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麻の着物は擦り切れて。 玄関の戸は外れ。

すき間風が小屋と成り果てた家を壊していく。

綺麗な着物を着たお小夜。

小さな足で駆けてきて、小さな手で壊れかけた戸を叩いた。


ゆーちゃん。

大きくなっても、ずっとなかよしでいようね。

やくそく。

これ、やくそくのしるしだよ。


小夜からもらった小さな箱。


ここを押すと開くんだよ。

箱の一面を押すと、反対の一面がパカリと開いた。

中には小さな紙が折りたたまれて入っていた。

紙には小夜の名前が書かれていた。


あたしのは、ゆーちゃんのお名前が書いているのよ。

ゆーちゃん、ずっとなかよしでいようね!


お小夜は、十三歳になった時、隣の村へと連れて行かれた。


ゆーちゃん、あたしお嫁さんに行くのよ。

だからね、もう毎日は来られないの。

でもね、旦那さんはね優しい人なんだって。

だから、また来られると思うの。

ゆーちゃん、元気でいてね。


手を振って、去っていく後ろ姿を見送ったのは、それが最後だった。

十二年後、鳥の知らせでお小夜の最期を聞かされた。

お小夜の家は衰退し、随分の苦労をしたという。


お小夜にもらった箱を握りしめ、私は初めて祈りを捧げた。

―お小夜を苦しめたものに、それ以上の苦しみを。


家が崩れ、私は行き場を失った。

体は透けていき、全てが消えていく。

―あぁ、憎し。


残ったのは小さな箱が一つ。

箱はカタリと転がった。

ころころ、ころころ。

子どもが言った。

「これなんだ?」

小さな手の中で、箱はきらりと光った。

「きれいだな!」

箱は子どもの袂の中へ。

コロコロ、袂の中で転がった。

「おにい!これひろったぞ!」


小さな手から大きな手に。

人の手から、人の手に。

「これをお前にやる。幸運のお守りだ」


また人の手に。

「これをその人に渡しなさい。その人は必ず不幸になるから」

辿って、辿って。


「これ、あげる」

「え?あたしもそれ持ってる!」

制服姿のおさげ髪。

二人の少女は微笑んだ。


少女の一人は戦で死んだ。

少女の一人は目を失った。

老婆となったかつての乙女は、杖をつき、手を引かれて、神社の鳥居をくぐった。

老婆は震える手で、神主に二つの箱を渡した。

「楽しい思い出ばかりがあったお守りです」

神主は頷いた。

「お預かりいたします」


小さな箱は、澱捨神社の木箱の中へ。

お祓いがなされた。

浄化がなされた。

はずだった。

箱はころりと木箱の外へ。

神主たちは気づかない。

小さな手が、箱を拾い上げた。


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