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琥珀
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てぃらの。
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#jojo
「いいかい、康一くん。漫画家にとって『リアリティ』とは、作品の命だ。だがそれ以上に僕を惹きつけてやまないものがある。それはね――『本物の謎』だよ」
杜王町の、とある瀟洒な洋館。原稿用紙が整然と並ぶデスクの前で、岸辺露伴は万年筆を指先で弄びながら、目の前の少年に鋭い視線を投げかけた。
広瀬康一は、差し出された一杯のハーブティーに手を付けることもできず、ソファの上で小さく身を縮めていた。学校帰りに「新作のネームを見せてあげるから」と言われてホイホイ付いてきた自分を、今猛烈に呪っている。
「は、はあ……。でも露伴先生、僕、今日はこれから母さんと夕飯の買い出しに行く約束が……」
「そんなものは後回しだ。君の母親の買い物よりも、今まさに杜王町の闇に葬られようとしている『真実』を救い出すことの方が、何億倍も価値がある」
露伴はデスクから立ち上がると、一冊の古びたスクラップブックを康一の前に放り出した。そこには、数年前の地方新聞の切り抜きが、几帳面な文字のメモと共に貼り付けられていた。
『杜王町在住の漫画家・烏丸栄一氏、突如の失踪。仕事場からは書きかけの原稿が残されたまま――』
「烏丸、栄一……?」
康一が呟く。聞き覚えのない名前だった。
「十年ほど前に、一発だけスマッシュヒットを飛ばして消えたマイナーな作家さ」
露伴は窓の外、夕闇が迫る杜王町の街並みを見つめながら、声を潜めた。
「警察は夜逃げか、あるいは精神を病んでの失踪と片付けた。だがね、康一くん。僕が彼の残した最後の単行本を『ヘブンズ・ドアー』で読んだ時……いや、正確には、彼の作品の『印刷されたインクの奥』から、奇妙な執念を感じたんだ。彼は逃げたんじゃない。**『自分の部屋の、どこにも存在しない隙間』**に引きずり込まれたのさ」
露伴の目が、獲物を見つけた猛禽類のように妖しく光る。
「彼の仕事場だったアパートは、今も当時のまま放置されている。いわゆる事故物件としてね。これからそこへ行く。もちろん、君も一緒にだ」
「えええーーーっ!? やっぱり僕、帰ります! 露伴先生、それ完全に警察の仕事ですよ!」
立ち上がろうとする康一の肩を、露伴の細い、しかし鉄のように冷たい指先がガシッと掴んだ。
「断る。君の『エコーズ』の索敵能力と、窮地に陥った時のその……ドス黒いほどの機転は、僕の安全保障に必要なんだ。さあ、行こうか。知的好奇心という名の、最高の取材へ!」
カチリ、と懐中電灯の明かりが灯る。
二人が辿り着いたのは、杜王町の外れにある、ひどく老朽化した木造アパートの二〇一号室。鍵は『ヘブンズ・ドアー』で鍵穴の「記憶」を解読して簡単に開けてしまった。
室内は、十年分の埃が分厚く積もり、カビと腐った紙の匂いが鼻を突く。
デスクの上には、露伴の言葉通り、ペン入れの途中で止まった原稿用紙がそのまま放置されていた。
「ひ、ひどい部屋ですね……。何もなさそうですし、もう帰りませんか?」
康一が周囲を警戒しながら言う。その時、彼の幽波紋『エコーズ ACT3』が、主人の危機を察知したかのように、ひとりでに発現した。
『……御主人(マスター)。ココ、何カ「音」ガ変デス。響キ方ガ、オカシイ』
「え? 音が変って……」
