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「ですから!何かあったらすぐに報告連絡相談をしてくださいとあれほど……あ、支度終わったかな?」

リビングに入ると、すぐにリオルの声が響いてきた。

「終わりました。お話中でしたか?」

「いや、大丈夫だ。話は後でもできるからな。では会議室に行こうか」

ひとりでそそくさとリビングを出ていく魔王をリオルが止めに入る。

「あっ、待ちなさい魔王様!……あーもう。すまない。見苦しい場面を見せたね。ではついてきてくれ」

額から生えている黒いツノを右手でかきながら、リオルは玄関口を開いた。勇者とマーヤは、普段からしていると言えるほど自然に手を繋いで、リオルに続いた。それを見たリオルが、二人は恋人同士なのだと誤解するのも当然だった。


魔王もらくらく通れるようになっている三メートルサイズの玄関扉をくぐると、魔王城の中庭が広がっている。魔王の自宅の3階まで届くほど大きいさくらの木、もとい寿樹様の一部が庭の中央に生えていて、一月のため葉もなく寂しげだ。中庭は低木に囲まれていて、一部生えていない場所が庭と魔王城内部を繋ぐ扉になっている。所々にある花壇を見ると、しっかりと手入れが行き届いているのだとわかる。枯れているものもなく、綺麗に咲き乱れていた。一流の庭師がいるのだろう。


中庭から城内に入ると、一定間隔でオレンジ色のランプが並ぶ廊下に出る。幅の広い廊下の壁には大小の扉が付いていた。そのうちの小さい扉を開き、リオルは部屋の中へ入ることを促した。素直に従い、部屋に入ると、そこは10脚の椅子と大机があり、魔王城の部屋にしては小さめな会議室だった。


先についてるものだと思っていたが、ここに魔王の姿はない。部屋を間違えているのだろうか。リオルに聞こうとしたところで、部屋に魔王が入ってきた。両手に、トレーに乗せたティーセットを持っている。

「待たせたか?」

「今来ましたよ。さあ、魔王様?聞きたいことがありますので、終わるまでこの部屋から出ないでくださいね」

そう言いながら、リオルが扉を閉める。激しくはないのに、締め方から微かな怒りが伝わってくるようだ。各自、任意の席に座る。魔王はお気に入りの席なのか、出入り口から一番遠い席に腰掛けた。勇者とマーヤはその魔王の席から二席ほど離れた場所に隣り合って座る。椅子はニメートル越えの魔王でもゆったりと座れるつくりで、真紅の装飾に所々薔薇が彫られている。座り心地は勿論良い。帝人国の宮殿の椅子と遜色ないくらいだ。


さらさらとしている肘掛けを勇者が撫でていると、目の前に紅茶の入ったカップが置かれる。リオルが運んでくれたのだ。同様に、マーヤの前にもカップが置かれる。魔王にも運んだ後、リオルは勇者の向かいの席に座った。一呼吸おいて、魔王がひとくち紅茶を飲んだ後、リオルが勇者とマーヤをじっと見た。

「さて、まずは、君たちが何者なのか知りたいんだけど、人間……だよね?」

「はい」

「どこから来たんだい?」

「……帝人国から」

ふむ、とリオルはひとりでに頷く。

「ああ、ごめん。名乗ってなかったね。私はリオル・ラインズ。魔王様の補佐をしている者だ。君たちの名前、教えてくれるかい?」

「……なまえ、は」

「私は魔法使い、マーヤです」

「僕は勇者の…」

「ちょっと、それを言っちゃ」

「え?君…勇者なの?」

「?…はい」

「違います!」

マーヤが慌てて否定する。魔王城で勇者発言は流石に危ないと判断した。いくら魔王自身が勇者の存在を肯定しても、魔王軍が肯定するとは思えない。

「え?でも」

「勇者様はだまっ…あ」

しかし遅かった。言い慣れた名前を呼んでしまうのも無理はない。リオルが事態を把握しきれずフリーズしている。魔王はそっぽを向いて知らんふりを決め込んでいる。そんな中、会議室のドアが叩かれた。魔王が返事をする。

「入れ」

「報告します!」

入ってきたのは中級魔族だった。

「魔王城に侵入者2名!膨大な魔力量を感知!現在!捜索にあたって…」

中級魔族が報告書から目を離し、勇者とマーヤを視界に入れる。報告書を二度見する。三度見をする前に、魔族が通信機に向かって叫んだ。

「侵入者発見!!東棟2階の会議室Bで発見!!」

「はぁ?!ちょっ、勇者様?!」

「君!待ちなさい!」

リオルの忠告を無視して、勇者はここにいると危険だと判断し、会議室の窓から外へ飛び出した。魔法が使えないマーヤをお姫様抱っこして、窓枠をひょいっと超える。魔王はその様子をニヤリと眺めていた。

「魔王様!!遊んでないで捕まえてください!」

「良いだろう別に。せっかく勇者が来たのだ。少しくらい遊ばせてもよかろう」

「まったく良くありません!」

先ほどの中級魔族による連絡は、すぐさま魔王城内に伝達され、大勢の魔族が会議室に集合した。

「魔王様!どうなっているのですか!」

「侵入者を招いたというのは本当ですか?!」

「侵入者が勇者というのは事実ですか?!」

次々と飛び交う質問に、魔王は両手をあげてお手上げのポーズを取り、リオルに視線をやる。リオルは頭を抱えながら、どうやってこの場を納めようかと考えている。そして魔王は笑った後、集まった部下に命令した。

「心配ない!全員持ち場に戻ってよし!」

すかさずリオルが突っ込む。

「良くないって言ってんでしょーが!」

「魔王様ー!ご指示をくださいー!」

「こりゃダメだ。魔王様楽しんでるもん」

「リオル様ー!どうしましょう!」

「魔王様が焦ってないってことは、そんなに大した侵入者じゃないってことか。安心安心」

「お前、魔王様関係のトラブル率忘れてんじゃねーぞ!」

「魔王様ー。勇者に負けたって本当ですかー?」

「魔王様に代わって私、リオルが指揮を取ります!全隊!よく聞いてください!勇者と思われる侵入者はあの窓から外へ逃げました!同行者の女性を連れて外を徘徊している可能性があります!実力がわからない以上、発見しても手出しはしないこと!各自持ち場に戻り、周囲を警戒してください!以上!」

リオルの的確な指示により、集まった魔族は散り散りになっていった。会議室に残されたリオルは、魔王に詰め寄った。本当にうちの魔王はトラブルメーカーだ。

魔王に拾われたら溺愛されて、世界の敵になりました!

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