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朝、
スマホが震えた。
「おはよう」
いつもと同じ文字。
絵文字も、語尾も、変わらない。
画面を見つめながら、
親指が止まる。
――来たよね。
そう打てばいいだけなのに、
その一行が、
どうしても形にならなかった。
昨夜、
私は起きていた。
起きていて、
目を閉じていた。
触れられたことも、
出ていく音も、
全部、知っている。
それなのに。
「昨日は、遅かったの?」
自分で送った言葉が、
今さら、喉に引っかかる。
返事はすぐに来た。
「うん。
顔見たかったんだけど、
行けなかった。」
その文を、
何度も読み返す。
否定すればいい。
「来たでしょ」と言えばいい。
でも、そうしたら――
説明しなきゃいけない。
なぜ寝たふりをしたのか。
なぜ声を出さなかったのか。
なぜ、確かめなかったのか。
全部、
自分の選択だったことを。
スマホを置く。
彼の嘘は、
静かで、
やさしかった。
責めるところが、
どこにもない。
だから、
何も言えなくなる。
私は、
嘘を受け取った。
受け取って、
しまった。
あの夜のことは、
話題にもならず、
予定にもならず、
なかったみたいに
今日が始まる。
言わなかったんじゃない。
もう、
言えなかった。