テラーノベル
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枯れた花に土を。
百「 ……… 」
茈「 ……… 」
百「 …おい、んだよこのガキ。 」
「 奴隷オークションで買ってきました! 」
百「 …チッ、 」
俺の目の前に貧相な格好で立ちはだかるのは、一人のガキ。
どうやら脳の足りないバカどもが奴隷オークションとやらで買ってきたらしい。こんなガキ一人いたところで何が変わるというのか。
そもそも奴隷自体好きではないんだけどな…
百「 失せろ、おい。 」
茈「 っ、……? ( びく 」
百「 聞こえねぇ”のか? 」
「 すみませんっ、すぐに…! 」
茈「 …、つ、かっ…て、くだ、さいっ、 」
百「 ……は? 」
茈「 つか、…て、くださ、いっ、! 」
コイツ今、なんつったんだ?使ってください?
こいつらが行ったオークションの売人はどんな神経してやがんだよ…ったく、どう見ても未就学児の幼い子供に「使ってください」って叩き込んだのか?
あぁ”吐き気がしてきた…
百「 無理だよ、お前じゃなんも出来ねぇ。 」
百「 たかがガキごときが、 」
百「 極道の手伝いなんざできるか。 」
茈「 ぁぇッ…?、…… ( しゅん 」
これでいけるはずだとでも思っていたのか、ガキの顔が沈む。
あからさまに落ち込んだ態度を見せるガキに同情したのか、部下は、うわぁそれはさすがにないっすよ若様…とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。なんだよ。
そもそも極道にガキがいていいわけが無いのだ。
人は殺すし、必要とあらば犯罪だってなんだってする非道共が集まる場所。ましてやこんな五歳程度のガキを置いておく訳にはいかない。
茈「 …ご、ほー…し、でき…、る、よ? 」
百「 ……ッチ、はぁ”ぁあ”あ、、 ( クソデカため息 」
茈「 ッ、………… ( 震 」
ご奉仕?本当にコイツはどんな教育受けたんだ…
体もちっさいし、全体的に色々と足りてないものが多いのにも関わらず、自分よりまず買ってくれた主優先だってか?
本当にどうしようもないぐらい教え込まれてんだな…
てかコイツも震えてるし、絶対怖いんだろうが。そりゃぁな、そんな小柄でまともに飯も食ってなさそうなコイツが何にも怯えずに暮らしてるわけがない。
百「 わーったよ、置けばいいんだろ?家に。 」
百「 ようこそ、桜梅組、桃李班へ。 」
茈「 ……、!よー、こそ…、! ( にぱ 」
百「 ふは、ちげーよ… ( 撫 」
なんだ、ガキも意外と悪くはないのかもしれない。
コイツは俺のことを大して怖がらないし、俺はコイツのことを恐れる余地はない。結構ウィンウィンな関係なんじゃないか、これは。
小さいし人形みたいだな…ボロボロだけど。
でも元は良さそうだ、目は…髪の毛でよく見えないから分からないが、髪の毛はうっすら紫がかってるみたいだから紫色の髪なんだろう。
百「 っし、風呂行くか。 」
茈「 …、?ふ、ろ、 」
百「 おう、風呂だ。 」
茈「 ふろ、ぉ…、! ( にへ 」
多分コイツ、風呂が何か分かってないな…まぁいいか。
風呂場まで連れて行って、服を全部はだけさせると、まぁ予想通りと言ったところ。全身アザだらけだし傷だらけだし…まぁ見るも無惨なもの。
逆に五歳の体でよくここまで耐えられているものだ。頑張ったんだな。
百「 …お前、そんな綺麗な顔だったのか… 」
茈「 …、?きれ、…きら、きらっ、? 」
百「 おう、キラキラしてるよ。 」
茈「 えへへ、…きら、きら…っ、! 」
百「 …そうだな、 」
ウルフカットであろう長さの紫髪に、襟足は白色のカラーが入ってる。アホ毛もある。可愛い。
髪を洗っている時に前髪を掻き上げたのだが、その時にコイツの瞳が見えて、すごい綺麗なレモンイエローだったから少し驚いた。あんな暗くて籠った顔にこんな兵器があったとは…
これは美青年に育つのでは?
