[星降る夜の約束]
若井side
駅前のロータリーは、夜になると人影もまばらで、街灯だけがぼんやりとオレンジ色に光っていた。
俺は、約束通り涼架を駅で待っていた。
携帯の画面を眺めながら、たった今彼女からかかってきた電話を思い出す。
『行くに決まってるじゃん!若井が言ったんでしょ!迎えに来なさいよ!」
そんなことを言われるのは分かっていた。
分かっていたのに、自分の心臓はさっきからずっとうるさいくらいに跳ね続けている。
その時、向こうから見慣れた自転車が近づいてきた。
「遅いぞ、お嬢さん」
涼架は、俺の顔を見るなり、少し息を切らしながら言った。
「別にいいでしょ。若井が急に呼び出したんだから、文句言わないの」
「わかってるって」
俺はそう言いながら、涼架の自転車のハンドルに、おもむろに手を伸ばした。
「ん、なに?」
「二人乗りする。お前の自転車に」
「はあ?なんで?」
「俺、乗り物酔いするから」
「嘘でしょ!?」
涼架は呆れたように俺を見つめた。
涼架サイド
若井のいつもの、人をからかいような目が、今は少しだけ真剣に見えた。
「お願い」
「…しょうがないなぁ」
結局、私が自転車を漕ぎ、若井が後ろに乗ることになった。
「重いんだけど…」
「ちょっとくらい我慢しろよ」
そんな軽口を叩きながら、二人は街灯の明かりを背に高原に向かって、ペダル漕ぎ出した。
夜の道は、車通りも少なく、ひんやりとした風が二人の間を通り過ぎていく。
「ねぇ、若井。本当に話ってなんなの?」
「着いてからのお楽しみ」
「…ま、どうでもいいんだけどね」
私はそう言ったけど、どこか不安げな声だった
若井は、そんな私の気持ちを察したのか、少しだけ口を開いた。
「涼架、お前、本当に音楽大に行くんだな」
「うん。もう決めたから」
若井side
涼架の声に迷いはなかった。
俺は、自分の胸が締め付けられるのを感じた。
「そっか。俺もさ、元貴とバンドでやってくって決めたから」
「知ってるよ」
「…そっか」
それ以上の会話はなかった。
二人の間には、ただ静寂が流れる。
この時間が、永遠と続けばいいのにと俺は心の中で願っていた。
でも、もうすぐ、俺たちはバラバラになってしまう。
この道が、別れ道だとしても、俺は今、 この手でその意味を確かめに行かなければならない。
自転車のタイヤが、アスファルトの上に擦れる音だけが響く。
「はぁ…もう、重いんだけど!」
涼架は、俺を後ろに乗せた自転車を漕ぎながら、何度も文句言った。
俺は、涼架の背中に身を預け、涼架のリュックを背負ったまま、得意げに笑った。
「リュックが重いのか、俺が重いのか、どっちだよ」
「両方だよ!ってか、若井が重い!もう、漕ぎたくない…!」
涼架が自転車を止め、大げさにため息をついた
俺は、そんな涼架の様子を見て、少しだけ笑いをこぼす。
「いいじゃん、別に。お前の運動不足解消になるだろ」
「そう言う問題じゃないし!普通、こうやって二人乗りする時は、男子が漕ぐもんでしょ!」
涼架はぷんぷんと怒りながら、俺を睨みつけた。
俺は、涼架の真剣な顔を見て、ふっと微笑んだ
「別にいいじゃん。お前が運転して、俺がナビしてやるよ」
「ナビなんていらないし!てか、若井、なんでそんなことするの?」
涼架side
涼架は、ただの冗談じゃないと悟った。
若井のいつものおどけた顔とは違う、どこか寂しそうな、少しだけ真剣な表情がそこにあった
「別に…。ただ、お前が漕ぐ後ろに乗るのが、俺は好きなだけ」
「……。」
私は何も言えなかった。
ただ、若井が後ろにいる、その温もりを感じていた。
もうすぐ二人はそれぞれの道に進む。
それが寂しいことだと、二人とも分かっていた
私は、再びペダルを漕ぎ始めた。
重いペダルが、二人の間に流れる静かな時間をゆっくり進めていく。
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[オーロラの導き]
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コメント
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両片思い?