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【四年後】





桜の花びらが散りきった、4月の末





新緑が芽吹くこの季節、小さな田舎町で唯一の大きな冠婚葬祭施設は、特別な賑わいに包まれていた




白い漆喰の壁とオレンジ色の尖った屋根を持つ二階建てのその施設は、町の中心から少し外れた丘の上に建ち、普段はひっそりと佇んでいる




しかし今日は、沙羅と力の結婚式のために、色とりどりの花と笑顔で飾られていた





施設の庭は、町の花屋や業者が前日から入り、ガーデンウエディングのために美しく整えられていた





芝生の上には白いテーブルクロスがかけられた長テーブルが並び、隣の長い白テントには、町一番のイタリアンレストラン「ラ・ルーチェ」のシェフ達が腕を振るうガーデンビュッフェが用意されていた





トマトとバジルのカプレーゼ、焼きたてのフォカッチャ、牛肉のロースト、彩り豊かなパスタが並び、春らしいレモンのタルトや苺が乗ったケーキが宝石のように輝き、ゲストの目を引く





各自、白いテーブルの中央には野の花をあしらった可愛らしいセンターピースが置かれ、風に揺れるたびにラベンダーの香りが辺りに漂った





二人が育ったこの人口少ない田舎町は、どこか時間がゆっくり流れるような場所だった




のどかな田んぼと遠くに連なる低い山々が広がり、町のメインストリートには、駅前に古びた商店街と、週末だけ開く小さなマルシェがあるくらいで、普段はとても静かな町だ





しかし、地元民の沙羅と力の結婚式とあって、町の人々はまるで自分達の家族の祝い事のように心を弾ませていた。この施設は、町の住人なら誰もが結婚式を挙げ、そして葬式をあげる場所、沙羅の両親も、力の両親も、ここで結婚式をした




今日、若い二人がその歴史に新たな一ページを刻もうとしている




結婚式開始1時間前になると、施設の10倍はある無法地帯の駐車場にぞくぞくと車が停まり、ゲストたちがワイワイと集まって来ていた





沙羅と力の結婚式の主賓は高校の同級生達が主で、懐かしい笑い声が庭に響く、サッカー部だった健太は、スーツ姿で少し照れくさそうにビールを手に仲間と談笑し、吹奏楽部だった沙羅の旧友達は、スマホでバラのアーチを背景に自撮りをしている




留袖姿の沙羅の近所のおばさん達は、ビュッフェの料理を品定めしながら




「沙羅ちゃん、ほんと美人さんになったねえ」




と囁き合う。春の陽気と、素朴な町の温かさが、会場を優しく包み込んでいた




施設の二階、花嫁控室では、沙羅が大きな姿鏡の前に静かに座っていた、春の光が花嫁控室の窓から差し込み、沙羅のウエディングドレスをきらめかせていた



純白のビスチェタイプのウエディングドレスは、彼女の華奢な肩と柔らかな曲線を美しく引き立てていた。裾に広がるチュールはラインストーンが光を受けて花嫁を輝かしく照らしている



沙羅の長い髪はゆるく編み込まれて、三つ編みが両サイドに垂れ、春らしい可憐さで、まるで花の妖精だ



鏡に映る自分を見つめながら沙羅は胸の奥で膨らむ喜びをそっと押さえ、深呼吸した






今日・・・力と私は夫婦になる

・:.。.・:.。.







この田舎町の教会で、町中の祝福を受けて、二人で新しい一歩を踏み出すのだ



バターン!

「沙羅! おめでとー!」


「沙羅――――!!」





突然、ドアが開き、弾けるような声が響いた

振り返ると、親友の真由美と陽子が結婚式らしく、めいっぱいおしゃれした姿で飛び込んできた




キャー!!

「真由美!陽子!来てくれて嬉しいーーー!」





沙羅は思わず立ち上がり、三人は抱き合った、陽子のふんわりした薄紫のシフォンのドレスは、彼女の明るい笑顔にぴったりで、真由美のシックなグレーのドレスは利発な彼女らしくとても良く似合っていた





「沙羅、めっちゃ綺麗! ほんと、花嫁って感じ!」





陽子の声は、控室の静けさを一瞬で明るくした。この日のためにわざわざ地方の大学から駆けつけた真由美も満面の笑顔だ、沙羅は二人を見て懐かしい記憶が蘇った、高校時代、三人で放課後にファミレスで夢を語り合い、テスト勉強をサボって笑い転げた日々、力と喧嘩した時、この二人が仲を取り持ってくれたこともあったっけ・・・




