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「フィル!起きて大丈夫なのかっ?」
驚いた顔のノアが階段を駆け上がって来る。そして僕の目の前で止まり剣を持ってない方の手を掴む。
僕はノアに微笑み、階段の途中で止まっているリアムに目を向けた。
リアムは怒っていた。僕がまた勝手に部屋を出たからかもしれない。でもリアムに会いに行こうとしてたんだから、そんな怖い顔しないでよ…と僕は目を逸らせた。
「どこに行くんだ?腹の傷は?まだ顔色が悪くないかっ?」
「大丈夫だよ。もう傷は塞がってるし元気だよ」
「ほんとに?そっか…よかった…」
ノアが大きく息を吐いて脱力する。
僕はノアの手を握り返して感謝を述べた。
「ノア、ありがとう」
「なにがだよ」
「ノアが助けを呼んでくれたんでしょ?でないと僕は、トラビスに殺されて首を斬られてたよ」
「なにあいつ、そんなひどいことをする奴なのか?」
「たぶん…僕のことを恨んでるから」
「そうなのか?」
そう言ってノアが腕を組んで首を傾ける。更に天井を見上げて何かを考え込む。
そんなノアの様子に僕も首を傾けた。
「ノア?」
「うーん…。あのな、俺…あの場から逃げただろ?まあすぐに助けを呼んで戻って来るつもりだったんだけどさ。急いで役人のいる所へ走って行くと、そこにリアム様がいたんだ」
「リアムが?」
「そうだ」
すぐ傍から声がして振り向くと、リアムがいつの間にか隣に来ていた。
「俺はおまえを捜していた。銀髪を隠していても小柄な女が一人で移動していたら目立つ。すぐにおまえが向かった先がわかった」
「僕は…女じゃない」
「わかっている。だがフィーはそう見られるんだ。…おまえが襲われたあの街に入り役人に尋ねていた時に、ノアが駆け込んできて騒いだ。友達が、フィーが襲われていると」
「俺…必死だったからさ」
「ノア…君は家に逃げてよかったのに」
ノアがまた僕の手を握って泣きそうな顔で怒る。
「ばかっ!そんなことできる訳ないだろっ!ほんとは俺が助けてあげたかったけど騎士になんて適わねぇしよ…」
「当たり前だよ。ノアに何かあったらリコに申し訳ない」
「でもよ、結局はフィルを置いて逃げてごめんな…。それでリアム様と役人と一緒に急いで現場に戻ったんだよ。そうしたらさ、あいつ…あの騎士が、意識のないフィルを抱き抱えてぼんやりしてた」
「え?僕の首を斬ろうとしてたんじゃなくて?」
「違う。フィルを腕に抱いて、焦点の合ってない目をして惚けてた」
「どう…して…」
「さあ?俺にはわかんねぇ。でさ、リアム様の問い詰める声を聞いて我に返ったみたいで、フィルをそっと寝かせると馬に飛び乗って去った」
「去った?僕を置いて?隣国にまで追いかけてきたのに?」
「そう。だからさ、さっきノアが恨まれてるって言ってたけど違うんじゃないか?あいつの顔、なんだか辛そうだったぞ?」
「……」
僕は俯いて考え込む。
トラビスは、どうして僕にとどめを刺さなかった?僕を殺そうとこんな所にまで追いかけて来たのに?ずっとずっと僕のことを憎しみの目で見てたじゃないか。ああ…そうか。簡単に殺してしまうのは嫌だったのか。もっと僕をいたぶって苦しめたかったんだな。
「トラビスは、きっとまた僕を殺しにくる」
「え?そうなのか?」
僕はノアの目を見て頷く。
ノアが目を丸くして僕を見る。そして次にリアムを見た。
つられて僕もリアムを見ると、リアムはとても険しい顔をしていた。
僕はノアから手を離して肩にかけた鞄と剣を床に降ろした。そしてリアムの正面に立つと頭を下げた。
「なんの真似だ」
低い声に心臓が跳ねる。もう僕に甘く優しく接してくれたリアムはいない。でも僕を助けてくれた。きっと一度でも関わった者を捨て置けない性格なのだろう。だからこれ以上ここにいたらリアムを困らせる。早くここから離れるんだ。
僕はゆっくりと頭を上げて固く手を握りしめた。
「ありがとう。リアムが来てくれなかったら確実に死んでた。僕はまた生き延びることができたから、やりたいことをする。行ってみたい所があるんだ。今からそこに行くつもりで、リアムに挨拶をしようとリアムの部屋を探してたんだ」
「どこ…に行く?それになぜそんなに急ぐ?まだ全快はしていないだろう?」
リアムの声が更に低くなった気がする。
リアムはどうして僕を止めるの?ほら、そんなに怖い顔をしてるじゃないか。僕が傍にいるの、嫌なんでしょ。だから止めないでよ。
僕は小さく息を吐くと、床に置いた剣と鞄を持った。鞄を肩にかけ剣を腰のベルトに差す。そしてなるべく平静を装って口を開く。
「僕の国からは、僕が死ぬまで追手が来ると思う。トラビスは一旦引いたけど、また彼か新たな追手が来ると思う。だから捕まる前に早く望みを叶えたい」
「追手って…。フィーは何をしたんだ?」
「何もしてないよ…。いや、したのかな。僕は生まれて生き延びた。だから狙われる」
「なんだそれは!」
リアムが厳しい声を出す。
ノアも僕の為に怒っている。
僕の国の理不尽な慣習は、理解されないだろう。いや…もしかすると、バイロン国でも同じなのだろうか?
僕はリアムに向かって首を微かに傾ける。
「リアム、聞きたいことがある。もしこの国で王族に双子が生まれた場合、どうなるの?」
「どうなるって何がだ?盛大に祝うだけだが」
「…ああ…うん…」
そうか…そうなのか。いいな、羨ましい。僕はバイロン国に生まれたかった。そうしたら呪われた子ではなくて幸せになれたかもしれない。
僕は震える息を吐き出して微笑む。
「変なことを聞いてごめん。じゃあ僕は行くね。リアムもノアもありがとう。お世話になりました。二人とも末永く元気で…」
そう言って階段を降りようと足を踏み出した僕の腕が強く引かれた。