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「予約……してくれたなら言ってくれればいいのに」
「他に行きたい所があったらそこにしようと思ってたのは本当。それに平日でこの部屋が開いていてよかったよ」
軽く睨むように言った麻耶に笑顔を向けながら、芳也は言うとチュとリップ音を立ててキスを落とした。
「他のお部屋も見てきていいですか?」
麻耶は、芳也がわざわざ予約してくれたことに対しての嬉しさと、なぜか落ち着かない気持ちを隠すように、芳也に尋ねた。
「ああ。見ておいで」
慣れた様子で、ソファに座る芳也を見ながら麻耶は隣の寝室やバスルームを見て回った。
「泊まらないのに使ってもいいんですか?」
バスルームにたくさん並べられたアメニティを手に取りながら、麻耶はバスルームから顔を出した。
「いいよ。使っても。それに使う事するかもしれないしな」
ニヤリと笑った芳也の言葉の意味を理解し、麻耶は顔が熱くなるのを感じて、慌てアメニティーをもとの場所に戻した。
「もう少ししたらランチに行こう。魚介が美味しいよ」
先ほどの支配人の対応と言い、芳也の慣れた様子から何度かここに来たことがあることに気づいた。
(誰と来たんだろ……。女の人と来たのかな……)
ぼんやりとバスルームの外から見える海を見て、そんな事を麻耶は思っていると、不意に背中が温かくなり振り返った。
「変な事考えてる」
見透かしたように言った芳也に、慌てて麻耶は首を振ると芳也から目を逸らした。
「本当に、麻耶はプライベートだと顔に出るよな……おいで」
そう言って肩を抱いてリビングに戻ると、芳也は自分の膝の上に麻耶を乗せると、ジッと見つめた。
「芳也……さん?」
急に密着して、熱のこもった瞳で見つめられて、麻耶の心拍数は急激に上がった。
「ここに家族以外に連れてきたのは麻耶が初めてだよ」
そう言って、麻耶の髪をゆっくりと耳にかけると、首筋にキスを落とした。
「葉山は小さい頃から夏になると家族で来た、数少ない思い出の場所」
ゆっくりと、後頭部を撫でながら言った芳也の言葉に、麻耶はホッとして笑顔を向けた。
「そうだったんですね……」
「だから、支配人とも懇意にしてる」
(本当に、御曹司なんだな……芳也さんて)
改めてその事を実感して、少し寂しさの様な感覚に襲われて麻耶はキュッと芳也に抱きついた。
「麻耶……こっち見て」
首筋から顔を離した芳也に声を掛けられ、麻耶も芳也を見つめた。
どちらからともなく、唇を合わせると優しいキスを繰り返した。
「よかった。部屋を取って」
すぐに触れそうな距離で芳也は言うと、また麻耶の唇を塞いだ。
「食事だけだったら、ゆっくり麻耶とイチャイチャできなかったもんな」
クスクス笑った芳也に、「イチャイチャって……」苦笑しながらも麻耶は笑顔を向けた。
レストランで出された料理は本当に美味しかった。
目にも鮮やかで、ランチとはいえフレンチのフルコース。
前菜もスープもメインも何種類かから選ぶ事ができ、麻耶は芳也のおすすめの物を選んだが、どれも本当に素晴らしかった。
それに、いつもサービスを提供する側の麻耶としては、学ぶところも多く有意義な時間だった。
食後のコーヒーを飲みながらゆっくりと海に目を移して、麻耶は大きく息を吐いた。
「本当に、美味しかったです。特にあのメインのお魚。ふっくらとしていて、そして味も濃厚で。スーパーで買った魚が食べられなくなりそう」
満足そうな麻耶を見て、芳也も嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。麻耶が喜んでくれて」
「ありがとうございます。芳也さん」
じっと見て、ニコリと麻耶は微笑んだ。
食後に、少しホテルの周りを散歩したが日差しがきつくすぐに汗をかいてしまい、二人は部屋に戻ってきた。
「今度は、もう少し涼しくなってから来たいな」
