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館の中は、昨夜の事件を引きずる重苦しい空気に包まれていた。相沢は広間で全員を前に立たせ、慎重に観察を始めた。
「では、皆さん。それぞれ昨夜、事件が起きた時間、どこにいたのか話してください」
まず佐伯蓮が口を開く。
「僕は、書斎の窓際で静かに考え事をしていました。霧島君のそばには行っていません」
しかし相沢の目は鋭い。書斎の窓際には、佐伯の足跡らしきものがない。
「窓際で考え事ですか……。では、窓を開けた形跡や椅子の移動は?」
佐伯は言葉に詰まる。少し汗が光る。
次に永井沙織。
「私は取材のために館の図書室でメモをとっていました」
相沢は図書室に向かい、床と机の配置を確認した。だが、メモ帳以外に書きかけの資料はなく、誰かがそこに長く滞在した痕跡もない。
香坂真理は冷静に見えたが、彼女の表情から微妙な緊張が読み取れる。
「私は館内を巡回していました。異常は何も見つけませんでした」
相沢は全員の証言をメモし、矛盾を整理していく。
・佐伯は窓際にいたというが、物理的にその足跡がない
・永井は図書室にいたと主張するが、長時間滞在した形跡がない
・香坂の巡回には、誰も目撃していない
さらに相沢は、昨夜見つけた小さな手紙片を思い出した。「誰も信じるな」。犯人は証拠を操作し、誰かの行動を隠そうとしている可能性がある。
「皆さん、重要なのはこの館の構造です」
相沢は館の間取り図を広げ、広間、書斎、図書室、廊下の位置関係を示す。
「犯行はこの閉ざされた空間の中で行われた。外部からの侵入は不可能。つまり犯人は内部にいる――誰かが嘘をついているはずです」
沈黙が広間を支配する。全員の視線が互いに揺れ動き、わずかな動作でも見逃さないかのように警戒し始めた。
相沢は小さく息をつく。
「ここからが本当の心理戦です。嘘を見抜き、証拠と照らし合わせれば、真犯人は必ず浮かび上がります――」
館の中に影が長く伸び、疑惑の輪が徐々に固まり始めた。だが、真実はまだ霧の中に隠されている。