「音星。さあ、先へ行こう……う?!」
「はい……あら?」
突然、地面が抜けて、いや、最初から地面なんてなかったんだ。
俺と音星は大勢の死者たちと共に、遥か遠くの真っ赤な地面へと吸い込まれるように落ちていった。
落ちる。
落ちる。
落ちる……。
俺たちは、どこまでも大叫喚地獄へ落ちた。
灰色の雲が俺と音星の周りをまとわりついていた。殊の外。雲の中はひんやりと寒かった。
ビュー、ビュー、と鳴る。激しい風の音を聞きながら、しばらく落下すると、ようやく雲が晴れてきた。
けれども、真っ赤になっている地面はまだ遥か下にあった。
落ちる。
落ちる……。
ふと、俺は思った……。
「俺たちは、どこへ落ちればいいんだ? このまま地上へ激突したら、どう考えたって助からないぞ……」
隣を一緒に落下している音星は気を失っているのか、終始目を閉じている。そこで、俺は音星の身体をかばってやることにした。
がっしりと、音星の頭部から抱き寄せると、落下する速度が早まった。俺は両目をカッと見開き遥か下方の大地を見つめた。
ぐんぐんと地上が目の前に迫ってくる。その中で、大地の端にある広々とした血の池を発見した。
「やったぞ! 見つけた!! 無事に落ちることがきる場所は、そこしかない! あそこへ落ちればいいんだ!!」
俺は音星と一緒に身体を斜めにして、風を受けることによって軌道修正を徐々にしていく。
そうこうしていると、猛スピードで血の池が迫ってきた。
急速に迫り来る湖面の前で、俺はさすがに音星をかばいながら目を閉じてしまった。強い衝撃と共にドボンっと、派手な水の音がして、俺たちの身体が血の池の赤い水で一瞬で真っ赤に染まり出したような感じがした。目を開け、両手に力を入れて、音星の身体を強く抱き寄せたまま俺は、すぐそばの下流を流れている透明な水の川まで泳いでいった。
綺麗な川になんとか、音星と一緒に辿り着くと、ゆっくり西へと流れている穏やかな水の流れに身を任せた。
それから俺たちは流れに流れて、白い花がたくさん咲いている岸にたどり着いた。俺と音星の身体中からは、血の池でついてしまった赤い色はなくなったけど、その代りムッとくる血の臭いがするようになってしまった。
岸で俺は音星を横たえてから、立ち上がった。
「大叫喚地獄……なんかここも……殺風景だな。いや、でも何故か静かになってる」
「火端さん。……本当にありがとうございます」
音星が目をパッと開けて、横になっている状態で岸の周りに生えている花々を見回した。そして、肩にぶら下がった布袋を確認しながら、ゆっくりと立ち上がる。