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#ファンタジー
聖なる国・レッドリアには、最高位の聖者『ガイス』、最強の聖女『エリーナ』という二人の英雄がいた。
銀髪のガイスと金髪のエリーナは惹かれ合い結ばれて、やがて二人の子供を授かった。
それが、姉のポーラと妹のランナの姉妹である。
これは今から約16年前、ランナが3歳の頃の出来事。全てはこの時から始まっていた。
一家が住むのは、レッドリアの隣国であるジョルノ国。森に囲まれた辺境の街・モーメントの小さな家で暮らしていた。
父のガイスは聖者の医師で、母のエリーナは聖女の薬剤師として二人で働く。この頃から自宅を診療所、リビングを診察室にしていた。
ある日、見慣れない親子の患者が診察室に入ってきた。ガイスと同じくらいの歳の大人の男性と、6歳くらいの男の子。
この診療所の患者は主に街の人たちだが、最強の聖者の二人を頼りにして遠くからやってくる者もいる。
ガイスは、たとえ患者が他国の者だろうと医師として全力を尽くす。
「初めまして、医師のガイスです。隣は妻で薬剤師のエリーナです。息子さんの診察ですね。どうされましたか?」
四角い木のテーブルを挟んで向かい側に座っているのは、グレーの髪の父親と銀髪の男の子。親子で来たという事は患者は男の子の方だ。
男の子は大人しい性格なのか黙って俯いている。気品に溢れた黒いスーツ姿の父親が丁寧に頭を下げる。
「初めまして、クロノスと申します。こちらの息子はアサです。レッドリア国の英雄の夫婦が、この街にいると聞きましてな」
「まぁ、色々ありまして、レッドリアから追放されたんですよ」
「あなた、そこまで話さなくても!」
ガイスの隣に座って話を聞いていた妻のエリーナが慌てて話を中断させる。しかしガイスは話したいようで止まらない。
「王族の方に調合した薬が効かずに失敗作だと疑いをかけられて。それで追放の刑ですよ。今ではレッドリア国の英雄ではなく犯罪者です」
「ほう。大変でしたな」
魔法薬を調合できる聖女はこの世でエリーナただ一人。処方箋を書くのはガイスなので、聖者二人がかりの調合で失敗は考えられない。
調合に失敗した魔法薬を飲むと命に関わる事もあるが、本当に調合に失敗したのか真実は分からない。
「だから王族の方の診察はもうご遠慮願いたいものです」
「それはそれは……」
クロノスの反応は相槌にしては感情がない。それどころか胸ポケットから銀色の懐中時計を取り出して時間を気にしている。
「ガイス先生、間もなく12時です。アサの様子を見てください」
それは『診察してください』とは少し違うニュアンスで不自然な言い方だった。それに、なぜ時間を告げたのか。
ガイスが俯いているアサを見ると、髪の色が銀色から金色へと色付いていく。やがて全ての髪が金に染め尽くされると急にアサが顔を上げる。
「あれ? おじさん誰? なぁ親父、ここどこだよ!?」
「ヒル、落ち着きなさい。ここは病院だよ」
アサだった少年は名前がヒルになり、急に明るい声と口調に変わって動きにも落ち着きがない。まるで別の人格に変わってしまったかのようだ。
不可思議な現象を目の当たりにしたガイスとエリーナは、ただ唖然とするしかなかった。
キョロキョロと首を動かしているヒルの肩をクロノスが抱いて落ち着かせる。
「見ての通りです。息子は一日に人格が三回変わるのです」
数々の患者を診てきたガイスでも前例のない症状に困惑する。これが病なのか、薬で治るものなのかも未知であった。
ガイスはカルテに症状を記入しながらも頭を抱えてしまう。退屈になったヒルは椅子から降りると部屋の中を歩き回る。
奥の部屋へと続く出入り口に近付くとドアが急に開いて、そこから幼い女の子が飛び出してきた。
「お母さん~! お腹すいたぁ! あれっ!?」
3歳くらいの女の子は、3つほど年上のヒルを見上げて動きを止める。かと思うと、すぐに笑顔になる。
「こんにちは! 私、ランナ! お兄ちゃんはカンジャさん?」
「よぉ、オレはヒルだ! よろしくな! ランナちゃんは、あのお医者さんの娘か?」
「うん! ヒルくん、私と髪の色が同じだね!」
ランナとヒルは二人とも美しい金髪で、明るく人懐っこい性格も同じ。共通点が多い二人は出会ってすぐに仲良くなった。
子供たちが部屋の隅で無邪気に遊んでいる間に、大人たちは真剣な話を進めていた。
「つまり、息子さんの人格を1つに統合したいという事でしょうか」
「正確には統合ではなく、1つの人格だけを残したいのです」
クロノスの不穏な発言に、ガイスの隣で話を聞いているエリーナが不安そうに瞳を揺らしている。
それはつまり、残りの2つの人格を『殺す』という意味と同じ。そのための魔法薬を求めて来たという。
「アサは大人しくて、ヨルは無感情。社交的なヒルが跡継ぎに相応しいのです」
クロノスの話を聞いていると、ヒルは貴族の跡取り息子なのだと分かってきた。
しかしガイスも二人の娘の父親。患者の身分に関係なく、その依頼は受け入れがたい。
「申し訳ありませんが、お受けできません」
「なぜです? 不可能ではないでしょう。妻も同意してますよ」
「なおさら考え直して下さい。人格だけとはいえ息子さんお二人を殺す事と同じです。それに僕たちの薬は、そんな……」
話の途中で、クロノスは手に握っていた懐中時計を裏返してガイスの目の前に差し出して見せた。
銀色の懐中時計の背面には白い薔薇の紋章が刻印されている。それはジョルノ国の王家の象徴。
「申し遅れたね。私はジョルノ国王、クロノス・ヴァクト。君たちに拒否権はないのだよ」
低姿勢で紳士的な態度から一変したクロノスは、ガイスに威圧的な態度で迫った。
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