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「梨花」 放課後、校門で悟が話しかけてきた。
「あー…。来週末なんだけど…」
「うん、何?」
「来週の土曜日、澱捨神社行かないか?」
「え?」
優月さんと悟の言ってた、あの澱捨神社に?
「今のタイミングで?」
その言葉に悟は苦笑いした。
一週間前、クラスメイトの5人もが、動画配信を見て入院した。
ニュースの説明で、あの電車が関係しているのはすぐにわかった。
―沙莉。
「祭りがあるんだ。捨澱祭っていう。」
「しゃでんさい?」
「うん。なんか、夜店とかも結構出るみたいだから」
「そうなんだ。いいよ」
頷くと、悟が笑った。
「良かった。じゃあ、土曜日公園に18時集合でどう?」
「うん。わかった」
悟は塾へと自転車を走らせていった。
一度、行ってみたいと思ってた。
優月さんが言ってた、『澱捨神社』。
あれから少し調べた。
ごく普通の神社。
変わったところは、小豆や羊羹がお供えされるってこと。
お祓いを主にやってるけど、それは大体どこもやってる。
電車開通で移転された。
それだけ。
本当に、それだけ。
変な噂もなかった。
怪奇現象報告もなかった。
捨澱祭は、知らなかったけど。
地域の小さなお祭りなんだろう。
ー呪いとか、あの電車の女と関係あるのかな。
手帳の中に挟んだ沙莉の写真を見る。
優しく微笑んでる私の親友。
もう、会えない。
涙が溢れてくる。
頬に流れる前に手のひらで拭った。
「何かわかるといいな」
小さくつぶやいて、歩き出した。
土曜日、公園に行くと、悟が待っていた。
「ごめん、遅かった?」
「いや、まだ18時前。」
悟が笑顔で迎えてくれる。
悟がじっと見つめてくる。
「なに?」
「いや…。あの、私服…似合ってるから」
カッと頬が熱くなった。
「ありがと。行こう!」
俯いて、少し早口で言うと、悟が笑うのがわかった。
二人で電車に揺られて、歩いて、澱捨神社に近づくと、屋台の明かりが見えてきた。
「夜店、結構出てるね」
「そうだな」
二人で参道を歩きながら、端に並ぶたこ焼き、玉子焼き、ヨーヨー、金魚すくいを見ていく。
悟の顔が夜店の明かりに包まれていた。
子どものように楽しそうに歩いていた。
思わず、俯いた。
―悟は、呪いを調べるために来たんじゃないのかもしれない…。
そう思った瞬間から、悟の顔が見えなくなった。
―私は、呪いについて調べるためだけに来たのに。
胸が痛くなった。
罪悪感が頭の中を占領した。
「梨花、お参りしよう」
いつの間にか、本殿の前に立っていた。
「うん。」
俯いたまま、小銭を賽銭箱に入れ、お参りをする。
―沙莉の変な噂が消えますように。呪いがなくなりますように。
目をぎゅっと閉じて、ひたすら念じた。
顔をあげると、悟と目が合った。
目を逸らす。
口元に笑顔が作れない。
「腹減ったな」
それでも、悟は明るい声で笑ってくれた。
その広い背中が今まで以上に頼もしく見えた。
たこ焼きを買うことにして、歩いていると、小さな男の子が走ってきた。
危うくぶつかりそうになって、横に避けると、その保護者の男性にぶつかった。
男性の手が転ばないように腕をつかんでくれた。
「ごめんなさい」
とっさに謝る。
「いえいえ、大丈夫ですか?」
男性は優しく微笑んだ。
「ヨウくん、走らないで」
男性が男の子に向かって言う。
「では、これで」
男性が会釈をして去っていく。
「梨花?大丈夫?」
ぼうっとその男性の背中を見ていたら、悟が横にいた。
「あ、うん。大丈夫。」
悟の眉尻が上がって、ニコッと笑った。
その笑顔に釣られるように、自然と笑顔がこぼれた。
「たこ焼き、行こ!」
「うん」
二人で歩く。
先生の話、授業の話、テストの話、クラスメイトの話。
悟との話は全然尽きなくて、楽しくて。
澱捨神社をあとにしたのは、20時を過ぎていた。
公園で別れる。
悟と別れて歩き出す。
―楽しかった。
思い出して口元が綻んでいく。
手の中には赤色のヨーヨー。
悟が取ってくれた。
―あいつ、意外に不器用だったな。
思わず声を出して笑った。
家に帰って、手帳を開くと、沙莉の笑顔が迎えてくれた。
「ただいま、沙莉」
写真をなぞる。
「私、がんばるね」
―澱捨神社、行ってよかった。
「悟、ちょっとかっこよかったし…」
自分の言葉にまた頬がカッと熱くなった。
―呪いだって、噂だって、そのうち消えていく。
『人の噂も七十五日』って言うし。
沙莉の写真の横で、ヨーヨーがゆらゆら揺れた。
沙莉が死んで、半年が経とうとしていた。