テラーノベル
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主炎は、何を考えているんだ?身長が高いからだろうが、俺を見下すようにこちらを見つめている。無表情のまま。何がしたいんだ?こいつ。
「立てるか?」
沈黙の後、主炎が発したのはたったその一言だった。
一瞬宇宙に投げ出されたように、思考を放棄しそうになった。
こいつ、馬鹿なんだろうか。思わず八の字になりそうな眉を手で隠し、嘘を塗りたくった笑顔で俺は言葉を返す。
「立てるなら、主を奪い返して逃走していますとも」
俺がそう言うと、主炎の輝いて見える黄色の瞳が一瞬、申し訳なさそうに、寂しそうに揺れた。
握り締めたままの手が震える。
これは、恐怖なんかじゃない。自分への怒りと、主の安否が不安だからだ。
「じゃあ、失礼するぞ」
そう言って主炎は俺の事を姫抱きした。
訳がわからない。
何故、こいつはこんなに俺に優しそうにするんだ。
何故、割れ物に触れるようにそっと俺を抱き上げるんだ。
何故、そんな苦しそうな顔をしてるんだ。
でも、ただ1つ言えるのだとするのなら、人は、こんなにも温かいんだ。それだけは確かだった。
想像にもよらない、主炎の温かな体温によって、瞼が自然と重くなる。
気が付けば、俺は夢を見ていた。
懐かしい、夢だった。
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