんなに色ある…」
ビビットカラーだけの色鉛筆パステルカラーだけの色鉛筆色んなものがあるんだな…と感心してしまう
「え、色鉛筆の種類めっちゃある!160種って…すご」
「ねぇ、君の特技は迷子になることなの?」
後ろを振り向くと呆れた顔をしている瀬南くんがいる
「あ、瀬南くん!見て!色鉛筆160種類だってさ!」
「それ僕の家にもある」
「あるの!?すごーい!」
「スゴーイじゃない。何ですぐいなくなるの」
「いなくなってるつもりはないよ。気になるものを見つけてしまって…」
「小学生じゃないんだから…」
はぁ…と大きいため息をつかれてしまった
「ごめんね。でも私は瀬南くんから離れたいなんて思ってないし、なんならずっとそばにいたいって思ってる」
「その台詞だけ聞くと、ものすごく語弊あるんだけど」
「近くにいるようにするから安心して」
「展示会の時もそうだったじゃん。探すこっちの身にもなってよね」
「ごめんごめん」
私の謝罪を本気で受け止めてはいなさそうな様子で彼は自分の鞄の紐をツンと指差した。
「まだここは人が少ないからいいけど、他のとこでもこれだと困るから、周りを見ながら歩く時はここ掴んでて」
「分かった」
素直にカバンの紐を掴むと、ふいと顔を背けられてしまった
「…行くよ」
「うん!」
私はもう友達だって思ってるけど、瀬南くんは友達って認めてくれたかな?
どう思ってくれてるのかは分からないけど、確実に距離は近くなった気がする!