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#恋愛
ばたっちゅ
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#微糖
# 第十三・五話 『大丈夫の意味』
*――セシル視点――*
夜。
第一男子寮。
静かな廊下を歩き、自室の扉を開ける。
「ただいま戻りました。」
部屋では、エリスが慌てて本を閉じた。
「あ、おかえりなさい、セシルさん!」
「ええ。」
穏やかに微笑みながら荷物を置く。
静かな部屋だ。
けれど。
今日一日、頭から離れない光景があった。
◇◇◇
――大丈夫。
リュシアンは今日もそう言った。
木箱を一人で運びながら。
手伝いを断りながら。
笑顔で。
(またですか。)
幼い頃から何度聞いただろう。
「大丈夫。」
「平気。」
「問題ない。」
その言葉ばかり。
だが、セシルは知っている。
リュシアンの「大丈夫」は、本当に大丈夫な時には使われない。
◇◇◇
「セシルさん?」
エリスが不思議そうにこちらを見る。
「何かありました?」
「……少し考え事を。」
「そうなんですね。」
エリスは少し考えてから、小さく笑った。
「今日の授業、すごかったですね。」
「リュシアンさん、本当に教えるのが上手で……。」
「ええ。」
「誰かに教え慣れているのでしょう。」
自然と返事をしながらも、思考は別のところにあった。
◇◇◇
幼い頃。
神殿の庭。
まだ七歳だった頃。
薬草の手入れをしていたリュシアンが、突然咳き込んだ。
苦しそうだった。
顔色も悪かった。
だから聞いた。
『無理をしていますね?』
返ってきた言葉は、やはり同じだった。
『大丈夫。』
そして。
少し笑って。
『心配しないで。』
あの時も。
今日も。
何一つ変わっていない。
◇◇◇
「セシルさん?」
「ぼーっとしてますよ?」
エリスの声で我に返る。
「失礼しました。」
椅子に腰掛け、お茶を淹れる。
部屋に優しい香りが広がった。
エリスは湯気を見つめながら、ぽつりと呟く。
「リュシアンさんって……。」
「優しいですよね。」
「ええ。」
「でも。」
エリスは少し言い淀む。
「なんだか……。」
「一人で立ってる感じがするんです。」
その言葉に、セシルは手を止めた。
(この人も気付くのですか。)
まだ数日しか一緒にいないというのに。
リュシアンの孤独を。
◇◇◇
「私も。」
静かに口を開く。
「そう思います。」
「え?」
「彼は優しい。」
「だから、人を頼らない。」
「頼る前に、自分で終わらせてしまう。」
エリスは真剣に聞いている。
「それって……。」
「寂しくないんですか?」
セシルは窓の外を見た。
夜空には月が浮かんでいる。
「寂しいと思います。」
「ですが。」
「本人は、それを口にしません。」
エリスは少し俯く。
「どうして……?」
「分かりません。」
そう答えた。
本当は違う。
理由はいくつも予想できる。
誰かに迷惑をかけたくない。
心配させたくない。
弱さを見せたくない。
だが。
どれも決定的ではない。
◇◇◇
ふと、今日の笑顔を思い出す。
『ありがとう。』
そう言って笑ったリュシアン。
綺麗な笑顔だった。
だからこそ。
(……隠しましたね。)
あの笑顔は。
本音を隠す時の笑顔だった。
幼い頃から、何度も見てきた。
なのに。
(私は。)
(まだ理由を知らない。)
理解者だと思っていた。
幼馴染だから。
神殿で一緒に育ったから。
誰よりも知っていると思っていた。
けれど現実は違う。
リュシアンの一番深い場所には、まだ届いていない。
◇◇◇
「セシルさん。」
エリスが小さく言う。
「もし。」
「もし、リュシアンさんが困ってたら。」
「僕、力になりたいです。」
その真っ直ぐな言葉に、セシルは優しく微笑んだ。
「ええ。」
「きっと彼は。」
「『大丈夫』と言うでしょう。」
「……それでも。」
エリスは静かに続ける。
「何度でも声をかけます。」
セシルは目を細めた。
(そうですね。)
(それが正しいのかもしれません。)
何度断られても。
何度笑われても。
手を差し伸べ続けること。
いつか、その「大丈夫」が本当ではなくなった時のために。
その夜。
セシルは眠る前に、小さく呟いた。
「……リュシアン。」
「あなたは。」
「いつになったら、私たちを頼ってくれるのですか。」
返事はない。
静かな夜だけが、部屋を包んでいた。
-–
**第十三・五話 『大丈夫の意味』 終**
コメント
1件
いや〜セシル視点回、めっちゃ刺さったわ…。「大丈夫」が本当に大丈夫な時には使われないって気づいてるの、幼馴染だからこその解像度だよな。リュシアンの「隠す笑顔」の描写、ゾッとするほど綺麗で怖かった。エリスもちゃんと一人で立ってる感じを察してて、二人で「何度でも声をかけ続ける」って決意するところ、熱いし切ない…。この距離感、めちゃくちゃ好き🔥