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第13話:奇跡の命
診察室を出て、病院の長い廊下を歩く間も、二人は夢の中にいるようだった。
宮舘の手には、大切に握りしめられた一枚のエコー写真。
黒い背景の中に浮かぶ、小さな小さな光の粒。
それが、自分と目黒の間に宿った新しい命なのだという実感が、時間をかけてゆっくりと全身に染み渡っていく。
タクシーに乗り込み、自宅へと向かう車内。
目黒は宮舘の手を一度も離さず、ずっと愛おしそうに両手で包み込んでいた。
その手はまだかすかに震えており、彼の溢れるほどの感涙が、事件の大きさを物語っていた。
マンションの部屋に入り、リビングのドアが閉まった瞬間、目黒は宮舘を壊れ物でも扱うかのように優しく抱きしめた。
「……涼太さん、ありがとう……本当に、ありがとう……」
声にならない涙声で呟きながら、目黒は宮舘の首筋に顔をうずめた。
宮舘は目黒の背中にそっと手を回し、その温もりを感じながら、手元の筆談用タブレットに素早く文字を走らせた。
そして、目黒の肩をトントンと叩いて画面を見せた。
『目黒くん、泣かないで。びっくりさせてごめんね。でも……すごく嬉しいよ』
目黒は溢れる涙を拭いもせず、顔を上げた。
そして、涙で濡れた瞳で宮舘を真っ直ぐに見つめると、膝をついて宮舘のお腹と同じ目線にまで視線を落とした。
目黒は大きな手を宮舘のまだ平らなお腹にそっと当て、練習した手話で、一つひとつの動作に祈りを込めるようにして伝え始めた。
――「奇跡を、くれて、ありがとう」
――「俺が、涼太さんも、この子も、絶対に、幸せにします」
手話を終えると、目黒は宮舘のお腹に静かに額を寄せた。
音のない世界で生きる宮舘にとって、自分の体内に宿った命の鼓動を耳で聞くことはできない。
けれど、お腹に触れる目黒の手の温もりと、額から伝わる力強い熱を通して、確かに命の息吹が自分たちの中に響いているのを感じていた。
男性同士の妊娠。
奇跡以下の確率でしか起こらない出来事に、これから乗り越えるべき壁は決して少なくないだろう。
世間の目や、これからの仕事、そして何より宮舘の体の負担。
けれど、宮舘の心には不安よりも、はるかに大きな愛おしさが満ちていた。
宮舘は優しく微笑むと、目黒の頭を撫で、タブレットにこう打ち込んだ。
『二人で一緒に、お父さんになろうね』
その文字を見た目黒は、今日一番の輝くような笑顔を浮かべ、再び宮舘をギュッと強く、けれどどこまでも優しく抱きしめるのだった。
完結まで:残り2日
コメント
1件
いやあ……もう、言葉にならないですね。エコー写真の“小さな光の粒”を、二人で確かめるシーンが胸に沁みました。音のない世界で生きる宮舘が、お腹に触れる目黒の手の温もりを通して命の息吹を感じる――その描写が本当に美しくて。そして「二人で一緒に、お父さんになろうね」という筆談の一文に全部持っていかれました。この先の壁も含めて、愛おしさが勝っているラストが最高です。