康一が息を呑んだ瞬間、部屋の明かりが完全に消えた。いや、懐中電灯の光さえも、何かに吸い込まれるように、急速に闇に塗りつぶされていく。
「露伴先生!?」
「静かにしろ、康一くん……。見ろ、あそこだ」
露伴が指差した先――。
埃まみれの畳と、壁の「わずか数ミリの隙間」から、ドロリとした粘り気のある、真っ黒な『手』が、音もなく這い出てきていた。
その手には、見たこともない歪な形の『ペン』が握られている。
「面白い……! これだよ、このリアリティだ!」
恐怖の塊が目の前に現れたというのに、岸辺露伴は、歓喜に震える声でそう笑った。
畳の隙間から這い出た黒い手が、手にした歪なペンで、宙に『一本の線』を引いた。
ただの空気の中に、まるでナイフで引き裂いたような漆黒の亀裂が走る。それは物理的な傷ではなく、空間そのものに生まれた「隙間」だった。
「ひっ……! 露伴先生、見とれてる場合じゃないです! 離れて!」
康一が叫ぶのと同時に、その空間の亀裂から、凄まじい吸引力が周囲の空気を巻き込んで吹き荒れた。
ベキベキと音を立てて、床の畳やデスクの原稿用紙が、そのわずか数ミリの亀裂へと吸い込まれ、信じられないことに、ペシャンコの『紙』のように平坦になって消えていく。
「な、何だこの能力は……!? 吸い込まれたものが、二次元のペラペラな状態になっていく!?」
「くそっ、僕を『背景のモブ』にでもする気か!」
露伴が叫び、自身の幽波紋『ヘブンズ・ドアー』を具現化させる。
だが、敵は狡猾だった。姿を見せず、ただ部屋中の「壁の角」「机の引き出しの隙間」「天井のひび割れ」から、無数の黒い手が現れ、一斉に空間へ『線』を引き始めたのだ。
部屋全体が、まるでバラバラに切り刻まれるキャンバスのように歪んでいく。
「しまっ――」
露伴の足元の床が、一瞬にして『線』によって切り取られた。底なしの闇の隙間へと、露伴の身体がズブズブと沈み込んでいく。衣服が、皮膚が、まるでインクのように平坦に引き伸ばされ始める。
「露伴先生!!」
「来るな、康一くん! 君まで巻き込まれる!」
「そんなこと言えるわけないでしょうッ!!」
康一の瞳に、杜王町を守る一人の幽波紋使いとしての『黄金の精神』が宿る。
「やれ、ACT3(アクトスリー)!!」
『了解(アフレディ)、御主人(マスター)!』
重力の本質を操るスタンド、エコーズACT3が露伴の足元へと飛び込む。
ターゲットは露伴ではない。露伴を吸い込もうとしている『床の隙間そのもの』だ。
「**『3 FREEZE(スリーフリーズ)』ッ!!!**」
ドゴォォォン!!!
凄まじい重圧の音が部屋に響き渡った。
エコーズの放った能力により、露伴を飲み込もうとしていた空間の亀裂に、何トンもの「重み」がのしかかる。隙間の吸引力がピタリと止まり、沈み込みかけていた露伴の身体が地上へ繋ぎ止められた。
「ハァ、ハァ……! やったか!?」
息を切らす康一。しかし、エコーズACT3が叫んだ。
『御主人(マスター)! 上デス! 敵ハ「重サ」ジャ死ナナイ! 隙間カラ『本体』ガ来ル!』
天井の隅、コンクリートのわずかな隙間から、ドロドロとした黒いインクの塊が滴り落ちてきた。それは人の形を象り、十年前に失踪した漫画家――烏丸栄一の、完全に狂気に染まった顔へと変わる。
「私の……私の最高傑作の背景になれぇぇ! 有名漫画家・岸辺露伴の肉体から搾り取るインクなら、最高のリアリティが描けるぞぉぉ!」
烏丸のスタンドが、巨大なペン先を槍のように構え、動けない露伴の胸元へと突き出された。
(ダメだ、間に合わない……!)
