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「じゃ、お疲れ! 解散!」
ゆうとの非情な宣言に、もとちゃんが食い下がる。
「え~? まだお詣りしただけやん。もっと遊ぼうや」
「お詣りしただけて……。一宮にたどり着くのに一時間やぞ? 他も早かったとはいえ、もうかれこれ三時間は私語しましたけど!! 正月早々疲れましたけど!!」
やれやれと首を振るゆうとを尻目に、しゅうたとおみくじを見せ合っているくうちゃんが目に入る。二人とも「恋みくじ」を引いたみたいや。
……気になるな、中身。くうちゃんのおみくじに、『待ち人、俺』とか書いてへんやろか。
「はんちゃんは何やったん? おみくじ」
「そういえば去年、『凶』やったよな? まだ写真残ってるわ」
ニヤニヤしながら近づいてきたくうちゃんとしゅうた。俺は勢いよくおみくじの紙を開いてみせた。
「……二人の期待を上回る、『大凶』」
「うそやん!! そんなん、逆に神社側は作ってええの?!」
「初めて見たわ。大凶って都市伝説やと思てた」
くうちゃんが俺の手元を覗き込み、内容を読み上げる。
「ちょっと見せて。一応恋愛も書いてあるわ。『待ち人来たらず、障りあり』やって」
「……俺、去年もこんなんやったな」
まぁ、二年も三年も前からそんな相手がおった記憶もない。
好きな人なんて、今さっき気づいたばっかりや。どうにかしたいと思ってるわけやないし、所詮は適当に引いた紙切れやし。……そう、自分に言い聞かせる。
「はんちゃん、そんなヘコむなって。俺が抱っこしたるから、神様に一番近いとこに結びつけな。そしたら、大凶もきっと裏返るから」
「え、ちょ……っ」
「よっ」という短い掛け声と共に、視界がふわっと浮き上がった。
待って、くうちゃん。俺、みんなより身長は低いけど、中身の密度は意外とあんねんで。
「うわ、すご……。流石、鍛えてるだけあるわ」
「俺は日頃、はんちゃんを抱っこするためだけに鍛えてるからな」
「何その理由。気持ち悪ぅ……」
「気持ち悪い言うな! もとちゃんに失礼やろ?!」
「え、今、俺が気持ち悪がられてたん?!」
下でゆうとたちが大笑いしてるけど、俺からしたら笑い事やない。
こんな大人になって、好きな人に抱っこされてるなんて。
……大凶どころか、大吉を殴り飛ばして『大大吉』やんか。
「くうちゃんありがとう。一番てっぺんに結べたで」
「よし。ほな、おろすで」
「うわっ、あぶなっ……ごめん、くうちゃん」
「おっと……いや、全然大丈夫」
着地する瞬間、わざと少しよろけたふりをして、くうちゃんの胸に身体を預ける。
そのまま、厚手の上着をギュッと掴んだ。
……今の俺には、これが精一杯や。これ以上望んだらきっと神様に怒られる。
「……なんかさぁ、はんちゃんて、たまに女の子に見える時ない?」
「わかる。俺も今まさにそう思ってたわ」
もとちゃんとゆうとが勝手なことをぬかす。
「俺のこと、そんな目で見んで!!」
「見てへんよ」って言いながら、二人はニヤニヤと嫌な見方をしてくる。
俺は真っ赤な顔のまま、くうちゃんの腕から離れて、もとちゃんとゆうとの頭を軽く叩いた。
でも。
俺が「女の子っぽい」なんて言われるってことは、くうちゃんの恋愛対象には入ってへんってことや。
くうちゃんのタイプは、自分より男らしくてガッチリした人。
「赤ちゃん」なんてイジられてる俺なんか、最初から除外されてるに決まってる。
だから、恋愛相談も気軽にされるし。
軽率に身体に触られるんやし。
俺だって、この居心地のええ「親友」を失いたいわけやない。
もし、何かの間違いで一線を越えてしまったら。
親友どころか、二度と友達に戻れる自信なんて、俺にはないから。
「……くうちゃんとしゅうたのおみくじは何やったん? もう結んでもうた?」
「いや、俺ら同じ番号で同じ『大吉』やってん。やから大切に財布に入れとこかって」
なっ? としゅうたがくうちゃんに目配せする。
……ええなぁ。俺も恥ずかしがらんと、くうちゃんと一緒の恋みくじにすれば良かった。
そしたら、何が出ようとも無理やりに「お揃い」にできたのに。
「……はんちゃんてさ、どんな財布持ってんの?」
不意にしゅうたが身を乗り出してきた。
「ん? ……そんな気になる?」
「まさか、出し惜しみするということは……まだマジックテープ式のやつか?」
「小4から使ってるやつか」
ふざけてるゆうとともとちゃんに苦笑いしながら、俺はポケットから財布を取り出した。
初任給で奮発して買ったええやつやけど、もう結構ボロボロや。
こないだええのを見つけた時に、買い替えとけば良かった。……なんか、ちょっと恥ずかしい。
「ん、貸して」
「え?」
しゅうたが俺の財布をひょいと取り上げたかと思うと、小さく折り畳んだ自分の恋みくじを、カード入れの一番奥にスッと押し込んだ。
「……え、なんで? しゅうたの大吉やろ?」
「ええねん、俺は。……もう毎日大吉みたいなもんやから」
「うっわぁ~、急に惚気出したで! しゅうたくん、キザキザオやな!」
「おい、ゆうと。なんやその変なあだ名。こちとら一応、大会社の御曹司やぞ。気に入らんかったら、お前の会社なんか一捻りやからな」
「こわこわ! やめとき、もとちゃんまたそんなこと言うて」
「えっ?! 俺、今笑顔で見守ってただけで、何にも言うてませんけど?!」
「もとちゃん、しゅうたにガスト買収してもらう? そしたらほんまに『もとちゃんのガスト』になるで?」
「いつそんな話になったん?!」
結局、いつも最後はもとちゃんが遊ばれてる。
ゆうと、帰りたい言うときながら、もとちゃんに罪なすりつけて自分が一番楽しんでるやん。
「よかったな、はんちゃん。……俺とオソロ」
「え、あ……うん」
くうちゃんが自分の財布を取り出して、俺の財布に軽く「コツン」と当てて微笑んだ。
あかん。
バレる、絶対バレる……!
俺、今、ありえへんくらいニヤついてる自信がある。
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知恵ちゃん