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「俺たち白華楼の隊員は一斉に咲莉那に攻撃を開始した。咲莉那も火龍使いの力で炎を操り、俺たちに応戦した。だが、彼女の炎はただ相手を気絶させるだけで、決して命を奪おうとはしなかった。自分を殺そうとしている相手を前にしても、彼女の瞳には迷いがあった。それは、悲しみと痛みに満ちた光だった。
その瞬間、彼女が何を思っていたのかを俺は想像するしかない。仲間であるはずの俺たちから命を狙われる――それがどれほどの絶望だったのか。けれど、彼女は自分の信念を貫いた。
戦いが激しさを増した時だった。冬叶ちゃんが戦場を駆け抜けていく姿を俺は見てしまった。護衛たちが炎に対応している間に、彼女が咲莉那へと向かっていったんだ。俺が次に冬叶ちゃんを見たときには、彼女は咲莉那を突き飛ばしていた。そして、次の瞬間――白華楼の隊員が構えていた刀が彼女を貫いた。たぶん、あれは咲莉那を刺そうとしてたんだろう。冬叶ちゃんが庇ったことで、彼女がその刃を受けることになった。
戦場には炎が舞い上がり、地面に焦げた匂いが立ち込め。遠くで冥王様が叫び続ける声が聞こえていた。
刃が抜かれ冬叶ちゃんはその場に倒れた。冬叶ちゃんを刺した隊員は、焦ってるみたいでな、後ずさりしてたよ。
咲莉那が絶望と怒りそして悲しみが滲んだ声で叫んだその瞬間、咲莉那が暴走し、火龍使いの力を制御出来なくなった。
炎は咆哮するかのように広がり、隊員たちを次々に襲った。咲莉那の瞳は赤く燃え上がり、まるで彼女自身が炎の化身になったかのようだった。隊員たちは次々に吹き飛ばされ、周囲は灼熱の光に包まれた。
「やめろ!」と俺は叫んだが、その声は炎の轟音の中に掻き消された。咲莉那の暴走が止まる気配はなかった。
冥央は叫んだ。『怯むな!進め!討ち取るまで止まるな!』と叫んだが、その言葉に従える者はほとんどいなかった。隊員たちは恐怖に駆られ、後退する者、地面に倒れる者が続出していた。冥央様の言葉に従えた者は、暴れ狂う咲莉那に突撃していったよ。でも、暴走した咲莉那に敵わなくてな、次々となぎ倒されていった。少したった頃、咲莉那が力を使い果たしたのか、倒れかけたときだった。火楽様が現れてな、咲莉那を抱き抱えて飛んでいった。
動ける隊員は、追おうとしたが冥央様が『これ以上の深追いは危険だ。動ける者は治癒部門へ怪我人を引き渡せ!咲莉那討伐は延期とする!』と指示をした。あの日は、多くの隊員が命を落とし、悲惨な光景だったよ。さながら…地獄だった。」源次おじさんの声は、わずかに震えていた。「俺はもう、耐えられなかった。…もう咲莉那の討伐に関わりたくなかった。」
源次おじさんは釣りざおを強く握り締めたまま、静かに続けた。「その日を境に俺は白華楼を去った。――俺が分かるのはここまでだ。」
瑛斗は源次おじさんに軽く頭を下げ、「ありがとう」と小さく呟いた。
瑛斗が辺りを見渡す。「あれ、咲莉那さんと秋穂さんは?」と呟いた。すると村人たちが「秋穂が咲莉那を連れて自分の家に行ったぞ」と教えてくれたのだった。
その直後、「瑛斗!」と呼ぶ声が響き、彼が振り向くと、火楽がこちらに走ってくるのが見えた。
「火楽様、どうしたんです?」瑛斗が問いかけると、火楽は息を整える間もなく急ぎ足で詰め寄った。「主様を見てないか?」
瑛斗は少し考え込んだ後、静かに答えた。「秋穂さんが咲莉那さんを連れて自分の家に行ったそうなので、おそらく、秋穂さんの家に向かったと思います。今、追いかければ間に合うと思いますよ。」
火楽は深く頷き、「そうか、ありがとな瑛斗」と礼を言うと、再び全速力で秋穂の家へと走り去った。
咲莉那と秋穂は、暖かな夕日を浴びながら笑顔で何かを話していた。「それでね、そのとき秋穂が…」咲莉那が笑いながら言いかけたとき、不意に「主様!」という声が彼女の耳に飛び込んできた。振り向くと、火楽が砂埃を立てながらこちらに走ってきていた。
