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「榎煉,芽依を頼んだぞ。」
「勿論,幸せにして見せます。」
「いや,何言ってんのよ!」
恥ずかしくなり,私は榎煉の手を取って自分の部屋に行った。
そのとき,お父さんは凄くニヤニヤして,「そういうのはまだ早いぞ」と言っていた。本当に鬱陶しい。
「ごめんね榎煉。あの親父,鬱陶しいよね。」
榎煉は首を横に振る。
「そんなことねぇよ,芽依を幸せにするってのは本気だし。」
「はぁ…。」
幼いころからあのお父さんと親しかったから榎煉はお父さんのナニカが移ってしまった。
「てか、この写真まだ持ってんの?」
榎煉が机に置いていた写真立てを手に取った。この写真は小学校に入学したときの写真。まだ私の方が榎煉よりも身長が高かった頃だ。
「榎煉との写真は一枚も捨ててないよ。…もしかして榎煉、捨てたの?」
「いや、捨ててねぇよ。」
榎煉が風邪になったとき、私は榎煉の机に参考書以外にも私の写真が飾ってあったことを忘れてはいない。
「懐かしいねー。」
クローゼットを開けると昔の写真が入ったアルバムがあった。
「あ、お茶とかっている?」
「じゃあ貰おうかな。」
アルバムを出してから、榎煉にお茶を入れるため、台所へ向かった。
芽依の部屋に1人取り残された。昔のアルバムは年期が入っていて、ボロボロになっている部分もあった。…クローゼットに無理やり押し込んでいたからかもしれないが。
1頁目には芽依の産まれたときの写真が。どんどん進むに連れて大きく成長している。俺も探せばこんな写真が出てくるのだろうか。
「ふっ。」
その中にはドアップで変顔をしている芽依の姿もあった。迷わずスマホで写真を撮る。
まだまだ進めると芽依が初めて髪を染めたときの写真が出てきた。このときは結構荒れていたなと思い出に浸っていると芽依が帰ってきた。
「変な写真とかカメラで撮ってないでしょうね。」
勿論撮りました。
「ありがと。いやぁほんと懐かしいな。」
「ほんとに。あ、麦茶でよかった?」
「うん。」
俺は芽依が入れる飲み物なら何でも良い。泥とか入れられたら流石に飲まないけど。
「芽依はなぁ、昔っから榎煉のことが大好きだったぞー。」
芽依のお父さんが部屋に入ってそう言うと芽依はすかざずお父さんを殴った。かなり痛そうな音がしていたから笑ってしまったけれど。
「入ってこないでくれる?」
「はぁ、お父さんは駄目でどうして榎煉はいいんだか。」
「…なんかすみません。」
そしてまたお父さんは殴られていた。
「出ていってね、お父さん。」
可哀想なお父さんは芽依によって押し出されていた。
時計を見ると既に30分以上ここにいることがわかった。流石に早く帰らなくては。
「芽依、もう俺帰らないとまずいかも。」
「あぁ、ごめんね?はじめの長話のせいだね。今日はありがと。」
「こちらこそ。」
やっぱり芽依といると時間がたつのが早い。
「じゃあ、また明日。」
そうして、日が沈んだ街を歩いて帰った。
俺の家に早く帰るには近道をしなければならなかった。この時間になるとその近道は暗黒の道へと化すのだが、まだ幸い街灯が光っている。
「あっれれー、黒川さんじゃなぁいですかー?」
こんな日に出会わなければの話だが。
「前はよくもやってくれましたね。私の下僕達を。」
倒置法だ、とか思いながらそいつの横を通ろうとした。
「黒川さん、無視するんですか?」
「…俺はもう喧嘩は辞めたんだよ。」
芽依が変われたんなら俺だって変われるはずだ。もう遅いかもしれないけど、それでも良い。
「なぁにいってんだか!」
一発が頬に。そしてもう一発がみぞおちに。かなり痛かったが反発はしなかった。また、殴り合いをしてはいけない。
「つまらない黒川さん。」
気づけばあの外灯の光が消え、あいつらも居なくなっていた。そして、俺は目の前が真っ暗になった。