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陽太と彩の物語は、小さな町の隣り合う家に始まった。
幼稚園の頃、二人は手をつないで散歩したり、公園でかけっこをしたりする仲良しだった。小学生になっても、その関係は変わらず、毎日放課後は一緒に宿題をしたり、ゲームをしたり。
「彩って、いつも元気だよね」と陽太が言えば、彩は笑いながら「陽太は頼りになるけど、たまに変なこと言うよね」とからかった。
その頃の二人にとって、恋愛はまだ遠い話だった。好きな人ができても、報告し合うだけの“他人の話”のように感じていた。
高校に入ってからも、二人はクラスは別々になったけど、放課後はよく一緒に帰った。陽太は野球部、彩は美術部で忙しかったが、週末は必ず顔を合わせ、映画館やカフェ、図書館に出かけていた。
陽太は彩の笑顔に安心を感じ、彩は陽太の存在に心を許していた。
「友達って、こういうもんだよな。」
そう思っていた。
大学に入ると、二人は同じ市内の別々の大学へ進学した。キャンパスも離れ、忙しさも増えたため、連絡は前より減った。
それでも週末はどちらかが相手の家を訪ね、夕飯を一緒に作ったり、カフェでゆっくり話したり。
そんなある秋のこと。
彩が体調を崩した。無理をしていたせいか、声はかすれ、顔色も悪かった。
「陽太、ごめん、今週は会えそうにない…」
メッセージを受け取った陽太は、胸がざわついた。
「無理しないで。何かあったらすぐ言ってね。」
彼は何度も彩に電話をかけたが、出ない。何かあったらどうしよう、という不安が募った。
数日後、彩からようやく返信があった。
「ありがとう、少し良くなった。心配かけてごめん。」
陽太は心からほっとし、その日から毎日、彩の体調を気遣い続けた。
「無理しないで。ゆっくり休んで。」
彩も素直に甘え、二人の距離はどこか特別なものに変わっていった。
ある晩、ビデオ通話で彩がぽつりと言った。
「ねえ、陽太。私…最近、あなたのことを友達以上に思ってるかもしれない。」
陽太は動揺しながらも、率直に答えた。
「俺もだよ。」
それは、長い友情の中で初めて交わされた“恋”の告白だった。
それからの日々は、二人にとって新しい世界の始まりだった。
映画館で手をつなぎ、カフェで少し恥ずかしそうに笑い合う。お互いのことをもっと知りたくて、話す時間が増えた。
でも、時に不安もあった。
「これで友情は壊れないかな?」
「もしも、うまくいかなかったら…?」
そんな悩みを抱えながら、二人は少しずつ「恋人」へと歩みを進めていった。
ある雨の午後、カフェの窓際で話し合った。
彩は涙をこぼしながら言った。
「怖い。でも、あなたと一緒にいたい。」
陽太は手を握り返し、力強く答えた。
「俺もだ。怖くても、君となら乗り越えられる。」
友情が恋に変わる奇跡は、二人の心に深く根付いた。長い時間を共に過ごしたからこそ生まれた特別な絆。
これからも二人は、その絆を大切に育てていくのだろう。