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夜の居酒屋。チバラキVの5人がテーブルを囲んで、それぞれに飲み物を前に話している。
倫「沙羅ちゃんがそういう生い立ちだったとは知らなかったよ」
智花「あたしは子どもの貧困って聞いて、ニュースで見る発展途上国の子どもみたいなイメージ持ってました」
瑠美「そりゃいくら目を皿のようにしても見つからないはずだ。日本の基準で人並み、世間並の生活できてないって事だったんだな」
玲奈「だったら児童館と協力した方がいいですかね?」
沙羅「子どもの貧困の、子どもってのは、小学生ぐらいまでの年じゃねえよ」
玲奈「え?」
沙羅「18歳未満だ。小学6年生までの子どもの話だと思ってんなら、それもとんだ勘違いだぞ」
倫「法律的にはそうだね。例えば児童福祉法という名の法律があるけど、ここでいう児童は18歳未満という定義なんだよ」
沙羅「法律がどうかは知らないけどさ。家が貧乏で一番つらい思いをするのは高校生の時かもな。あたしの経験で言うと」
智花「話したくなければ無理にとは言わないけど。沙羅さんの家庭ってどういう感じだったの?」
沙羅「あたしの母親は典型的なダメ人間でさ。ずっと夜の街、水商売の女だった。で、客の男に次々に枕営業してうっかり妊娠しちまった。それで生まれたのがあたしさ」
玲奈「それじゃ、沙羅さんのお父さんって?」
沙羅「誰だか知らねえし、会った事もねえよ。今さら知りたいとも会いたいとも思わねえし。その母親もアル中こじらせて、あたしが15歳の時に死んだ」
瑠美「その後、どうやって暮らしてたんだ」
沙羅「児童養護施設に引き取られた」
玲奈「孤児院で育ったんですか?」
沙羅「たぶん玲奈が想像してるのとは違うよ。年が違う似たような境遇の子たち、あたしを入れて7人で一緒に暮らしてた。職員がいて衣食住全部面倒見てくれたし、学校にも通ったし、年に何回かは遊園地とかみんなで行ったり、悪くはなかったさ」
倫「でも確か18歳になったら出て行かなきゃならないんだよね」
沙羅「あたしがいた施設は高校の卒業式までいさせてくれた。あたしは9月生まれだから、18歳と7か月か」
智花「じゃあ、いつもお腹を空かせてたとか、着る服に困ったとか、そこまで大変じゃなかったの?」
沙羅「それはなかったよ。施設の職員もみんないい人で親身になってくれたしな。けど、だからって何の問題もなかったわけじゃないぜ」
玲奈「具体的にはどういう?」
沙羅「まず、母親が水商売の世界以外何も知らない人だったから、物心ついた頃から、ろくでもない事ばかり教えこまれた。どうすりゃ男の気を惹けるかとか、ラーメン屋で難癖つけて代金負けさせるコツとか、借金踏み倒した自慢話とか」
沙羅がビールの大ジョッキをぐいとあおる。
沙羅「あたしはそれを真に受けて、そういう風に振る舞う、嫌なガキだったろうな。そんで中学3年で施設に入っただろ。職員がいくらいい人でも、しょせん実の親じゃねえし、1対1で付きっきりで面倒見てくれるわけじゃない。普通の家庭で育った子どもに比べたら、必要な事を何も知らないまま社会に出るわけだよ、施設出身の子は」
智花「必要な事って? 例えば?」
沙羅「そうだな。友達との普通の付き合い方。学校の勉強のがんばり方。就活の仕方。社会に出てからの他人との付き合い方。その他もろもろ。そんな事を誰にも教えてもらった事がないから、施設を出た後どんな仕事も務まらなくて、気が付いたらキャバクラ嬢になってた」
倫「それで沙羅ちゃんって色気の使い方が上手いわけか」
沙羅「あたし自身が水商売の世界しか知らない人間になっちまってた。あんだけ軽蔑してた母親と同じになってた。それでも若いうちは夜の世界でチヤホヤされて、東京の有名な店で売り上げナンバーワンになった事もあったんだよ」
玲奈「どうしてそのお仕事やめたんですか?」
沙羅「あの世界は次から次に若い子が入って来る。20代の半ば過ぎたら指名がつかなくなって、枕営業だけはやりたくなかったから、29になった時にすっぱり足を洗おうと決めたんだ。それで生まれ育ったこの街に帰って来た。そういう話さ」