「私ね…心臓の病気なの…」
「何だって?!」
美華は口元に指を押し当て、しーっ!と言った。
「だからね…ーヶ月にー回定期検診に行ってるの。」
「休日に?」美華は頷いた。
津雲は何と言っていいか分からなかった。
美華はこめかみを掻きながらこう言った。
「そりゃビックリするよね…突然そんなこと言われたら……」
津雲は意を決してこう言った。
「あと、美華…八尾のこと好きだろ?」
美華はビクッとした。そして津雲を覗き込み、笑った。
「こりゃ津雲さんに隠し事はできないなぁ…そうだよ、私八尾君が好き。頭良いし歌も上手いから……だからね、今度の夏祭りで告白しようと思うんだ。」
津雲は笑顔になった。津雲の笑顔は人を安心させる笑顔だ。
「頑張ってね!成功することを祈るよ。」
美華も笑顔になり、「ありがとう!」と一言言った。
「じゃ、呼び出して悪かったな。」
「そんなことないよ。心の中にあったこと言い出せてスッキリした。じゃあね津雲さん。」
美華はゆっくり帰って行った。
津雲はその背中を見えなくなるまで見ていた
「たくましいな…アイツ……」
次の日の放課後……
皆、夏祭りの話題で持ち切りだった。
皆、口々に誰と行く?とか言っていた。
津雲は八尾にこう聞いていた。
「八尾は誰と行くんだ?」
「俺?俺はなんか美華に誘われたから、美華と一緒に行くよ。でもなぁ…俺なんかと行くより他の女子と行った方が楽しいのになぁ…」
津雲はこの言葉を聞いた時、心の中で何かがうごめくのを感じた。
「何故そう思うんだ?」
皆がいない河川敷で、ゆっくり話すことにした。
「だって俺みたいなのと行ったって……」
八尾はネガティブなことばかり言っている。
つまり自分に自信が無いのだ。津雲はそれを聞いていると、心の中で何かがモゾモゾとうごめくのをまた感じた。
「だから…何故そう思うんだ?」
津雲の声がワントーン落ちる。
八尾は何かを感じ取り、「え?」と言った。
「何故そう思うか聞いているんだよ。」
「それは、俺なんかと行ったって面白くないだろ?俺つまらない男だし。正直美華に失礼だよ………」
それが津雲の押さえていた何かを撃ち抜いた。
「だから!お前は自信がねぇんだろ?!だらそんなこと言ってんだろ!!美華に失礼?馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!お前は凄い奴なんだ!誰もが尊敬する凄い奴なんだ!もっと自分に自信もてや!」
津雲は息をゼイゼイ言わせながら怒った。
八尾は津雲に初めて怒鳴られた。
それは、美華の気持ちを思ってのことだろう。そして、八尾のネガティブ思考に対する怒りだろう。津雲の怒鳴り声は八尾の心に深く響いた。
八尾は決して言い返さず、じっと津雲の怒鳴り声を聞いていた。
「ごめん、津雲…俺…自分にもっと自信もつよ。」
「俺もゴメンな。突然怒鳴って。びっくりしたろ?」
河川敷に二人の背中が並んでいた。
「あとさ…津雲…」
津雲は「ん?」と話を聞く体勢に入った。
「美華さ…何かの病気なの?」
津雲は「え?」という顔をした。
「だって、笑いすぎただけで額に脂汗は浮かばないし、心臓の当たりを強く抑える必要は無いよね?それに明らかに美華の表情、苦しそうだったし……」
津雲は美華との約束を守るつもりだったが、
破ってしまった。
「……気づいてたのか。八尾も。」
「あぁ…」八尾の声のトーンがかなり下がった。
「美華…心臓に病があるんだってよ……」
八尾は何も答えなかった。
「人間は…何でこう生まれつき平等ではないんだろうな。」
「…………」八尾は考えていた。そして、津雲が帰ろうとした頃、八尾はやっと口を開いた。
「俺…美華を守りたい……」 津雲は驚いていた。たった数分で人はこう変わるものなのだろうか。が、津雲はすぐ笑顔に変わり、
「守ってやれよ…お前自身の手でな……」
と言い放ち、帰って行った。
八尾も津雲の後を追って帰った。
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