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#微糖
# 第十四話 『実技試験』
王立魔法学園。
入学から一週間。
今日の授業は、魔法実技だった。
広大な演習場には、Sクラスの生徒たちが集められている。
教師が前へ出た。
「今日は基礎実技だ。」
「攻撃ではない。」
「魔力制御を見る。」
その一言で、リュシアンは少しだけ肩の力を抜いた。
(攻撃じゃないなら、大丈夫。)
人を傷つける魔法は、できるだけ使いたくない。
◇◇◇
「試験内容は単純だ。」
教師が六つの水晶球を浮かべる。
透明な球体が空中でゆっくり回転する。
「魔力を流し込み、どれだけ均等に制御できるかを見る。」
「出力ではない。」
「精度だ。」
ノエルが小さく呟く。
「面白い。」
「やっと実力が見える。」
教師が頷く。
「では、アルフレッドから。」
◇◇◇
アルフレッドは水晶に手をかざす。
「いきます!」
金色の魔力が流れ込む。
一つ。
二つ。
三つ。
六つの水晶がほぼ同じ明るさで輝いた。
「おお……!」
教師が感心する。
「かなり安定している。」
アルフレッドは嬉しそうに笑った。
「やった!」
◇◇◇
次はレオンハルト。
力強く、しかし繊細に魔力を流す。
水晶は一切揺れない。
「見事だ。」
「騎士らしい制御だな。」
レオンハルトは短く頷くだけだった。
◇◇◇
セシル。
柔らかな光が水晶を包む。
まるで祈りのような魔力。
「神聖術に向いた制御ですね。」
教師も納得したように頷いた。
◇◇◇
ノエル。
無駄がない。
正確。
まるで機械のように、六つすべてが完全に同じ光量になった。
教師が目を見開く。
「誤差……ゼロか。」
「当然。」
ノエルはそれだけ言った。
◇◇◇
エリス。
少し緊張しながら手を伸ばす。
「……!」
白い光が優しく広がる。
少しだけ揺れたが、水晶はすべて光った。
「初めてにしては十分だ。」
教師が微笑む。
エリスはほっと息をついた。
◇◇◇
「最後。」
「リュシアン。」
「はい。」
静かに前へ出る。
演習場が静まり返った。
誰もが期待している。
首席。
史上初の満点入学。
特別講師補佐。
その実力を。
リュシアンは水晶を見る。
(いつも通り。)
(力を入れすぎない。)
そっと魔力を流す。
その瞬間。
六つの水晶が同時に光る。
いや。
光るだけではなかった。
淡い銀色の光が、まるで呼吸をするように脈動し始める。
教師が目を見開いた。
「これは……!」
水晶が震えない。
魔力漏れもない。
均等。
完全。
そして。
六つの光が共鳴し、美しい星空のような模様を空中へ描き出した。
「……綺麗。」
エリスが思わず呟く。
アルフレッドも目を輝かせる。
「すごい……!」
教師はしばらく言葉を失っていた。
「……満点。」
「いや、それ以上だ。」
リュシアンは静かに魔力を止める。
光は音もなく消えた。
「ありがとうございました。」
それだけ言って一歩下がる。
◇◇◇
「質問。」
ノエルが手を挙げる。
「どうやったの?」
教師より先に聞いた。
リュシアンは少し考えて答える。
「均等になるまで練習した。」
「どれくらい?」
「……覚えてない。」
本当は覚えている。
泣きながら何千回も繰り返した。
涙が一粒落ちるまで、制御を続けた日々。
でも、それは言わない。
「才能?」
ノエルが続ける。
「違う。」
「努力。」
短い返事だった。
その一言に、ノエルは少しだけ黙る。
そして、小さく呟いた。
「……なるほど。」
◇◇◇
授業終了後。
教師がリュシアンを呼び止める。
「リュシアン。」
「はい。」
「来週から、上級生向けの実技補助も頼めるか?」
一瞬、周囲が静まり返る。
「一年生なのに?」
「上級生を教えるの?」
ざわめきが広がる。
リュシアンは少しだけ困ったように微笑んだ。
「……授業に支障が出ないなら。」
「引き受けます。」
教師は満足そうに頷いた。
「助かる。」
その様子を見ていたアルフレッドは、思わず笑ってしまう。
「もう先生じゃん。」
「補佐。」
「またそれ!」
笑い声が演習場に響く。
その少し後ろで、セシルは静かにリュシアンを見つめていた。
(努力、と言いましたか。)
(あなたはいつも、そう言う。)
誰よりも努力している。
誰よりも苦しんでいる。
なのに、それを「当たり前」のように話す。
その姿が、少しだけ胸を締めつけた。
一方、ノエルは手帳に新たな一文を書き加える。
> **リュシアン・アルヴェイン**
>
> 才能ではなく努力と断言。
>
> ……だが、その努力は常人の尺度では測れない。
そして、手帳を閉じる。
春の風が演習場を吹き抜ける。
誰もまだ知らない。
この「努力」という言葉の裏に、世界を滅ぼしかねない未来を恐れ、幼い頃から涙を流し続けてきた少年の覚悟が隠されていることを。
-–
**第十四話 『実技試験』 終**
コメント
1件
うわあああ、リュシアンの実技試験、めっちゃ良かった…! 水晶が星空の模様を描き出すとか、もう圧巻すぎる。他の生徒たちが「すごい」って息を呑む中で本人は「努力した」ってだけ言うのが、逆に胸にくるんだよな。ノエルが「才能?」って聞いて「違う。努力」って即答したところ、痺れた。あと「泣きながら何千回も繰り返した」って過去がちらっと見えるのも、グッとくる…。上級生の補佐も頼まれてもう先生じゃんって笑っちゃったけど、セシルが静かに見つめてたのも含めて、この回すごく好きです🔥