テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
麻の着物は擦り切れて。 玄関の戸は外れ。
すき間風が小屋と成り果てた家を壊していく。
綺麗な着物を着たお小夜。
小さな足で駆けてきて、小さな手で壊れかけた戸を叩いた。
ゆーちゃん。
大きくなっても、ずっとなかよしでいようね。
やくそく。
これ、やくそくのしるしだよ。
小夜からもらった小さな箱。
ここを押すと開くんだよ。
箱の一面を押すと、反対の一面がパカリと開いた。
中には小さな紙が折りたたまれて入っていた。
紙には小夜の名前が書かれていた。
あたしのは、ゆーちゃんのお名前が書いているのよ。
ゆーちゃん、ずっとなかよしでいようね!
お小夜は、十三歳になった時、隣の村へと連れて行かれた。
ゆーちゃん、あたしお嫁さんに行くのよ。
だからね、もう毎日は来られないの。
でもね、旦那さんはね優しい人なんだって。
だから、また来られると思うの。
ゆーちゃん、元気でいてね。
手を振って、去っていく後ろ姿を見送ったのは、それが最後だった。
十二年後、鳥の知らせでお小夜の最期を聞かされた。
お小夜の家は衰退し、随分の苦労をしたという。
お小夜にもらった箱を握りしめ、私は初めて祈りを捧げた。
―お小夜を苦しめたものに、それ以上の苦しみを。
家が崩れ、私は行き場を失った。
体は透けていき、全てが消えていく。
―あぁ、憎し。
残ったのは小さな箱が一つ。
箱はカタリと転がった。
ころころ、ころころ。
子どもが言った。
「これなんだ?」
小さな手の中で、箱はきらりと光った。
「きれいだな!」
箱は子どもの袂の中へ。
コロコロ、袂の中で転がった。
「おにい!これひろったぞ!」
小さな手から大きな手に。
人の手から、人の手に。
「これをお前にやる。幸運のお守りだ」
また人の手に。
「これをその人に渡しなさい。その人は必ず不幸になるから」
辿って、辿って。
「これ、あげる」
「え?あたしもそれ持ってる!」
制服姿のおさげ髪。
二人の少女は微笑んだ。
少女の一人は戦で死んだ。
少女の一人は目を失った。
老婆となったかつての乙女は、杖をつき、手を引かれて、神社の鳥居をくぐった。
老婆は震える手で、神主に二つの箱を渡した。
「楽しい思い出ばかりがあったお守りです」
神主は頷いた。
「お預かりいたします」
小さな箱は、澱捨神社の木箱の中へ。
お祓いがなされた。
浄化がなされた。
はずだった。
箱はころりと木箱の外へ。
神主たちは気づかない。
小さな手が、箱を拾い上げた。