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最初に戻ったのは、痛覚だった。
焼けるような鈍痛が、肩から胸にかけて広がる。
ロボロは無意識に身を捩ったが、すぐに固定されていることに気づいた。
「動かんないでいいよ」
低く、落ち着いた声。
視界の端に、白衣と手袋が映る。
「銃創は塞がってきてるけど、問題は……それ以外だなぁ」
しんぺい神だった。
ロボロは喉を鳴らそうとして、失敗する。
管が入っている感覚に、胸がざわついた。
「……喋らないでいいから、今は聞くだけでいい」
モニターの電子音が、一定のリズムを刻んでいる。
心拍、血圧、酸素飽和度――どれも、異様なほど安定していた。
「普通、あの状態で国境越えて撃たれたらな」
しんぺい神は、記録端末を操作しながら続ける。
「ショック状態にならん方がおかしい」
数値がスクロールされる。
再生速度、代謝率、自己修復反応。
人間の基準値から、わずかに、だが確実に外れている。
「……実験、されてたかな」
断定だった。
ロボロは、目を閉じた。
答えなくても、もう隠せない。
身体が、すでに答えを持っている。
「トントンにも回したけど、履歴が無さすぎる」
その名を聞いた瞬間、ロボロの指先が僅かに震えた。
「医療データも、出生記録も。
存在してた痕跡だけがある」
まるで、途中から作られた人間のように。
しんぺい神は、一拍置いてから言った。
「……体の内部構造、一部が“設計図通り”っぽいし」
ロボロの呼吸が乱れる。
あの白い部屋。
数値と音声だけが飛び交う場所。
「成功率」「次段階」「経過良好」
人格は、常に後回しだった。
「安心して」
しんぺい神は、真正面からロボロを見た。
「でも、ここでは“治療対象”だから
研究材料やない」
その言葉が、なぜか一番怖かった。
信じていいのか分からない。
信じるという行為そのものが、もう分からない。
扉の向こうで、話し声がする。
「あの国の被検体____?」
ロボロは、その言葉に微かに目を見開いた。
「外見も、判断速度も一致しとる。
ただし……」
トントンの声だった。
「あの国の“秘匿情報”だな」
沈黙。
「総統には?」
「もう上がっとる。扱いはエーミールとかでこの国のことを教えるとかでいいか」
ロボロは、天井を見つめた。
分類。
評価。
使い捨て。
また同じだ、と一瞬思って――
「ロボロ」
しんぺい神が、はっきりと名前を呼んだ。
「少しばかり我慢して、いつか____」
その一言で、胸の奥がひどく軋んだ。
身体は改変されている。
過去も、壊されている。
それでも。
この国で、
自分は“誰として扱われるのか”。