しかし、顔の右半分に火傷の痕がある。これは治らないやつだな…痛かっただろうに。前髪が長くて見えづらいものの、前が見えないのは不便なので髪は切らなければいけない。本人も嫌がらないだろうか、心配だな…
とりあえず
百「 お~い、お前ら翠呼べ。 」
「 はいっ!! 」
茈「 ……、、? 」
百「 ん、上がるぞ。 」
ひょいっ、と流れでそのまま持ち上げられるほどコイツの体は軽かった。明らか栄養が足りていないのが原因だろう。
髪やら体やらを拭く時に、先程より鮮明に顔が見えた。
目は少しつり目で三白眼、瞳は猫目のようだった。透き通るような目をしているのにどこか曇っている。今までの環境の悪さなんだろう。
髪をわしゃわしゃと拭く度に、ぅ、とか、ぁ、とか、小さい声が漏れてるのが可愛らしい。慣れないことなのかしっかり目を瞑っているのも可愛い。
翠「 百々、お呼びですか~? 」
百「 ぁ、なぁ翠、 」
百「 桃乃のガキん時の服ってまだあるか? 」
翠「 多分あるけど…その子に? 」
茈「 …? 」
百「 おう、可愛いだろ。 」
自分でも我が子のように子供にこんなことを言う日が来るとは思わなかった。けれどコイツが可愛いのだから仕方がない。そういうことにしよう。
まだ状況が理解できなくて困惑したままでも可愛いが、さすがに可哀想だ。
先程俺の元に来たアイツは翠、料理にイラストに歌に家事全般と、大抵の事はなんでもできる高スペックな男。モテはするが陰キャなため彼女はいない。
翠「 たしかに、可愛いね。 ( 服渡 」
百「 ん、だろ? 」
茈「 …ッ、?ごほ、し、? 」
翠「 ……ぇ、していただけるn 」
百「 馬鹿かお前は。 」
百「 こんな幼子にさせるもんじゃねぇよ。 ( 服着 」
翠「 はいはい、… 」
百「 …やっぱ可愛すぎるか、? 」
俺のでも良かったが、俺のはでかいか…と思って桃乃のにしたけど、アイツはちょっと女子すぎるんだよな、服の趣味が。
なんだっけ、地雷系ファッションってやつ。
なんかオフショルの黒いトップスに短パンに長いソックス…もはやコイツが女に見えてくるファッションだなほんとに。
茈「 …、?ぃる、これ、…っこれ、! 」
翠「 これがいいって~。 」
百「 ッんで分かんだよ… 」
翠「 これ、って言ってるじゃん。 」
百「 わっかんねー… 」
茈「 …、?わ、かんねっ、! ( にこ 」
そうか、こういう子どもはまともに教育さえ受けられてない奴らが多いから、こいつもさっきから端的に単語を話してるだけなんか。
ずっと俺の言葉をオウム返ししてくるのも気になってた。
言葉が分からないから、相手の言葉をそれとなく返すこと以外に喋る術がないのだ。教育係もつけてやらないと。黄だけは避けて。
なんだかんだ言って愛着が湧く。やはり子どもも悪くはない。
百「 …ぁ名前、 」
百「 お前、名前なんなんだ? 」
翠「 今更過ぎでしょ… 」
茈「 …、?ぃー…ぅ、まっ、 」
百「 ぁー…もっかい、 」
自分の名前すら上手く発音できないのか…辛いだろうな。
こういうの教えるのはやっぱ、瑞とか赫辺りが適任だろうか。だからといって赫灼班に迷惑をかける訳にも行かないけど、どうしよう。
名前言えなくてもごもごしてんのも可愛いけどな。
なんだろう、一つ一つの動作が可愛く見えて仕方ないのは、一つ愛ゆえの発作的な。ここまでなって喋り方を教えようとできないのは、ある種の加虐心か。
