五話
ーーーーーーーーー
それぞれのグループに集まることになり、美玖が私の元までやってくると空いている隣の席に座る。間宮くんに声を掛けに行くべきだろうか。
迷っていると、立ち上がったのが見えた。
目が合いそうになって、咄嗟に視線を落とす。何も声を掛けず、わざわざこっちまで来させてしまうなんて、不満を抱かれたかもしれない。怒りっぽいという彼の噂を思い出し、手のひらの汗が滲んでいく。
私の目の前の席の椅子を引くと、気怠そうに腰を下ろした。横向きになっていて、椅子の背に腕が置かれる。肘が私のペンケースに触れそうで、邪魔になっているかも。
でも退かしたらよくない意味に取られるだろうか。
彼の一挙一動が気になって落ち着かない。
「今配った紙を確認して、グループごとに話し合って」
実行委員の子から渡されたのは、担任が作成した各グループの役割詳細だった。
私達のグループは、他のグループと連携を取りながら全体のスケジュールを組み、随時進歩を聞きながらスケジュールを管理していくサポート係みたいだ。そして文化祭当日、展示の前に立つ人のスケジュールも決めなければならない。
「え~…..なんか意外とめんどそう」
やめておけばよかった、と美玖が口を尖らせた。けれど他のグループも決定してしまったので、今更撤回もできない。
「こんなのあるなら先に配ってほしかったな~」
美玖が不服そうにしながら、プリントの端を指先でくるくると丸める。
「美、」
「てかこれ、私達でどこまで進めちゃっていいの?当日までの制作スケジュールって、作業する人達に聞かないと難しくない?」
言葉を迷っているうちに、話がどんどん進んでいってしまう。美玖の会話のペースに乗り遅れてしまい、唇を結ぶ。
実行委員の子がプリントの束を持っていて、配ろうとしてたよ。私達が先にスケジュールをやりたいって言ったから、先に進めてくれたのかも。
…そう言えばよかった。
なるべく相手を不快にさせないように、上手に話したい。そんなことを考えすぎて、いつも私は話すタイミングを失ってしまう。
「プリント配る前に若凪がスケジュールやりたいって言ったからだろ」
間宮くんは不機嫌そうに美玖を見やる。彼が話し合いに参加してくれることに驚きながらも、美玖は指摘されたことが面白くなさそうだった。
「…それ私のせいってこと?」
「実行委員は悪くねぇだろってこと。それよりスケジュール。早く決めねぇと他のグループが困る。」
二人の間に微妙な空気が流れ始める。なにか言わなくちゃ。だけど沈黙の時間が長引くほど、次の言葉が重くなっていく。
「え、マジ?!此れ絶対いい案だと思ったのに~!」
窓側から大きな声が響いた。誰か一人が噴き出すと、小さな笑い声が波紋のように広がる。展示のテーマやデザインを決めるグループだ。
美玖と同じ人前に立つのが得意な橙色を纏った男子が中心となっていて、楽しげな雰囲気だった。彼らとの温度差に私達の空気はますます淀んでいく。どうしたらこの空気が変わるのか、良い方法が浮かばない。それに私がこうしようなんて提案しても、二人の意見は違うかもしれないし、張り切りすぎて面倒だと思われたくない。
こんな時、あの子だったら。きっと上手にまとめてくれた。教卓側に集まっている制作グループし視線を向ける。赤いオーラを纏っていて、肩の長さくらいのウルフカットの女子がすぐ目に止まった。真剣な表情で何かを話している彼女の姿は、夏前と変わらない。変化があったのは私の視界と、私達の距離だけ。
彼女の視線が近くにいた女子から、廊下側へと流れていく。その瞬間、目があった気がして慌てて俯いた。
心臓が嫌な音を立てて、思い出したくない記憶を蘇らせる。閉じ込めて目を逸らしていた。出来事の再生ボタンが無遠慮に押されて、当時の光景が脳裏に流れていく。
ーーーーーーーー
next 六話
(♡よろしくお願いします!)
コメント
6件
うぬ、関係ない話だけどさ
???