あの頃の無邪気さが、今も真由美の笑顔に宿っている





「ほんと、沙羅、こんな素敵な花嫁になるなんて! 力、絶対鼻高々だよ!」




真由美は沙羅の手を取り、くるっと回らせてドレスを眺めた




「私達の中で沙羅が結婚一番乗りね!」




「いいなぁ~、あたしも早くこんな素敵な結婚式がしたい~」



「まず相手を見つけなくちゃね!」





二人が沙羅を囲んで祝福の言葉を次々に述べる





えへへ・・・

「ありがと・・・なんか、緊張してきた」





沙羅は照れ笑いを浮かべ、鏡に目を戻した





「誓いの言葉・・・ちゃんと言えるかな~」



「言えなくても大丈夫!めっちゃ最高の花嫁だよ! 力の事を愛してるんでしょ!」



「それだけで十分よ!」



「堂々として」



「むしろ力の方が心配だわ」






真由美は沙羅の肩をポンと叩き、ウィンクした





「町のみんなも沢山来て祝福してるよ、外、めっちゃ盛り上がってるから!」





沙羅は窓の外をちらりと見た。庭では、ゲスト達が早く食べたいとばかりに、ビュッフェコーナーを眺めている。子供たちがバラのアーチの下で追いかけっこをしている、遠くの田んぼでは、春風が稲の苗を揺らし、陽光がキラキラと反射する




どこを見ても見知った顔が溢れ、すべてが平凡で、だからこそ愛おしい、この町で育ち、この町で愛を誓うこと、そしてこの町で死んで行く、そのシンプルな幸せが沙羅の心を満たした







「真由美、ありがとう・・・あなたとは小学校の時から、いつも傍にいてくれたよね、今日もこうやって・・・」


沙羅は真由美の手を握り、目を潤ませた





グスッ・・・

「やめてよ、泣かないで! 私まで泣いちゃうじゃん!」



「せっかくのヘアメイクを早速崩す気?」





真由美と陽子は笑いながら沙羅の目元をハンカチでそっと拭った





「力と絶対幸せになるわ、私、応援してるから!」



「沙羅、ほんと美人すぎ! 力、絶対メロメロだよ!」


「本当におめでとう!」





沙羅は力との未来が、この町の温かな祝福とともに、きっと輝くことを信じた





「ねぇ!力は?」



真由美が言う




「それがまだ来てないの」





沙羅は少し心配気味に言った、その言葉に陽子も驚いた






「いくら花婿はスーツを着るだけって言ってもそろそろ来ないとダメよ!まさか寝坊してるんじゃないでしょうね?」




「バカなの?力は?」



「バカだけど歌わせたら天才よ」



「天は二物を与えずって言うものね」



「ちょっと!人の夫になろうとしている男性をコケにして面白い?」







キャハハハハと三人は笑った




花嫁控室にまでゲストの笑い声とイタリアンビュッフェの香りが春風に運ばれてくる。すべてが完璧だった、沙羅の心は幸福の頂点でふわふわと浮かんでいた




あとは力の到着を待つのみ・・・沙羅はもう一度力のスマホにメッセージを入れてみようかと思った、道が渋滞しているのだろうか?





その時、控室のドアが開いて力の幼馴染で、バンドのベーシストでもある雄介が足早に入ってきた




紺色のスーツに身を包み、いつもは飄々とした笑顔を浮かべる雄介の顔が青ざめ・・・

額には汗が滲んでいる





―?―






沙羅の胸にかすかな違和感が走った





「雄介! やっと来た! 遅いよー!」





真由美が無邪気に笑い、高校からの仲良しのクラスメイトの雄介に駆け寄った、だが、彼は硬い表情で真由美を制した





「真由美、ちょっと来て・・・」





雄介の声は低く、震えていた





「外で話したい」






真由美の笑顔が一瞬凍り、沙羅の視線が二人に釘付けになる





「え、なに? どうしたの?」






真由美が首を傾げるが、雄介は答えず、彼女の手を引き控室の外へ連れ出した、真奈美は二人を一瞥すると不審に思いながらも雄介について行った




ドアが閉まる音が妙に大きく響く





沙羅と陽子は鏡の前で立ち尽くし、胸の違和感が冷たい棘に変わる





「なぁに~?あれ?」



「・・・わかんない・・・」




なぜか沙羅は胸騒ぎがし、ドレスの裾を握る手が震えた



なにこの空気? なにかがおかしい、幸せなはずのこの瞬間、なぜか空気が重く息苦しく感じた





暫く二人は無言のまま・・・



花嫁控室の静寂が沙羅の耳に不気味に響く、窓の外のゲストの笑い声が、遠く・・・まるで別の世界のもののように聞こえる




たまらず沙羅が力が来たか確認しようとドレスの裾をたくし上げ、ドアに近づこうとした




その時、ドアが再び開き真由美が戻ってきた、だが、真由美はさっきまでの明るさは消え、目は涙で一杯で、頬を伝う涙がグレーのドレスに小さな染みを作る




沙羅の心が凍りついた






「真由美!? なに!? どうしたの!?」



「うわ~~ん!沙羅~~~~!!」






真由美は沙羅に抱き着き、大声を上げて泣き出した、泣きじゃくり、言葉にならない嗚咽を漏らしている




後ろから雄介と力の友人がゆっくり入ってきた、二人の顔はさらに青ざめ、沙羅から目を逸らしている





「雄介! 教えて! なにがあったの!? 力に何かあったの!? 交通事故!? 病気!?

