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放課後の校舎は、昼の喧騒が残ったまま、
静かに黄昏色に染まっていた。
元貴はギターケースを肩に掛けながら廊下を歩く。
廊下の窓越しに隣棟の音楽室を見ると、
金色の髪が夕陽を反射して光っていた。
吹奏楽部の藤澤さん——。
フルートを構える姿は、
演奏前から音楽そのもののようで、自然と視線を奪われる。
「……やば」
思わず呟いた自分に気づき、慌てて目を逸らす。
でも耳は勝手に音楽室に向かっていた。
フルートの音色が、指先を弾くギターの感覚とは違う形で胸に響く。
「元貴、また窓の外見てたのか?」
若井が笑いながら肩を叩く。
「別に……あ、ほら、吹奏楽部の藤澤さん」
「ふーん、やっぱり気になるんだな」
「別に」
「はいはい」若井はニヤリと笑って、俺の腕を引っ張り部室へと進む。
その翌日、文化祭の練習で部室に向かうと、偶然吹奏楽部と顔を合わせた。
楽器ケースを運ぶ中、藤澤さんが声をかけてきた。
「大森くんだっけ。手、空いてる?」
「はい、持ちます」
譜面台やパート譜を運びながら、他愛ない会話が自然と弾む。
「ギター部は文化祭、どんな曲やるの?」
「バンドで、…オリジナル曲です」
「オリジナル! すごいね。僕らは映画音楽のメドレー」
「へえ……」
「あの藤澤さん…」
「涼ちゃんって呼ばれてるから
涼ちゃんでいいよ!」
音楽室に到着すると、
…涼ちゃんは「ありがとう」と微笑み、フルートを取り出した。
夕陽に透ける金髪、銀色に光るフルート、静かな空間に漂う音色——
元貴は、心の奥がふわりと温かくなるのを感じた。
帰り道、若井がからかってくる。
「お前、絶対涼ちゃんのこと気に入ってるだろ」
「違うし!」
「はいはい、そういうことにしとくわ」
笑いながら歩く若井の背中に、
ふと羨ましさを覚えながらも、元貴は自然と笑っていた。
——ああ、またあの音色を聴きたい。