でも一生懸命口をもごもごさせてるのが愛おしい。ちょっと待ってみよう。
茈「 い、…ぅ、r…る、まっ、、! 」
百「 茈か、おっけ。 」
翠「 コードネームは?何にするの? 」
百「 ぁー…、姫君にしとくか。」
百「 うちそういうの居なかったし。 」
翠「 姫君だって〜、茈ちゃん。 ( ひょいっ 」
茈「 んゎっ、…?ひめ、ぎみぃっ..、! 」
背の高い翠に抱き上げられて少し興奮したのか、満面の笑みで嬉しそうにはしゃぐ茈。こんな些細なことすら何も受けられていなかったとでも言うのか。
茈の感情に合わせてぴょこぴょこ跳ねるアホ毛も可愛い。
見れば見るほど溢れて止まらないキュートアグレッションと、極道としてなにか反するものができてしまったのではないかという些細な不安。
俺の判断は、正しかっただろうか。
茈「 …、、 ( くいっ 」
百「 ぅおっ…どうした、 」
茈「 …、ぁ、ッ… 」
茈「 ぅ、…… 」
翠「 …元気、 ( こそっ 」
茈「 、!げ、…ん、きっ、 」
翠「 出して、 ( こそっ 」
茈「 だ、…しぃ、てっ、! 」
百「 !ふっ…そうだな、ありがとう。 ( 撫 」
翠の補助はあるものの、彼が自分の言葉で伝えようとしてくれたのが嬉しい。本当にこの子が来てからの数十分で自分の心変わりがすごい気がする。
小さくても俺らと同等の命を持っていると思うと、この存在が尊くて仕方がない。
極道という肩書きを持ってるが故に、彼の傍に居続けられる保証がないのが悲しいところではあるが、極道という運命を辿ったからにはもう変えられないのだろう。
せっかく俺の元に来てくれたのに、申し訳ない。
茈「 …、なぁ、なっ、 」
百「 ん?…名前、か? 」
茈「 ん、! 」
百「 俺は桜木 百、だよ。 」
茈「 ぁ、ッ…ぅぁ、r…ら、百っ、! 」
百「 ッ、”…… ( 抱締 」
あぁ、可愛いな、ほんとに…
今だけは醜く汚れた自分が綺麗な気がして。そんなはずないのに、茈と居たらそんな自分も居たのではないかと少し浮かれてしまう。そんなところが既に穢らわしい。
まだ世界を知らなくて、純粋に今を楽しめる子供だからこそ発する、この元気の源みたいなエネルギーは、まだ世界も見つけられないほど希少なようで、世界にありふれている在り来りな存在の一つで。
どうせ俺がこんな綺麗な言葉で飾っても、世界はこの存在に価値を見出さないのだけど。
百「 そのままでいてな、茈… 」
茈「 んぅ?うんっ! 」
茈「 …黄、居ない? 」
百「 ん…黄は仕事。赫なら居るよ? 」
赫「 よっ、お邪魔してます。 」
茈「 じゃぁ、赫で… 」
茈「 一緒に、やりたいことが。 」
あれから五年ほど経って、うちの姫君は立派に十歳まで育っていた。実年齢が本当に十歳かどうかは怪しいところだが、翠が調べて確認してくれてはいたから多分あっている。
控えめで、健気で、心優しい少年。まさにそんな言葉の似合う大人しい子になっていた。
けれど生まれつきの骨格だとか、今までの環境からするに、茈の細身な体型と、女らしい体つきは今更変えられないのだろう。本人も多少の嫌悪は持ちつつ、それでも拒絶はしていないから、まぁ本人が嫌だと言うまで待っておこう。
赫「 ん、何する? 」
茈「 ぁのッ…、⎯⎯⎯⎯、 ⸝⸝ 」
赫「 !なるほどな…わかった! 」
百「 え、何? 」
茈「 ッな、なぃしょっ… 」
百「 え、悲しい… 」