芳也は部屋に入るとおもむろにジャケットとシャツを脱ぐと、ソファにかけた。
「芳也さん、シャワー浴びたらどうですか?」
その脱いだ姿を見て、目を逸らしながら麻耶は声を掛けた。
「なあ、初めての時あんな風に迫ってきたのに、どうして未だに上半身裸だけなのに慣れない?」
じりじりと距離をつめながら、麻耶に近づくと芳也は口角を上げて麻耶を壁に追い詰めた。
トンと言う音とともに、上から見下ろされるような形になり、麻耶の心臓はドクンドクンと音を立てた。
「どうしてって……あの時はただ一生懸命だったから……」
俯きながら言った麻耶の顎に芳也は手を掛けると、麻耶の顔を自分の方へと向けた。
綺麗な顔が妖艶に微笑み、麻耶はゾクッとした感覚が全身に走った。
「いい顔……。いいよ。その麻耶の恥じらう顔も俺を煽るだけだから……」
(こうやって私は結局芳也さんには敵わない……あっ、さっきのアメニティ後で使えるな……)
そんな事を思いながら、麻耶はゆっくりと芳也に身を委ねた。
幸せな休日を過ごし、麻耶は早速名刺を手にして健斗の秘書へと連絡をすることにした。
電話に出た健斗の婚約者の横山唯奈と言う女性は、柔らかな話し方をする人だった。
早速今日の仕事が終わった後、来館してくれることになり、麻耶は芳也へとメッセージだけ送っておいた。
18時を回り、颯爽と現れた唯奈は大人っぽく、さすが秘書という雰囲気が漂いその場にいた人々が一斉に唯奈を見たほどだった。
「初めまして。横山唯奈と申します。急なお願いにも関わらずお時間を取って頂きありがとうございます」
ニコリと笑ったその顔に、麻耶は一瞬見とれていた。
「あっ……いえ。こちらこそわざわざ起こし頂きありがとうございます。この度はおめでとうございます。水崎麻耶と申します」
二人はブライダルサロンの個室へと向かうと、麻耶は唯奈へ名刺を渡した。
あまりにも迫力のある美人という事と、芳也の兄の婚約者という事もあり、麻耶は幾分緊張して唯奈の前に腰を下ろした。
そんな麻耶を見て、唯奈はニコリと笑うと、
「水崎さん、そんなにかしこまらないでください」
急に、ふふっと笑った唯奈に、麻耶は目を丸くした。
「でも……」
「私、見掛け倒しなので」
「みかけだおし?」
唯奈に言われたことが分からず、麻耶はただ同じ言葉を繰り返していた。
「はい、この見かけでしっかりしてるって思われるんですけど、友人や健斗さんに言わせると、天然で抜けてるらしいです」
「え?そんな風にはお見受けしませんが……」
「これから嫌でもわかりますよ。なので水崎さん!よろしくお願いします」
机に付きそうなぐらい頭を下げた唯奈を見て、麻耶もクスクスと笑いが漏れた。
「はい。よろしくお願いします。いいお式にしましょう」
その言葉に、唯奈も幸せそうに微笑んだ。
「それに……」
チラリと唯奈は当たりを見回すと、
「水崎さんとは長いお付き合いになりそうだし」
「え!?」
「私と同じ歳って聞いてるので、打ち合わせ以外では唯奈って呼んでください。みんな宮田になってしまうし」
確かに、健斗さんも芳也さんもそして結婚すれば唯奈も宮田だ。
麻耶は納得したようにうなずくと、「唯奈さん」と呼びなおした。
「外ではさんもやめてくださいね」
にこやかに笑った唯奈は、確かに見かけとは全く印象が違い、親しみやすい人で麻耶もホッと胸をなでおろした。
「では、私も麻耶でいいです」
「ありがとう」
そう言うと、麻耶は打ち合わせを始めた。
唯奈の希望を聞く限り、健斗と唯奈の友人や親しい会社関係の人を呼んだカジュアルなパーティーになりそうだった。
もちろん二人の両親も出席予定だが、会社関係や取引先は呼ばず、ごく親しい人たちで祝う形だった。
健斗の仕事の都合もあり、式は半年後の年明けに決まった。
(寒い時期だけど、温かいお式にしたいな……)
そんな事を思いながら、麻耶は思いを巡らせていた。
#謎