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“カッ”
シンが刀を鞘から抜き放った刹那の瞬間ーー
「はっ!?」
鈍い金属音と共に、その刀身が脛元から二つに割れていた。
「……何故だ?」
“一瞬たりとも目を離してはいない筈なのに……”
ユキは既に玉座の背後で、シンの背中合わせに刀を鞘に納めている最中であった。
“――何故、私の後ろに居る!?”
玉座に幾重もの線が走り、それは多数に分離し崩れ散る。
背中合わせに振り向くユキの瞳が、崩れ散る玉座の合間を縫ってシンを見据えていた。それは一欠片の情けも無い、深い銀色の瞳。
刹那、一拍子遅れて身体中に走る無数の線。
「……速過ぎんだろ、オイ!?」
それがシンのこの世に発した最期の言葉。そして闇へ消え逝く思考。
その超高速の居合い抜きで三十六分割する筈が、逆に己が三十六分割されたシンの五体は瞬時に凍結し、氷の塵となって欠片も残らず消えて逝った。
「弱肉強食の摂理。アナタが言った事ですよ?」
既に聴こえる筈も無いであろう者へ、ユキは振り返る事無く呟く。
「斬っていいのは、斬られる覚悟のある者だけです。アナタにかける情けはありません」
冷たいまでに美しく輝くその銀色の瞳に、一辺の曇りも情けも無かった。
「んなっ!?」
「そんな馬鹿な!?」
「シン軍団長が!?」
「いっ……一瞬で!?」
軍団員達に動揺と戦慄が走る。
唐突な頭の敗北兼死亡の出来事に、統率が乱れる一種のパニック障害に陥る第三軍団。
*
“level 99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
突如軍団員達のサーモから、一斉に警告音が鳴り響く。
余りにも瞬間的な出来事だったので、時間差で漸く感知したのだった。
***********
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ移行します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
軍団員達が一斉に、サーモの液晶画面を凝視する。
――――――――――――――
※裏コード~臨界突破
※モード:エクストリーム
対象level 209.96%
※危険度判定 SS
――――――――――――――
「ヒッーーヒイィィィ!!」
多重に鳴り響く警告音と、液晶画面に表示された数値を見て、一人の軍団員から悲鳴に近い声が上がった。
『勝てる訳が無い!』
『シン軍団長の仇を!』
『いや、ここは撤退を!』
交錯する様々な思惑。
「どちらも必要ありません」
そんな軍団員達の心を見透かしたかの様に、ユキはそっと呟いた。
『えっ!?』
途端に全ての軍団員の身体に走る線、線、線、線、線ーー
「アナタ方も既に終わっているのですから……」
その瞬間、弾かれた様に多数に分離する軍団員達。
『一体何時……斬られーー』
自分が既に斬られていた事に気付いた者は、分離した氷の欠片となる瞬間まで、誰一人として気付く者はいなかった。
***
第三軍団消滅。しかし、手放しで喜べる状況には無い。
後に残された者の、慟哭が響き渡る。
「これが狂座のやり方だ……」
辺りの惨状を見回しながら、ジュウベエがそう呟いた。
三年前に、この国を襲った未曾有の惨劇。悲劇は再び繰り返される。
狂座と対抗出来た四死刀は、もう居ない。
「江戸界隈に奴等の本拠、エルドアーク宮殿が再び姿を現した」
対抗出来うる唯一の存在。最後の特異点。
「奴等はまずこの国の中核となる江戸を落とし、その後全てを蹂躙するつもりだろう……」
惨劇はこの集落のみならず、この国全体に広がる事を。
狂座の真の目的は一切不明だが、危機的状況に有るのは間違い無い。
「某は急ぎ江戸に戻り、柳生の総力を以て奴等の侵略を食い止める。ユキヤ、お主はまっすぐエルドアーク宮殿に向かい、根源たる冥王を討て」
この国の命運は、人知を超えた力を持つ特異点。まだいと幼き、この白銀髪の少年に託す以外、他に術は無かった。
「随分と勝手な言い種ですね……」
そう呟いたユキの言葉の真意。狂座がこの世の脅威である様に、特異点もまたこの世の脅威である事に変わりは無い事を。
この世とは、決して相容れぬ存在。
三年前と同じ様にーー“毒は毒を以て制す”
「この国がどうなろうと、私には関係の無い事ですが……」
ユキにはこの国を守るという大義名分等、最初から持ち合わせてはいない。
「このままでは、アミの身に危険が及びそうだから……」
だが彼を突き動かす、その行動理念は一点の曇りすら無い。
「それに狂座のやり方が気に入らない。それだけの事です」
「ユキ……」
アミは複雑だった。それでも嬉しかった。
結果的にその行動は、全ての人々を救う行為に他ならない。
だがその為に傷付いていく姿。それを止める術は無い。
たからこそ、その傍らで見届けなければならない。
「すまんな……」
ジュウベエが呟いたその言葉の意味は、ユキに対するものなのか。それとも、己の無力さに依るものなのか。
「そんな事より、江戸には多数の軍団が派遣される筈です。宮殿には恐らく、直属以上が残る筈……」
それは即ち、江戸にはジュウベエが軍団と闘い、宮殿にはユキが直属や冥王と闘う事を意味していた。
避けられぬ最終決戦。この国の命運の別れ道。
「……御武運を」
「……お主こそな」
これ以上の言葉はいらない。お互い二手に別れる。
ジュウベエは江戸へ。
ユキ、そしてアミとミオは共にエルドアーク宮殿へと。
ユキの紡いだ言葉の意味には、少しばかりの皮肉が含まれていたのかも知れない。
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