「火楽。」咲莉那が名前を呼ぶと、火楽は少し乱れた息を整えながら急いで言葉を続けた。「良かった、やっと合流できた。ところで…主様、どうして術を解いているんです?」
咲莉那は少し困ったような顔で笑い、「最初はちゃんと化けてたんだよ。でも目の色でバレちゃってね。でも、白華楼のやつらにはバレてないよ。」
「そうか、それなら良いのですが…気をつけてください。」火楽が少し安堵の表情を浮かべたのを見て、秋穂が軽い口調で言った。「火楽様。せっかくなので、貴方もご一緒に来てください。」
火楽は短く頷き、「ああ、かまわない」と答えた。こうして三人はゆっくりと秋穂の家へと向かった。
咲莉那と火楽は秋穂の家に到着すると、秋穂の案内で居間へと通された。暖かな雰囲気が漂う室内には、秋穂の心遣いが感じられ、二人は静かに腰を落ち着けた。
秋穂が「咲莉那…これ」そう言って咲莉那に手紙を渡した。「この前、冬叶の家にお邪魔してきて、冬叶のお母さんが、『この前冬叶の残りの遺品を整理してね、その中に咲莉那ちゃん宛の手紙があったの。よかったら秋穂ちゃん、咲莉那ちゃんの代わりに受け取って』って」と話した。咲莉那が手紙を受け取り、手紙を開いた。その瞬間咲莉那は涙を流した。「主様、どうされたのですか?どこか痛むのですか?」火楽が心配そうに聞くと咲莉那は首を振った。「ううん、違う。そうじゃなくて、冬叶の優しさが、こんなにも温かくて…。」冬叶はこの世にはもう居ない、だが、冬叶の優しさと温もりがたしかにここにはあった。咲莉那宛の手紙には、たった一言、書かれていただけだったが、その一言は愛に溢れた言葉だった。
「世界があなたに優しくありますように。」
次の日、咲莉那は瑛斗を連れて森へと向かった。木々の間を抜けると、そこには色鮮やかな花畑が広がっていた。「瑛斗、ついたよ。」咲莉那の声に促され、瑛斗は顔を上げた。
「わぁ~。」彼の口から思わず声が漏れる。目の前には紫や赤、黄色に白の花々が風に揺れながら咲き誇っている。陽の光を浴びて輝くその光景は、まるで絵画のようだった。
瑛斗は周囲を見渡しながら、「こんな場所があるなんて…。咲莉那さん、ありがとう。」と静かに呟いた。咲莉那は微笑みながらそっと花に手を触れ、「ここは私が見つけた場所なんだよ。」と小さな声で言った。
「ここに連れてきたのは、秋穂と冬叶、あと火楽だけだったんだけど、瑛斗も連れてきたから…四人目だね。」と咲莉那が言った。その後思い出したようにクスッと笑った。
「どうしたんですか?」瑛斗が不思議に思い、咲莉那に問いかけた。
「火楽をここに連れてきたときに花の冠を作ってくれてね。」咲莉那は目を細めながらそっと笑った。「『あなたは花がよく似合う』って。」
瑛斗はその言葉を聞いて、小さく息をついた。「それは…なんだかとても素敵ですね。」彼は目の前の花畑を見渡しながら、火楽がここで咲莉那のために冠を作る姿を想像していた。
二人はしばらく花畑でのんびりと過ごした後、咲莉那がゆっくりと立ち上がった。
「帰るんですか?」瑛斗が尋ねると、彼女は少し微笑んで答えた。「いや、私は少し森を散歩してから帰るよ。だから先に帰ってて。」
瑛斗は名残惜しい気持ちを胸に抱きながら、花畑をあとにした。振り返ると、咲莉那が森へと歩き出す姿が見えた。その背中がどこか静かで力強く、瑛斗はふと心が温まるような気がした。
咲莉那は森の中を静かに歩き続けた。やがて少し開けた場所に出ると、彼女の目に木漏れ日に照らされた緑の草原が広がった。その足元には小さな花が咲き乱れ、遠くでは川がささやくように流れている音が聞こえた。
「火楽と会ったのもここだったなぁ。」咲莉那は一瞬立ち止まり、目を閉じる。
――あの日、自分が何を感じ、どう選び取ったのか。その記憶は今も鮮明だった。
咲莉那の火龍使いとしての運命はここから始まったのだ。