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午後3時過ぎの市内団地の脇の公園。コスチュームを着たチバラキVの5人と芸大生男子10人が待機している。学生たちは真っ黒な全身タイツを着て、安物の鬼のお面をかぶっている。
北野と近藤が小型の拡声器、CDプレイヤー、そして食パンの耳が入った大きな袋を持ってやって来る。
北野「お待たせいしました。公園の使用許可と町内会の了承は取り付けました」
近藤「芸大のみなさん、わざわざのご協力ありがとうございます」
学生1「いえいえ、僕らは演劇サークルの部員ですから適任ですよ」
学生2「一回やってみたかったんですよ、戦隊物の悪の戦闘員。立ち回りは僕らの方で動き回りますから、戦隊の人たちはそれらしくポーズつけていてくれればOKです」
玲奈「そのパンの耳は何です?」
近藤「沙羅さんのアイディアなんです。集まった子どもたちに無料で配ります」
倫「今どきの子供がそんな物欲しがるかねえ?」
北野「もちろん、普通の家庭の子は見向きもしないでしょうね。でも貧困家庭の子どもは飛びつく可能性が高いです」
近藤「これなら服装とか、外見では見分けられない、貧困家庭の子どもを見つけられるかと」
智花「なるほど! 沙羅ちゃんグッドアイディアじゃないですか」
沙羅「経験者だからね。本人たちにしか分からない事情を取り入れたやり方じゃないと、役所が何やっても空回りにしかならねえんだよ」
北野が拡声器で子どもたちに呼び掛ける。
「これから戦隊ショーを始めます。無料で見られますよ。さあ、集まって」
子どもたちが少しずつ集まって来る。北野がCDプレイヤーで音楽を流す。
学生たちが子どもたちに近づき、脅すような奇声を発する。その後ろからチバラキVが登場。
玲奈「待て! 街の平和を乱す悪は、あたしたちが許さない」
チバラキVの5人がそれぞれのポーズを決め、悪の戦闘員役の学生たちが飛び掛かる。5人が適当に姿勢を変えると、学生たちが自分で転んだり、倒れたり、飛び上がったりして、戦っているように見せる。
ショーを見ている子どもたちの中にミコもいる。ミコが周りがびっくりするような大声で叫ぶ。
ミコ「ピンク! がんばれ!」
戦闘員役が全員悲鳴を上げながら物陰に逃げたところでショーは一旦終了。近藤がパンの耳が入った小さなビニール袋をいくつか抱えて、呼びかける。
近藤「お腹が空いている子はいますか? 無料ですよ」
子どもたちが近藤の側に来て、そのままプイとそっぽを向いて去る。
男の子A「要らないよ、あんなの」
女の子A「おやつなら冷蔵庫にプリンあるもん」
男の子と女の子2人ずつが近藤に向かって手を伸ばす。うち一人はミコ。近藤が一袋ずつ渡すとさらに手を伸ばす。
ミコ「もうひとついい? お母さんの分」
男の子B「僕はあと二つ欲しい。お父さんとお母さんの分」
袋を抱えた子どもたちが去って行ったところで、高齢の男女がそっと近寄って来る。
北野「町会の方ですね? 今の子たちの身元分かりますか?」
男性「はい、団地の同じブロックの家の子たちですね。いや驚きました。子どもの貧困問題なんて、どこか遠い所の話だとばかり思ってました」
女性「言われてみれば、生活苦しそうでした。でも、そんな深刻な話だとは全然気づきませんでした」
北野「それとなく様子を見守ってあげていただけますか?」
近藤、名刺を渡しながら町会の二人に言う。
近藤「何か深刻な問題があるようなら、こちらへ連絡して下さい。市役所で支援する準備がありますので」
場面転換。
チバラキVの移動用の軽トラックの荷台の席。マスクだけ外した5人が並んで座っている。
瑠美「沙羅、ずいぶん可愛いファンがついたみたいだな」
沙羅「え? ファン?」
玲奈「ショーの間中、ピンク! ピンク!って叫んでた女の子いましたね」
智花「多分6歳ぐらい? 沙羅ちゃんってもてるのね」
沙羅「はっ、当然だろ。あたしの魅力は相手の年齢性別関係なく、バツグンだからな」
倫「ははは、そりゃ頼もしいね」
沙羅モノローグ
「あの子、ミコちゃんだっけ、やっぱり何か家に問題があるんだな」