力は大丈夫なの?」





沙羅の声は恐怖でひび割れていた、力の顔が脳裏に浮かぶ・・・




あの星空の下でプロポーズしてくれた力、あの笑顔がもし消えたら・・・



沙羅の視界が揺れ、ドレスの重さが急に耐え難いものになった






「いいや・・・力は元気だよ・・・」






雄介の声は掠れ、まるで地面に沈むようだった、彼の言葉に沙羅の心が一瞬安堵で緩む





ヒック・・・ヒック「沙羅・・・沙羅・・・」



「真由美・・・沙羅のドレスが・・・」






まだ沙羅の首にしがみついて泣いている真由美を陽子がたしなめる




真由美の涙がドレスのレースに染み込む、沙羅の頭が混乱でぐるぐる回る





力は元気なの?


元気ならなぜ来ないの?


なぜ真由美が泣くの?


なぜ雄介がそんな顔をしているの?




その時、ドヤドヤと足音が響き、花嫁控室に新たな人影が現れた、沙羅の両親と力の父親だった



留袖姿の沙羅の母は、いつも穏やかな笑顔を浮かべる女性だが、今は唇を固く結び、目が赤く腫れている。同じくブラックの燕尾服の沙羅の父は拳を握り、うつむいている





力の父親『笹山健一』は、力そっくりのがっしりした体を縮こまらせ、まるで沙羅を直視できないように目を逸らす、そして力の父は白シャツにスラックス姿だ・・・




どうして結婚式の花婿の父らしく正装していないのだろう






空気が一瞬で凍りつき、沙羅の心臓が締め上げられる







なに? 何なの?この重苦しい空気は何?





「沙羅・・・」


「どうしたの?お母さん!」





母が静かに、だが震える声で口を開いた






「結婚式は・・・中止よ」






母のその言葉は、鋭い刃のように沙羅の胸を貫いた




中止? 沙羅の視界がぐらりと揺れ、ドレスの裾を握る手が滑り落ちるた






「・・・どういうこと!?中止って何があったの?」






沙羅の声は最後は叫びに変わった、真奈美の嗚咽がさらに大きくなり、今や陽子も泣いている





「力は? ねえ、教えてよ!力はどこにいるの? 力のところに行かせて!」





沙羅は母に詰め寄り、ドレスの裾が床を引きずる。涙が溢れ、頬を濡らす




どうして力は私の隣にいないの?あのスイカ畑の夜、星空の下で誓った愛が消えるはずがない





その時、力の父親がようやく口を開いた。声は低く、まるで地面に沈むようだった







「沙羅ちゃん・・・申し訳ない・・・」






力の父は一瞬沙羅を見たが、すぐに目を伏せた






「力は・・・君とは結婚できないと言っている」







力のお父さんが言っている言葉が入ってこない・・・ガラスが粉々に割れるような鋭い音が頭の中で響く






「・・・意味がわからないわ・・・」







彼女の声はか細く、消えそうだった






―結婚できない? 力は自分の意思でここに来ないの? ―







沙羅の視界が暗くなり、足元がぐらつく






「沙羅っ!!」







真由美が咄嗟に沙羅の体を支えるが、沙羅の体は冷たく、まるで魂が抜けたようだった、沙羅は力の父親をすがるように見つめた






「嘘!そんなの嘘よ!・・・力は・・・力はそんなこと言わないわっっ! 」






涙が止まらず、ポタポタとドレスの胸元を濡らす・・・だが、力の父親はただ首を振るだけだ







「すまない・・・力は・・・もうこの町にはいないんだ・・・」






それを聞いた沙羅の心が砕け、奈落の底へ落ちていった






幸せの絶頂だったはずのこの瞬間、春の光も、ゲストの笑い声も、ビュッフェの香りも、すべてが色褪せる




力の笑顔が沙羅の脳裏で遠ざかる・・・あのスイカ畑の夜、星が降るように輝いていた約束は、嘘だったの? 沙羅の膝が崩れ、真奈美が必死に抱きしめる







「沙羅!沙羅!しっかりして!」







真由美の声も涙に濡れている、控室の空気が鉛のように重く沙羅を押し潰す




窓の外では、知らずに笑うゲスト達の声がまるで嘲笑のように響く








沙羅の目から涙がとめどなく溢れた、ドレスの白が、まるで彼女の砕けた心を映すように冷たく光る、部屋にいるみんなの顔が涙で歪み、ぐるぐる回る







どうして力はこないの?


愛してるって言ってくれたのに



結婚しようねって二人で沢山準備したのよ?






沙羅の足元がまるでパッカリ割れ、奈落の底に落ちて行く感覚を味わった、頭から血の気が引く、もう一度沙羅は叫んだ












「こんなの!何かの間違いよーーー!!」













目の前が暗く暗転していく世界に沙羅の叫びだけが






ただ・・・虚しく響いた




















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