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重い足取りでバスルームに向かい、髪を乾かしている時に思わず涙が込み上げてきた



一瞬だけ昨夜のキスを思い出してみる、あんな風に情熱的に優しく男性に、抱きしめられたのは本当に久しぶりだ


彼の体はとてもあたたかかった



昨夜のキスにはまったく初めてと言っていい程の感覚を覚えた、あれほど純粋に欲望を感じ、われながら驚くほど全身が熱くなった経験は今までにない


そうなったこと自体が驚きであり、恐怖の根源である気がする



すでに一生分の暴力を経験した、あとの女にとっては荒々しくて激しい、心を翻弄される関係など今の自分には不必要に思われた




望んでいるのは傷つくことも失う事もない、平和で静かな生活だ



彼は私より4つも年下だし本当の事を話してしまえば、私が抱えている重荷を背負いこみたくないに違いない


性的虐待をされていたということ自体が、私自身も深く考えたくないと思っている面倒な重荷なのだから



どうにかして彼とはお友達止まりでいたい



私はタオルを置き、かたわらでのんびり丸くなっているポポを見下ろした、私を目があうとポポは散歩用のリールを加えて私の所に寄って来てしっぽを振った



「私は一人前の女性よ」


ポポに語りかける



「さぁお散歩に行きましょ!」



デニムに白いシャツを羽織り、ゆっくりと正午近い休日を楽しむ


「今日は少し遠出しましょう」



サングラスをかけ、出かけるのが好きなポポはすっかり上機嫌で、車の助手席の窓から顔を出して必死に風を受けようと首を伸ばしている


こんな小さな子犬がうっかり車から落ちたりなんかしたら大変だ


なので私はしっかりポポのリードを自分に引き寄せた



初夏の午後の空気は澄んでいて、少しポポと公園で散歩を楽しんだ後、ポポを連れて大型ペットショップのあるモールに出かけて買い物をした



大荷物を抱えて帰って来て、家の前の駐車場に車を止めて、ポポが玄関口の階段をえっちらおっちら登るのを辛抱強く待っている時に、なんだか異臭に気が付いた


首をまげてこの焦げ臭い匂いがどこの家から漂ってきているのか


周りを見渡してみると、なんと1階の一番端の柚彦君の部屋のまどから黒い煙が立ち込めてきている



「大変!」



私はポポと彼の部屋に駆けだした






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