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人だかりが出来るほど人気がある釣りギルドに見える。
そう思いながら近づくと、
「イスティさま、危ないっ!!」
「――!」
フィーサに言われるまで全く気付けなかった。
どうやら何者かがおれの顔を目がけて鋭い刃のようなものを投げたらしい。頬に微かな切り傷が出来ている。
「イスティさま、き、傷が出来ているなの……」
「切り傷ならそのうち消えるから問題無い。それより気配は?」
「わ、分からないなの。獣の気配とも人間の気配とも取れるなの……」
「……すでにここにはいないだろ?」
「はいなの」
どうやらおれへの復讐はすでに始まっているようだ。
「復讐の始まりか。今まで戦ったことが無い敵が連中の仲間になったかもな」
さすがに魔法を町中でぶっ放すような粗雑な連中では無いはずだ。考えられるのは暗殺者《アサシン》、あるいは。そもそもラクルには、Sランクパーティーは滅多に訪れないという認識だった。しかし頻繁な入港とギルドの開設により、すでにおれの知る町では無くなっている。
知らない国からおれの知らないジョブ持ちが来たか?
ともかく人だかりを避けて進むと、
「あれ~? アックニャ! 早速来たニャ?」
ネコ族の声というより聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「シャトン!? え、何でラクルにいるんですか?」
「ムフフフ~! ここのギルドも掛け持ちニャ! ラクルの方がメンバーたくさんニャ~」
「そ、そうだったんですか……」
湖村で別れてこんなすぐに再会出来るなんて。
「アックはメンバーだからすでに加入済みニャ! 釣って行くニャ?」
「……いえ、後で釣りますよ。でもおれとしては湖村で釣りする方が合っているかと」
「いい心がけニャ。それじゃ、またニャ~!」
なるほど。ラクルにほど近いからこそのギルド掛け持ちというわけか。ここの方がシャトンの弟子が多いように見えるが。釣りは水辺があればどこでも出来るし、今はやめておく。
「ウウニャ~……ドワーフのせいなのだ……さっきから手足が痺れまくりなのだ」
「えぇぇ? お、おかしいなぁ。そんな具材は入れてなかったはずなのに~あ……」
「……ウニャ! 何か入れたのだ?」
「それはその~……」
おれとフィーサが外へ向かおうとしている頃、拠点倉庫では何かの動きがあったようだ。黙って大人しく留守番をしてくれる彼女たちではない、という予感はあったが……。
「そんなことを言ってる場合ではないわ! あたしたちも戦いに行きますわよ?」
「で、でも、ミルシェさんは魔法が使えないんじゃ~?」
「……確かにそうですわ。それでも防御魔法が使えるようになりましたわ! きっとお役に立てるはずですわ!」
「そうなんですか? ちなみにわたしとシーニャは回復が使えるんですよ~! ミルシェさんは防御魔法だなんて、凄いじゃないですか!」
「そうなのだ! ウニャ」
◇
指示された時間まではまだかなり余している。しかしラクルの町中にまで敵を潜ませていることが分かった以上、外に出た方がいいと判断。
外ならば少なくとも無関係の人間を巻き添えにすることは避けられるからだ。とはいえ、ラクルの外に出て来たはいいが、どうするべきなのか。
沈んだ東岸の道を真っすぐ進めば東アファーデ湖村。北に少し歩けば、小規模な洞窟が複数点在という恵まれたエリアでもある。南に進めば以前獣狩りに襲われた平地が広がっていて、その先は魔族の村だ。
東西南北――この辺りは、冒険者にとっての活動エリアと断言出来る。
「イスティさま。退屈なの」
「ラクルから出て来る人間もまばらだし、冒険者も少なそうだしどうしたものかな」
「また湖村に行くなの?」
「いや、魔族の村を見に行ってみようと思う。あそこまで行けば夕方くらいにはなるし」
脅威となる敵はいないにしても、あの村からは何かしらが見つかるかもしれない。
「えぇ? ま、またあの高い所を登るなの!?」
「フィーサは鞘に入ったままだから問題無いだろ? 登るのは――」
「――イスティさまっ!?」
「……ちっ、やはりな。さっきの奴が尾《つ》けて来ているな」
外に出てくれば何かが起こると踏んでいた。どうやら敵も愚かじゃなさそうで、気配は感じさせているが姿が見えない者がいる。この気配を探る限り、出会ったことの無いジョブか。討伐クエストに関係なく、的確な敵対心が感じて取れる。
追放連合とは別行動で狙って来ていると思われるが。
「……このまま南へ進め」
だが聞こえてくる声は男の声だ。そうなると倉庫に来た女とは別か。素直に従うつもりも無いが、どういう奴なのかをはっきりさせるためにおれは男の指示に従い、南に向かって進むことにした。