康一のACT3は、今、床の隙間を固定するために能力を使い続けている。今ここで能力を解除すれば、露伴先生は床の闇に完全に沈んでペラペラの紙になってしまう。かといって、このままでは露伴先生が刺される。
絶体絶命。
だが、その瞬間、不敵に笑ったのは、胸元に刃を突きつけられているはずの岸辺露伴だった。
「……烏丸と言ったか。君の執念は確かに面白い。だがね、決定的に『リアリティ』が足りないよ」
「何だと……!?」
「漫画家ってのはね、原稿用紙(紙)の上だけで生きてるわけじゃないんだ。君は隙間に引きこもるあまり、現実の人間が持つ『土壇場の爆発力』を忘れてしまったらしい」
露伴は、ACT3の重力に耐えながら、自由になる右手で、自分のポケットから一瞬にして『何か』を取り出し、烏丸の顔面に叩きつけた。
それは、先ほど康一をからかうために持ってきていた、**露伴自身の「新作のネーム(下書き)」**だった。
「ヘブンズ・ドアー!!!」
凄まじい速度で描かれた露伴の生原稿。それに触れた瞬間、烏丸の顔がパラパラと『本』のようにめくれ上がった。
「な、何ぃぃぃ!? いつ、どの瞬間に僕を本に――」
「君が天井からマヌケに落ちてきた瞬間さ。康一くんが君の『隙間』を完全に固定してくれていたおかげで、君の動きは予測しやすかった。僕たちのコンビネーションの、完全な勝利だ」
露伴は万年筆を鮮やかに走らせ、本になった烏丸の顔(ページ)に、力強い筆跡でこう書き込んだ。
**【岸辺露伴と広瀬康一を攻撃できない。また、二度とあらゆる『隙間』に入ることはできず、自ら警察に出頭する】**
「う、あああ、あああああ……!」
書き終えた瞬間、烏丸の幽波紋能力は完全に霧散した。
部屋のあちこちに開いていた不気味な亀裂は、まるで最初からなかったかのように塞がっていく。床の吸引力も消え、露伴の身体は無事に元の畳の上へと着地した。
烏丸は、魂が抜けたような顔でへたり込み、自らブツブツと罪を呟きながら、ふらふらとアパートの外へ、警察署の方へと歩き去っていった。
「……はあ。本当に死ぬかと思いましたよ。もう絶対に露伴先生の『取材』には付き合いませんからね!」
すっかり夜も更けた杜王町の帰り道。
街灯の下を歩きながら、康一はへとへとになった身体を引きずるようにして文句を言っていた。結局、母親との夕飯の約束には大遅刻だ。
「何を言うんだ、康一くん。君のあの『3 FREEZE』のタイミング、実に素晴らしかった。空間の歪みそのものを重さで固定するなんて、僕の想像以上のリアリティだったよ」
露伴は、すでにお気に入りのスケッチブックを取り出し、今日の事件のメモを走らせている。
「褒めても何も出ませんよ。あ〜あ、母さんに何て言い訳しよう……」
がっくりと肩を落とす康一の後ろ姿を見ながら、露伴は万年筆を止め、フッと小さく笑った。
「……まあ、今日のところは、僕のネーム(下書き)の第一読者にしてあげることで免じてくれたまえ。君をモデルにしたキャラクターが、なかなかいい活躍をする予定なんだ」
「えっ? 僕がモデルですか? ……それ、変な能力だったり、途中で悲惨な目に遭ったりしませんよね?」
怪訝そうな顔で振り返る康一に、露伴はいつもの、自信に満ち溢れた不敵な笑みを返した。
「まさか。僕の認めた男だ、作中最強の『黄金の精神』を持つヒーローに決まっているだろう?」
星空が広がる杜王町の夜。
二人の奇妙な信頼関係は、また一つ、誰も知らない特別な物語を紡ぎ出したのだった。
コメント
1件
「うわあああ、これぞ杜王町って感じの怪異ミステリーでめっちゃ面白かった!!😭✨露伴先生の知的好奇心が暴走するの、完全にアニメで観たあの感じそのままじゃん!康一くんマジでお疲れ……毎回ああいう目に遭うの報われなさすぎて笑ったw でも『3 FREEZE』で空間ごと固定するって頭いい使い方すぎて痺れたよ…!!烏丸の能力も『二次元化吸い込み』ってコンセプトが原作に寄せててめちゃエモいし、最後の露伴先生のコンビネーション勝利には「やったー!!」って声出た…!!つぎも絶対読むからね!」