『__今年も猛暑となるでしょう。熱中症対策をしてください。』
今年も例年通り猛暑を告げるニュースが流れている。
外の木で鳴く蝉が煩い。
私は、団扇を仰ぎながらボーッとテレビを眺めていた。
「ちょっと夏華!!ぼーっとしてないで勉強しなさいよ!!課題終わってないんでしょ?」
「あーはいはい、やりますよー。」
口うるさい母の言葉を適当に流し、私は玄関に向かう。
「ちょっと、どこ行くのよ。」
「ん?えーと、コンビニ。」
「あぁそう。私はもう知らないからね、行くなら気をつけて行ってらっしゃい。」
「はーい。」
サンダルを履いて外に出る。
日差しが強い。アスファルトの上に陽炎が見える。
車庫から自転車を引っ張り出し、サドルの高さを確認する。去年の夏から一度も乗っていない。
少し低かった。私も少しづつ成長しているのだ。
調整し直した自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。
暑い日差しの中に吹く、生暖かい風が妙に夏という季節を私の身に感じさせる。
家の前の坂を下り、一面が田圃の平原に出る。
人がまばらにいる。みんな、麦わら帽子を被って一生懸命に稲を耕している。
私より年寄りなのに大変そうだなぁと思った。
私はその田圃の間を抜け、コンビニに着いた。
自転車を留め、面倒臭いから鍵はかけずに、滑り込むようにコンビニの中に入った。
冷房が心地いい。
私は、一目散にお目当てのアイスを買うために、奥の方へ進んだ。
夏だからか、アイスの種類が増えている。
スイカやら夏の果物のアイスが多い。が、私が好きなのは白くまのアイスだ。昔っから夏にここに来てはこのアイスを買っている。
私は白くまのアイスを手に取り、レジに向かう。いかにも「バイトだるー」と思っていそうな若いギャルの店員が、「こちらへどうぞー」と言っている。
「お願いします。」
私は丁寧に白くまのアイスを差し出した。
ギャルのお姉さんは素早く読み込んで会計をしてくれた。
「ありがとーございましたー」
その声を背に私はコンビニを出る。
照りつける太陽が眩しい。流れ出る汗をそのままに、私は白くまの入ったビニール袋を自転車のカゴに入れ、サドルにまたがった。
「ふぅ…帰りますかぁ…」
私は自転車を漕ぎ出した。
しばらく漕いでいたところ、私は暑さでぼーっとしていたからか、ガードレールにぶつかってしまった。
「いてっ!」
そのまま体が倒れる。転んでしまった。
「うわ…擦りむいた…絆創膏なんて持ってないし!」
私は道路の端っこで膝をさすった。
私の家がある田舎は、この時期、しかもいちばん暑い日中になんて誰も出かけようとしない。そのため、車通りも少ないのだ。
血がジワ…と滲む。
膝に汗がポトッと垂れた。
その時だった。
「ねぇ、君大丈夫?」
「…無理……って、え?」
「ごめん、通りかかったら人が座ってるもんだから、つい。」
「いや、あ、ありがとうございます…?」
いきなり私に声をかけてきた人は、髪をかきあげて、白Tシャツにジーンズという、いかにも夏という感じの格好をしていた。
……それなりに顔もいいイケメンだ。男の。
私がついつい彼の顔をまじまじと見つめていると、彼は照れくさそうに頭をかいて笑った。
「あはは、そんなに見つめられると照れるよ」
「あっ、ごめん……。」
「それよりも、その膝。はい、絆創膏。」
彼は太陽のように眩しい笑顔で私に絆創膏を差し出す。
「え…いいの?」
しかも絆創膏の柄が可愛い。くまさんの絵が書いてあるものだ。
「こんなに可愛いの、貰ってもいいの?」
「あ!ごめんごめん!弟がそれ好きでさ…」
「へぇ、いい趣味してるね、弟くん。」
私達は、前から知り合いだったかのように話した。夏の暑さも忘れて、話していた。
私が絆創膏を貼り終わったところで、彼は立ち上がった。
「さてと、俺はそろそろ行くよ。」
「あっ、ごめんね。次いつか分からないし…さよなら!」
「…また、会うと思うよ。またね!」
彼は笑顔でそう言い残し、颯爽とその場を去っていった。
「…また会う…?」
私は彼が残していった言葉を気にかけながらも、倒れたまんまにしていた自転車を起こして、再び漕ぎ出した。
何故か、さっきよりも風が涼しく感じた。
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