コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「優しくない」「意地悪」「酷い」 「どうしてわかってくれないの? 」
誰か、俺を…………
雨が降っていた。傘はささない。沢山の灰色のビルと、人だかりに揉まれながら何も無い部屋へと帰って行く。コンクリートの壁とカーテンの無い窓、そんな部屋にはベッドだけ。床にばらまかれた手紙の束、送り主は俺の飼い主だ。首輪の着いたペット、飼い犬、俺はどれにも当てはまらない。俺は、ただの玩具だ。立派な首輪なんてなくて、美味い飯も貰ってなくて、ただ汚れた仕事をこなすだけの道具に過ぎない。―――――――――――――――――――――
Mail 白戸 雪 200万 7月7日
身長 162cm
体重54kg
―――――――――――――――――――――
(200万ねぇ、随分安価で売られたもんだな。)まだ6月、時間はたっぷりある。俺は、白いTシャツにジーンズを着て、顔ににっこり笑顔を貼り付けて家を出た。まずは情報集め、できるだけこの女に近い人間を当たって行く。
「初めまして、誰か待ってるの?君1人?」
爽やかで甘い笑顔、俺の顔も捨てたもんじゃないと思った。声をかけられた女は、驚いた様子で目を見開いている。
「えっ?私?」
「はい。おねーさんとっても可愛かったから。」
嘘だ。声をかけた女はお世辞にも綺麗とは言えない顔立ちをしている。それをカバーするために服やメイクに力を入れているらしいが、逆に顔が悪目立ちをしてしまっている。
「この後予定空いてる?一緒にご飯行こうよ。」
「わ、私でよければ。」
女は顔を赤らめて俺に熱っぽい視線を送ってくる。不快に思う気持ちも決して表には出さない。営業スマイルを顔に張りつけながら、俺は女が友人に送るドタキャンメールを待っていた。
「お待たせ。どこに行く?」
「そーだなぁ、お酒が飲めるところに行こう?」
女はすっかり自分が気に入られていると錯覚し俺の腕に胸を押し付けてくる。
「ね、その後ホテル行く?」
「もちろん。おねーさんから誘ってくれるなんて嬉しいな♡」
これも仕事だ、俺はイロも仕込んである。たとえこいつだろうと勃たないなんてことはない。俺にとってセックスは仕事を完遂するための手段でしか無かった、そこに温もりも愛も欲していない。俺が欲しいのは、ターゲットの情報だけ。
(イロは久しぶりだ。ボロが出ねーよーにしねぇと。)
久しぶりに入るラブホテルはチープなピンクに包まれていてこれが愛の色なのかと軽く絶望していた。
「ね、生でいいよ…。」
「ダメだよ。そんな事しなくてもちゃんと愛してあげるから、ね?」
イロで生をするのは嫌いだった。それは俺にも少しは人間らしさが残っていると言うことだろうか。