そうして私達は、イングランド王国にある地下牢に連れてこられました。
冷たくて、硬い石畳の上に寝転んでも、私を苦しめる咳は一向に止まってくれませんでした。そんな私を奥様は心配しつつ、周囲を警戒していました。
この牢の外には三人程見張りが立っていました。いつ、何をされるか分かりません。ですから、警戒は怠れませんでした。
そんな時、リズム感の良い革靴のトントンという音が聞こえてきました。
薄暗いので顔は良く見えませんが、気配でなんとなく、私の同族である、ドールだということは分かりました。
「おい、こいつらを地下牢では無く、上にある部屋に移動させろ」
そのドールは牢の前に居た見張りにそう命令しました。
声からして、男性のようです。下手な事をされそうになれば、男性達共通でとても痛い場所に蹴りでも入れましょう。
「何のつもり」
奥様はそのドールをキッと睨みつけました。
本当に、このドールは馬鹿なのかと思ってしまう程、おかしな事を言っているのを自覚しているのでしょうか。私達が逃げると思わないのですか。
「お前らだって化身とドールだ。それ相応の対応はせねばならん。というのは納得できないのだろう?だからこう言っておこう。ただの気まぐれだ」
余裕そうにそのドールはそう語りました。
念の為にでしようね。私と奥様は別々の部屋に移されました。
移動中、ドールがボソボソと呟いていた事を組み合わせ、考察も含めると、私達をあの牢出した理由が少し分かった気がします。
簡単にまとめると、そのドールはここイングランド王国と私達の国と同盟を組んでいるスコットランド王国の化身に仕えるドールらしく、だから、こうして少しはマシなのをと考えたみたいです。
「あ、そうそう。名前を言うのを忘れていたな」
ふとそのドールがそう呟きました。
よくよく見てみるとこのドール、美しい!
真紅に染まった瞳も、洗礼された歩き方も、何処か棘があるものの何かと人の事を考えて発している言葉も、声も、赤と白と青のグラデーションになっている髪も、全てが美しいと思えました。
こんなふうに美しいと思えたのはいつ振りでしょうか。このドールを私が描きたい。その時、私はそう強く思いました。
「俺は、英厳だ。名乗ったからな、ドールと俺を呼ぶのは辞めろよ。あの呼び方嫌いなんだ」
少しこのドール、いいえ、英厳の方が歩幅が大きく、ついていくのが大変だったのですが、この時、何故か少しだけペースを落としました。
気遣いをする敵国の者なんて、変な感じですね。
連れてこられた部屋にあるフカフカのベッドに座っていると、英厳がドアを開けて此方に来ました。
「おい、ドール。お前の飯を持ってきたぞ。食え」
そう言って英厳は私の前に料理を盛ったお皿を差し出しました。ですが、敵国からの物なんて、到底信用できません。
「食べないのか?毒は入ってないぞ」
不思議そうにしながら英厳はそう言います。