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疲れきった佐野さんに幸せを届ける吉田さんの話
都内にこんな場所があるなんて知らなかった。
そこは一面のクローバーとシロツメクサが咲き誇る人気のない広場。
撮影が始まる前の空き時間に、仁人が「着いてきて」と半ば強制的に俺の手を引いてここへ連れてきたのである。
そして今、その広場のど真ん中に俺ら2人が座っている。
「仁人?」
「ん?」
「俺何歳か知ってる?」
「28?」
「お前は?」
「26」
「なんで俺ら花冠作ってんの?」
「んー」
その質問は曖昧に、風の音に混じって消えていった。
名前を呼んでも、同じ質問をしても、答えは全部曖昧なままだった。
余程作業に集中しているのか、そんなファンタジーな人だったか。
俺はと言うと、仁人の見よう見まねで手を動かしていたものの途中からよく分からなくなって、真剣な仁人を眺めていた。
作業は飽きても仁人を見るのは飽きない。
日が当たり、風に吹かれたその髪は透き通っていて、いつもよりも儚げに感じられるその横顔に見とれていた。
すると突然、彼と目が合った。
それと同時に頭に違和感を感じた。
頭に手を持っていけば、カサっとそよ風と同じ音を立てて花冠が揺れた。
「……似合うな」
「いや、きついって」
「いけるけいる」
「28がシロツメクサはきついって」
「あなた顔整ってるんだから大丈夫でしょ」
普段はそんな事言わないくせに。
「いや、仁人の方が似合うから、これは。」
そう言って頭から冠を外し、仁人の頭に乗せた。
抵抗すると思いきや素直に被せることができて内心喜んでいると、やけに不機嫌そうな顔が見えた。
でもかわいい。
すかさず光のスピードで写真を撮る。
「………のに」
「ん?」
「…勇斗にあげたのに」
時が止まった気がした。
その言葉を理解した瞬間、先程の行いがとても悪いことに感じられて、名残惜しいけど仁人の頭に被せた冠を取った。
けれどそれを自分に乗せる勇気は無かった。
やっぱりきついだろ。
「貸して」
そういうと俺の手から冠を取り上げて、先程よりも丁寧に俺の頭に乗せた。
「…プレゼント」
正直、他の大人から同じことをされれば、いつもの勢いで突っ込んだり大笑いをしたりするだろう。
けれどそれが仁人となれば別で、何万円のブランド物より価値があるように感じられた。
「…なんで急に?」
「あ、ちょっとまって」
またしても質問には答えて貰えず、また地面に視線を落としてしまった。
今なにを聞いても答えて貰えないことは確かなので、またその横顔を眺めていた。
今度はその場で作業せず、次々と遠くへ行ってしまう。
最初は追いかけていたが、ベンチが近くに見えたのでそのまま腰掛けて遠くから仁人を眺めていた。
「じんとー、もうそろそろー」
「んー」
このやり取りはもう3回目。
今の仁人なら、1回で聞かないと予想していたので早めから呼びかけていたが、着々と撮影の時間が近ずいて来ている。
仕方ないので最初に連れてこられたときの仕返しをするように仁人の腕を引っ張って強制連行してやろう。
そう思って立ち上がった時、
「あ!!!」
丸まった背中から大きな声がした。
理由を聞くより先に立ち上がって、こちらに向かって一直線に走ってくる。
5歳児のようだ。
「はい!」
そう差し出されたのは
「え!?四葉!?」
何度確認しても4枚の葉が着いたクローバーだった。
「え、本物?」
「本物でしょ笑 今そこで見つけたんだから笑」
「え、まじ?やば、え、やばー」
「ギャルかよ」
でもそんな拙い語彙しか出てこなかった。
初めて四つ葉のクローバーを生で見た。
1枚増えただけだというのに凄く輝いて見えたのは、仁人が見つけ出したからだろうか。
「これもあげる」
「え、いや流石に…」
「いいから!」
強引に手のひらに乗せられ、「もらって」と微笑まれた。
「…ありがとう」
帰り道、いつもはしてくれない恋人繋ぎも不思議と許された。
「急にどうしたの」
今度は曖昧に流されず、代わりに間を置いて返事が来た。
「クローバーの花言葉知ってる?」
それは聞いたことがある。有名な、たしか…
「…復讐じゃね?」
思い出すと、いたずらっこのような可愛い笑顔で笑われた。
「え、復讐なの?俺なんかした?ねぇ仁人」
「べつにー」
そのまま、するりと手を解かれて駆け足で進んで行った。
あとでクローバーの花言葉をもっと調べよう。
駆け出した仁人を追いかけて後ろから抱きしめる。
「捕まえた」
「捕まった」
広場から出るとある程度人がいたので、すぐに横並びになって歩く。
「…で、なんで?」
「まぁ、最近疲れてそうだったし…」
「俺が?」
「勇斗が。」
たしかに予定はつめつめだったが、寝る時間も、こうやって休む時間も取れているからそうは感じなかった。
「これはリーダーとして言いますけど、最近あんま笑えてないからね、勇斗」
「え、うそ」
「ほんと。無理に笑えとは言いませんけど、もうちょっとアイドルらしい顔して」
そういって頬をツンツンとつつかれる。
恋人としてもリーダーとしても100点満点なその笑顔に、自分の顔も自然と綻んでいくのが分かった。
…ニヤケている…の方が正しいだろうか…。
「どう?癒された?」
「…うん」
「この前ここ通ってさ、絶対勇斗連れてきたいって思って。」
その一言が嬉しかった。
この景色を見て、俺を思い出してくれることが。
「…ありがと」
「どういたしまして」
木漏れ日の下、また恋人繋ぎをしてのんびりと歩く。
通行人がこちらを見て微笑むのが見えて、自分が冠を被っていたことを思い出す。
それと同時に、撮影時間までもう少しだと気付いた仁人が走り出した。
まるでヘンゼルとグレーテルのように、駆け出した道にはシロツメクサの花びらが散らされて行った。
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