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視点:屏風ヶ浦
四季「……え?」
不意に名前を呼ばれたみたいに、私は顔を上げた。
一ノ瀬さんが、驚いたようにこちらを見ている。
四季「いや、何言ってんだよ。 屏風ヶ浦!」
少し強めの声。
冗談みたいに笑って、でもどこか急いでいる。
「大丈夫って言ってんだから、大丈夫に決まってんだろ?」
屏風ヶ浦「そう……ですね」
私は頷いて、視線を落とす。
それ以上、何も言えなかった。
本当は、
無理しないで
その一言を伝えたいだけなのに。
心配してるって言えば、重たい気がして。
大丈夫じゃないんじゃないかって言えば、否定するみたいで。
結局、私はいつもこうだ。
言葉を選びすぎて、何も言えなくなる。
一ノ瀬さんは、何事もなかったみたいに前を向く。
さっききゅっと握られていた指先も、もう緩んでいた。
でも――
私は知ってしまった。
あの仕草も、あの視線の逸らし方も、
全部「平気なふり」だって。
だから余計に、胸の奥が静かに痛んだ。
伝えられなかった言葉が、
喉の奥に残ったまま、消えてくれなかった。
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