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「で、……ゆうとともとちゃんのおみくじは?」
俺が聞くと、ゆうとは誇らしげに胸を張った。
「んなもんに使う金残ってませんわ。財布スッカラカン」
「俺も。屋台に全部捧げてもうた。……けど、悔いはない」
なぜか英雄みたいな足取りで歩くゆうとの横で、貧乏神みたいに肩を落とすもとちゃん。
そんなくたびれた肩に、くうちゃんがひょいと腕を回した。
「ほんまええ大人なんやから、金の使い方考えなあかんでもとちゃん。おみくじも買えんようになるくらい、何に金つこたん?」
「そら……それは、お前がいっちゃん言うたらあかん事! ほんま、お前は『ありがとう』の『あ』の字も言わんなぁ!」
「……もとちゃんって、親戚のおじさんみたいやな」
「おいこら。同級生に向かってなんやその言い方!」
ごるぁ、と声を荒らげてもとちゃんがくうちゃんに掴みかかる。
……去年までなら、本気で笑えてた光景やった。
なのに今は、全然笑えへん。
ええな。俺も自分からくうちゃんに抱きついたり、近くに顔を寄せて笑ったりしたい。
くうちゃんのこと好きにならんかったら、こんなこと意識せんとくっついたり出来てたのに。
「じゃあな。また来年の初詣で会おう」
「スパン長すぎへん? 親友に言う言葉ちゃうやろ」
「それくらいが丁度ええんよ。一緒におりすぎても飽きてまうしな」
「ほんま、ゆうとは一生恋人できひんわ」
「ええねんええねん。じゃあな!」
大きく手を振って、しゅうたとゆうとが駅に向かっていく。
なんやかんや言うてあの二人も仲ええから、実際は年一なんてことはないんやろけど。
「じゃあな、もとちゃん! 俺、はんちゃんと同じ方向やから」
「え? 本気で言うてる? ……え、一人暮らしの方の家ってこと?」
「行くではんちゃん! じゃあな、また来年会おう!」
「うそやん、もとちゃん置いて行ってええの?!」
唐突にくうちゃんに手を引かれ、俺たちは走り出した。
どこまでももとちゃんをネタにしてて、さすがにちょっと可哀想になってくる。
だんだん遠くなっていくもとちゃんに、俺は大きく手を振った。
……なんや、高校生の時みたいやな。ちょっと楽しいかも。
「ちょっと、流石に酷すぎん? 帰る方向同じやのに置いていくん」
可哀想を通り越して、面白くなってきた。
あれかな。好きな子をいじめてしまう、みたいな感じなんかな。
「ええねん、もとちゃんはああいう方が好きやねん。いじられるために生まれてきた人やからな」
「ほんま、くうちゃんは……もとちゃんのこと大好きやな」
軽く返そうと口にした言葉。
でも、それは思いがけず自分の心を強く締め付けて、「滅多なこと言うもんやない」と後悔した。
「……俺は、はんちゃんの事も好きやで?」
さらりと言い放たれた言葉。
俺の事『も』、か。俺『も』ついでにか。
「俺だけ」じゃないその言葉に、俺は素直に笑うことができひんかった。
「あ! そや、新から連絡きてた。明日帰ってくるから一緒に行こうって」
心臓に悪い会話を切り上げるように、俺は急いで話題をすり替えた。
あんな話、長々とするもんやない。自爆するだけや。
「あ、俺も見た。一時間前やのに、誰一人返事してへんのウケる。ほんま新はいつでも自分中心なんやから。普通、みんな今日行ったんやから『行けんでごめんな』やろ」
ぶつぶつ言いながら、どう返したらおもろいかな、なんてニヤニヤしてる。
……あ、今のトーン、もとちゃんを扱ってる時と一緒や。
その事実に、少しだけホッとしている自分がいた。
「うわ、くうちゃんぽいわ」
グループLINEの通知音がして覗き込むと、『一人で行け』という絵文字も何もない、潔すぎる一言が並んでいる。俺やったらこんなん来たら一発でヘコんでまうわ。
「『なんでやねん』やって」
「めっちゃ大阪人やな」
「ふはっ、はんちゃんウケる!」
俺がこぼした素直な感想に、くうちゃんが腹を抱えて崩れ落ちた。
え、俺そんなおもろいこと言うたか?
「……なぁ、めっちゃおもろかったから、今日はんちゃんち泊まってええ?」
「はぁ?! ……なんの流れでそうなったん?!」
本気でびっくりして、心臓がバクーンと跳ねた。
お泊まり?! 急に距離詰めすぎやろ!
……もしかして、俺の「好き」がダダ漏れやった? だから、もとちゃんたちみたいに揶揄われてるんか……?!
「やって、寂しいやん。このまま別れるの。はんちゃん、実家帰ってんねやろ? 俺、はんちゃんちに来客用のふかふかお布団あるの知ってるぅ」
「……あれは、もう俺が使ってるからあかんねん。今は家出た俺がお客様みたいなもんやから」
「じゃあ、一緒に寝たらええやん。俺、結構お行儀のええ寝方すんで?」
ぴしーっと両手を下に伸ばして、寝姿勢のアピールをしてくる。
……これ、本気なん? やっぱり揶揄われてるだけ?
「無理やで。妹もおるし。年頃の女の子、くうちゃんに会わせたら夜も眠れへんなるわ」
「へぇ、……どういう意味で?」
くうちゃんがニヤニヤしながら、俺の顔を覗き込んできた。
確信犯や。……これ、絶対バレてる。
「とにかく、うちの家はなし! また、ほら、みんなで旅行でも行こうや。今日楽しかったし」
「はぁ~い……」
しゅんとした大型犬みたいに、トボトボと歩き出す。
こういうところが、ちょっと可哀想になってまうんよな。いつも元気な奴が、あからさまに「傷ついたふり」をするから。
「じゃあ、帰ろっか。夕飯、何がいい?」
「え? ……何言うてんの?」
「はんちゃんちあかんねやろ? うちも実家は姉ちゃんおるし……これは、俺んちに行くしかなくない?」
話が、とんでもない方向に転がっていく。
俺、これ……めちゃくちゃピンチすぎやろ。