俺は重度のメンヘラだから、隠し事をされるのは嫌いだ。
だが、茈がきっとサプライズ的なことを考えてくれているのだと思うと、少しは我慢できそうな気もしたり。俺の可愛いお姫様だし。
ちなみに、茈がここに来た時に俺が付けた、「姫君」というコードネームは、班のみんなも茈も気に入っているから、班員とも親しくやれているみたいだ。人が集まるのはちょっと嫉妬しちゃいそうになる部分もあるけど。
幼いから可愛げがあって甘やかしたくなるのだ。俺も同じだしそこは妥協点としよう。
瑞「 ただいま~っ!! 」
茈「 ッひ、…っ血、だらけ、っ ( 震 」
瑞「 ぁ… 」
百「 おい瑞…あんだけ血を綺麗にしてから来いって言ったよな?? 」
赫「 怖いなぁ、茈… ( 撫 」
茈「 ぇ”ぐっ…、ぅう、” ( 泣 」
奴隷だった時の名残があってか、茈は血を見ると泣いてしまう。
初めの頃は血を見るだけで吐いて気絶していたから、あの頃に比べれば随分慣れてくれはしたのだが、やはり怖いものは怖いらしい。まぁグロテスクだし。
最近は泣きつく相手が翠か赫か黄に限定されちゃって、あんまり俺のとこに来てくれないのが悲しい。俺だって茈に泣きつかれて、「大丈夫だよ~!」とか言って慰めてあげたいのに…
赫「 ほら、⎯⎯⎯⎯するんだろ? 」
茈「 、!ぅん…、! 」
百「 行ってらっしゃぁい、 ( 拗 」
茈「 …、百さん、 」
百「 ん?なに? 」
茈「 …っお、 」
茈「 お父さんの日っ、…だ、から、 ⸝⸝ 」
茈「 プレゼン、ト… ⸝⸝⸝ 」
百「 、!茈ぁ…ッ ( 目輝 」
少し照れくさそうにはしながらも、こちらの様子を伺うように覗き込んでいるのが分かる。そういえば今日は父の日なのか。時の流れは早いなぁ。
初めて出会った時は濁った水溜まりのように乾いた目をしていた茈も、今となってはすっかり明るい子になって、そんなところでも時の流れを感じる。俺も歳をとったのだろうか。
あ、プレゼント。開けてあげなきゃ。
百「 …わ、これ編みぐるみ? 」
茈「 み、黄が得意って、教えて貰おうと思ったけど… 」
茈「 予定合わなくて、赫と頑張って本見て作ったの… 」
茈「 …可愛ぃのは、出来なかったけど、 」
百「 ううん、可愛いよ。 」
百「 うさぎさん、なんだよね? 」
茈「 、!うん…ッ、 ⸝⸝ ( にこ 」
自分に自信が持てないところも、可愛らしい茈の魅力の一つだ。
消極的で、どこか自分を認められていない雰囲気がするのに、健気で人のために動くことができるいい子だから、学校でも友達がいっぱいいるみたいだった。
不器用で、ツンデレな部分もあるけど、なんだかんだで俺には父としての意識があるみたいで、誕生日もこういう父の日とかの年中行事も、忘れずに何か送ってくれる。流石にやるようになったのは八歳とかだけど、それでも早い方だし、家族仲もよく続いてる方だと思う。
茈はいつも可愛くて優しい。どうか思春期もこのままでいて欲しい。
百「 ありがとう、嬉しいよ… ( 抱締 」
茈「 んっ、…ぇへ、 ⸝⸝ 」
百「 …そのままでいてな、茈…… ( 呟 」
茈「 、? 」
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
ちょっと長くなるので、
三話に分けます。
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