私達は柴田さんの家まで送った。
「宙。声戻ったら、また家の事務所来てね。」
柴田さんは頷いた。
「柴田さん。できるだけ体調に気をつけてくださいね。」
また、彼は頷いた。
「じゃまた。」
私と社長はぺこりとお辞儀をした。
しばらくすると、私達の背後から機械音が聞こえた。
「あの…」
私達は振り返った。
「あっ…が…ますっ」“ありがとうございます”
カスカスでほとんどの部分が声を出せられていなかったけど、柴田さんの声だった。
私も驚いたけどもっと驚いていたのは社長だった。
社長は息を吸った。
「宙ーっ!御前ならできるぞっ!」
大きな声でいつもの社長とは違う。“親友”という社長。
彼は首いっぱいに頷き、深々とお辞儀をした。
このお辞儀は私達が見えなくなるまで続いていた。
事務所に着いた頃にはとっくに定時なんか超えて、時計は7時を指さしていた。
「今日は仕事したね。」
社長はコートをかけ、珈琲を飲もうとしていた。
「ですね。二件もですから。」
私は帰る気満々で身支度を始めた。
「明日も同じ時間に来ます。」
「うん。お疲れ様。」
私も言葉を返し、事務所を出た。
「うーん。疲れた!明日も頑張るぞー!」
私にはいつもどおりの朝がやってくる。 平凡でちょっぴり忙しい幸せな日々が。