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『セフレから始める雪色の恋模様』~i×f~
Side照
冷たい空気が肌を刺して、意識が浮上する。
特有の倦怠感に包まれた体をゆっくりと起こして、部屋の中を見回す。
——わざわざ確認しなくても、ふっかがもうこの部屋にいないことなど分かっているけれど。
そういえば、昨夜の前にふっかは自分のパートだけ新曲のレコーディングが詰まっていると言っていたな、と思いながらベッドから離れ、洗面所に向かう。
俺はいつもこの瞬間が嫌だった。
あんなに求め合っても、目が覚めたら幻だったかのようにもうそこには誰もいない。
この関係が続いているのが嬉しい反面、切なくもある。仕方がない。
俺とふっか——同じグループのメンバー、そして高校の先輩後輩から一緒だった仲。
恋人なんて甘い関係ではなく、いわゆる、そういう関係なのだから。
洗面台の鏡に映った自分の顔を見る。首筋にうっすらと残った痕跡が、昨夜の出来事が夢ではなかったことを物語っている。
でも、それすらも虚しく感じるのは、ふっかがいないからだ。
「ふっか…」
小さく呟いてみる。当然、返事はない。
いつからだろう、こんなに寂しく感じるようになったのは。
こんな関係、いつまで続けるんだろう。
そんなことを考えながら、俺は顔を洗った。
事の始まり
事の始まりは今から数年前。
まあ、今思えば二人とも若かった、としか言えないが、デビュー前の思春期特有の、性への好奇心からだった。
ふっかとは高校から一緒で、俺が一年生の時にふっかは二年生だった。
同じ部活に入って、お互いがこの世界に入って同じグループになった時は、運命を感じたものだった。
高校時代からふっかの隣にいることが当たり前で、ふっかも俺の隣にいることを当然のように思っていた。
グループ加入当初、寮生活をしていた俺たちは、深夜によく恋愛トークに花を咲かせていた。
他のメンバーが寝静まった後、リビングで二人だけになることが多かった。特にふっかは、こういう話が好きだった。
「照は、恋人ができたらどんなことしたい?」
ある夜、いつものようにソファで並んで座りながらふっかが聞いてきた。コンビニで買ったアイスを食べながらの、他愛もない会話だった。
「そうだな…普通のことかな。手を繋いだり、一緒に映画を見たり」
「普通って何、つまらないなあ」
「ふっかは?」
「俺は、もっといろいろしたいなあ」
ふっかの頬が赤くなっているのを見て、俺も恥ずかしくなった。
「いろいろって?」
「えー、照知らないの?そういうこと、だよ」
「そういうことって…」
ふっかがもじもじしながら説明する姿が可愛くて、俺の胸がきゅんとした。当時はまだ、それが恋愛感情だと気づいていなかったけれど。
「でも実際、何したらいいか分からないじゃん」
「うん、確かに」
「本とかネットで見ても、実際は違うかもしれないし」
「そうだね」
お互い、もし恋人ができたならこうしたい、ああしたいだのと他愛もないことで盛り上がり、ひとしきり笑ったところで急にふっかが真面目な顔になってこう言ったのだ。
「練習しない?」と。
最初、何を言われたか分からずきょとんとしていた俺に、彼は内緒話をするようにぽそぽそと説明し始めた。
「あーだこーだ言っても、実際そうなった時に緊張して何もできないのは男として恥ずかしいじゃん」
「うん…」
「だから、今のうちに練習してみない?」
「練習って、つまり…俺とふっかが、そういうことをする、ってこと?」
「そういうこと。照、嫌?」
ふっかの不安そうな表情を見て、俺の心臓が跳ねた。
嫌なわけがない。むしろ、嬉しすぎて困惑していた。
高校時代からふっかの笑顔を見ていて、ふっかが悲しんでいる時は自分も悲しくて、ふっかが喜んでいる時は自分も嬉しかった。
いつからか、ふっかは俺にとって特別な存在になっていた。高校の時、ふっかが他の子と仲良くしているのを見て胸がざわついたり、ふっかが誰かに告白されそうになった時は必死に邪魔をしたり。
そんなふっかと特別な関係になれるなんて、夢のようだった。
「嫌じゃない、けど…」
「けど?」
「本当にいいのかな?俺たち、グループメンバーなのに」
「だからこそじゃん。信頼できる相手だよ」
「信頼…」
「照だったら、変なことしないし、優しいし」
ふっかの素直な言葉に、胸が温かくなった。
「でも、ふっかがそれでいいなら…」
「本当?」
「うん」
至った結論があまりにもあまりすぎて、頭が一瞬真っ白になってしまった。
が…俺も若かった。思わずその提案に頷いてしまったのだった。
興味がないわけでもなかった。
でも、これが重要なのだが、俺はふっかに、少なからず密やかな思いを寄せていたのだ。
高校で初めて会った時から、ふっかの明るさに惹かれていた。
いつも周りを笑顔にして、みんなの気持ちを明るくしてくれる。
落ち込んでいる時も、ふっかがいるだけで元気になれた。そんなふっかと特別な関係になれるなんて、夢のようだった。
純粋に嬉しかった。
例え、練習の疑似恋愛の形をとるとしても、ふっかと寄り添えるなら。
今まで誰も見たことのないふっかの全てを初めて見る人物が自分であるということが、ひたすらに嬉しかったのだ。
「照、本当にいいの?」
「うん…俺も、興味はあったし」
「そうだけど、照が嫌だったらすぐ言ってね」
「ふっかこそ、無理しなくていいからね」
「分かってる。ありがとう、照」
ふっかの安堵した表情を見て、俺は改めて決心した。
ふっかの初めてを、俺が受け取れる。それだけで十分幸せだった。
「じゃあ、いつから?」
「今度時間ある時でいいよ」
「明日の夜は?」
「明日?」
「だめかな」
「だめじゃない、ただ…緊張するなあ」
ふっかが照れながら言うと、俺も急に恥ずかしくなった。
「俺も緊張する」
「お互い初めてだもんね」
「うん」
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