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Side.黄
「ジェス、お出かけ行く?」
ソファーに座ってテレビに釘付けになっているジェシーに声を掛ける。届いているはずだが、返事はない。
「ジェシー、聞いてる?」
「…うん」
なおも視線は外さないまま、小さく声がある。
テレビから流れるのは、彼の好きな音楽番組の映像。ずっとこの姿勢で熱心に聞いている。
今の彼にとっては、どこに出かけるかよりも目の前の歌のほうが気になるのだろう。
好きなことに邪魔はできない。こだわりも強いから。
俺は洗濯機を回しにリビングを出た。
「パパ、お出かけ、どこ?」
歌を聴き終えたのか、歩み寄ってくる。
ちょっと言葉が苦手で片言になっているのもなんだか可愛らしい。
「もうすぐクリスマスでしょ。だからマミーにプレゼントを買いに行こう」
「マミー、会える?」
「うーん、どうかなあ。きっとすぐ会えるよ」
ジェシーの母親、つまり俺の妻はアメリカへ仕事の出張に行っている。実家もあるから、里帰りも兼ねている。
あと数週間したら戻ってくる予定だ。
「行く、プレゼント!」
一瞬で笑顔になる。プレゼントは嬉しいものという意味だけ分かっているのかもしれない。もしくはクリスマスに浮き足立っているのか。
あとは忘れてはならない、ジェシーへのプレゼントも。
「今年のプレゼントは何がいい?」
うーんと考える仕草をする。「ぼくの?」
「そうだよ。欲しいものある?」
熟考の末に絞り出した答えは、「……わかんない!」だった。
「そっか、わかんないね」
選択肢のない質問は難しい。お店に行って、気に入ったものを買うというのが我が家のスタイルだ。
「じゃあ、マミーには何あげたい?」
これならいけるかも、と訊いてみるけれど、
「マミー…会いたい…」
しゅう、と声がしぼむ。切実な言葉にこちらの胸も痛んだ。
「ごめんね、今マミーはお仕事頑張ってるから、もうすぐしたら会えるよ。おじいちゃんおばあちゃんのところにも行きたいね」
うんっ、と元気に返事をする。
2人が喜びそうなものは何かな、と頭で考えながら夕食作りを始めた。
続く