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小さな家の前に着き、ゼノが声をかけようとした瞬間に扉が開いた。
茶髪に青い目のフィル様より少し背の高い少年が出てきて、俺達を見て驚いている。
「わあっ、大人数だね!あっ、王子様久しぶり…って!腕に抱いてるの、フィルじゃないですかっ」
少年が第二王子に駆け寄り、心配そうにフィル様をのぞき込む。
「フィル?どうしたんだ?もしかしてまた刺され…あ!あんたっ」
少年がトラビスに気づき指をさした。
彼はトラビスがフィル様を襲ったところを見ていたらしいから、かなり不審に思ったのだろう。庇うようにフィルの前に立ってトラビスを睨んでいる。
「まさか…またフィルを…」
「違うっ、俺は何もしていない!今はフィル様をお守りするためにここにいるんだ」
「じゃあこれは一体どういうことなんだよっ」
「ノア、中に入れてもらってもいいか?フィーを休ませたい」
今にもトラビスに突っかかりそうなノアを、第二王子が止める。
ノアは「すいません」と頭を下げながら、俺達を中に入れてくれた。
フィル様をベッドで休ませようと言う少年の申し出を断って、第二王子が腕に抱いたまま椅子に座る。
早くフィル様を離せと不快で仕方がない。だが今は揉めてる暇がないからガマンするしかない。あと少しだけだ。ここを出れば、フィル様と第二王子が会う機会は二度と訪れない。
少年…ノアにゼノのが近づき「準備はできてるか」と聞く。
ノアは頷き、フィル様に目を向けた。
「家の裏に準備できてます。あれって、フィルを運ぶためだったんですね…」
「そうだ。フィル様は訳あってバイロン国にいたのだが、怪我をして動けなくなった。しかも第一王子に追われている。だから一刻も早くイヴァル帝国に戻してあげたいのだが、馬で逃げると目立ってしまうからな」
「フィルは目立ちますからね。大丈夫です。俺は目立たないし上手くやれます」
「助かる。ところで姉がいると聞いたが?」
「姉は今、恋人の家に行ってます。もうすぐ結婚するので…」
「それはめでたい!祝いも兼ねて必ず礼をする。なにが欲しいかゆっくりと考えてくれ」
「ありがとうございます。ではさっそく行きますか?」
「そうだな。リアム様…」
ゼノがノアに頷くと、第二王子の前で片膝をついた。
第二王子は、この家に入ってからも、ずっとフィル様の顔を見つめている。愛おしそうに目を細めて、指で優しく何度も頬を撫でている。
俺のフィル様に触れるなと叫びたいが、あと少しのガマンだ。そう言い聞かせて耐えている俺の目の前で、第二王子が顔を伏せてフィル様にキスをした。
無意識に前へ出た俺を、トラビスが後ろから抱きとめた。
第二王子とフィル様を見ていたゼノとジルが、剣の柄を掴んでカチャカチャと鳴らす俺に振り向き、素早く第二王子の前に立つ。
「そこをのけ」
「のかぬ。ラズール殿、ここは民の家だ。抜いてはならない」
「ならばその王子を外に出せ」
「それもならぬ。他国の者といえども、リアム様に無礼なマネは許されない」
「王子はフィル様に無礼を働いてるではないか」
「これは無礼ではない。二人は想いあっているのだから」
「そんな感情は、フィル様はもう持ってはいない」
「なぜそのようなことを言う」
「なぜ?第二王子があのようなことをしておいて、まだ想われてると信じる方がおかしい」
「おいたわしく思うが、あれはフィル様がリアム様を想ってされたこと。それだけフィル様の想いが強いということでは?」
「この先もそうとは限らぬ」
「ラズール!落ち着けって。今は無事にフィル様を連れて帰ることだけに集中しろ」
ゼノと言い合いながらも、俺はフィル様と第二王子を見ていた。
第二王子は何度もフィル様にキスをし、抱きしめていた。ノアもその様子をずっと見ている。
くそっ腹の立つ!なぜ誰も止めないのか。なぜフィル様を殺しかけた男の好きにさせているのか。
俺は目を閉じ大きく息を吐き出すと、トラビスの手を振り払い叫んだ。
「第二王子!早くここを出ねば、第一王子に捕まりフィル様が殺されてしまうかもしれません。今すぐに出発しますので、フィル様をこちらへ…!」
「ああ…」
最後にもう一度キスをして、ようやく第二王子が立ち上った。
トラビスが慌てて傍に行き、第二王子からフィル様を受け取る。
俺は聞こえないように舌打ちをすると、どうすればいいかノアに聞こうとした。
その前にゼノが口を開く。
「ノア、家の裏に案内してくれないか?手紙にも書いたが、ここからは俺とフィル様の家来の二人が行く。リアム様とジルは先に王城へと戻る」
「はい、わかってます。リアム様も体調が悪そうだけど、大丈夫ですか?」
俺はノアは優しいのだなと思ったが、自国の王子を心配するのは当たり前か。誰もフィル様を心配しないイヴァルの者が冷たいのだな。
「リアム様は疲れがたまっていらっしゃるのだ。だが大丈夫だ」
「そうですか…」と言いながら、ノアが入ってきた扉とは別の、家の奥にある扉から外へ出る。そこには小さな荷車があり、それを引く馬がいた。
そういうことかと俺は納得する。荷車にフィル様を寝かせ、俺達は商人のフリをしてこの国を出る算段か。
俺が理解したのを悟ったようで、ゼノがこちらを見て深く頷いた。